インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国企業マインドは政府統計で底打ちの一方、民間統計は頭打ち

~対症療法的な内需喚起策の持続力は見通しにくく、中国経済を取り巻く環境は厳しい展開が続く~

西濵 徹

要旨
  • 中国経済については、昨年末以降のゼロコロナ終了にも拘らず、雇用悪化が家計消費の重石になり、不動産市況の低迷が関連セクターのみならず幅広い経済活動の足かせとなる状況が続く。当局は内需喚起策や金融緩和を通じた景気下支えに動いており、足下では大都市部で不動産市況が底打ちする動きがみられる。ただし、地方部は底のみえない状況が続くなど、景気の足かせとなる状況は変わっていないと言える。
  • 9月の企業マインド統計は、政府統計ベースでは製造業、非製造業ともに頭打ちしてきた流れが底打ちするなど、一見改善している様子がうかがえる。製造業は50.2と6ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準を回復する一方、非製造業は建設業頼みの状況が続くなど本格回復にほど遠い。さらに、マインド改善にも拘らず雇用拡大に及び腰の姿勢がうかがえるなど、家計消費の回復を期待することは難しい状況にある。
  • 一方の民間統計ベースでは、製造業で底打ちの動きに一服感が出ている上、サービス業は頭打ちの動きを強めるなど政府統計と対照的な動きがみられる。製造業は50.6と50を上回る水準を確保するも、内需の弱さが重石となり、サービス業は50.2と年明け以降で最も低い水準となるなど頭打ちの動きを強めている。世界経済との連動性の高さを勘案すれば、足下の中国景気は頭打ちの動きを強めていると捉えられる。
  • 対症療法的な内需喚起策が先行きの中国景気にとって息の長い回復を促すかは見通しにくいなか、世界経済にとっては中国の代わりも居ないなかで極めて厳しい状況が続くことを想定せざるを得ないと言える。

中国経済を巡っては、昨年末以降のゼロコロナ終了にも拘らず、若年層を中心とする雇用回復が遅れるなかで家計部門の財布の紐が固い状況が続いており、家計消費は力強さを欠く推移をみせている。さらに、家計部門が財布の紐を固くするなかで不動産需要も弱含みするなか、習近平指導部の下では過剰債務の圧縮を目指しており、この動きに伴い不動産セクターでは資金繰り懸念が高まり、結果的に不動産投資の足かせとなる事態となっている。なお、不動産需要が弱含みする背景には、中国の家計部門にとっては長らく資産運用手段が株式か不動産に限られてきたなか、不動産については価格上昇期待が資金流入を後押しする展開が続いてきた。しかし、上述のように不動産セクターでの資金繰り懸念の高まるなか、中国国内における不動産の商習慣も影響して完工、引き渡しに行き詰まる動きが顕在化し、結果として需要が低迷する事態を招いた。さらに、雇用環境の悪化も不動産に対する需要低迷を通じて市況悪化を招いており、そのことが資金繰りのさらなる悪化に繋がるとともに、不動産を担保とする銀行セクターの貸出態度の悪化を招いて幅広い経済活動の足かせとなった。こうしたことから、党、及び政府は内需喚起に向けた取り組みを強化するとともに、不動産セクター支援を目的に中銀(中国人民銀行)も利下げや預金準備率の引き下げなどを通じた金融緩和に舵を切るなど、財政、金融の両面で景気てこ入れを図る動きをみせている。また、政府は不動産市況のてこ入れを目的に融資規則や住宅購入規制の一部緩和をはじめとする住宅購入支援策に動いており、足下では北京など大都市部において不動産販売が底打ちする動きが確認されている。他方、地方都市においては依然として下げ止まりの兆しは見られない状況が続いており、独自財源の乏しい地方政府にとっては不動産関連収入が財政上の『打ち出の小槌』となってきたことを勘案すれば、不動産市況の低迷は関連収入の減少を通じて財政支援の足かせとなることが懸念される。そして、不動産市況の低迷は不動産を所有する家計部門にとって逆資産効果を通じて消費意欲の足かせとなることも懸念されるなど、その動向は中国経済の行方を大きく左右することは避けられない。

図表1
図表1

足下の中国経済を取り巻く状況は、不動産市場を巡る不透明感がくすぶる一方、政府や中銀による政策支援の効果の行方に注目が集まるなか、政府(国家統計局)が公表した9月の製造業PMI(購買担当者景況感)は50.2となり、前月(49.7)から+0.5pt上昇して6ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準を上回るなど、底入れの動きを強めている様子が確認されている。足下の生産動向を示す「生産(52.7)」は前月比+0.8pt上昇するなど生産活動が活発化しているほか、先行きの生産に影響を与える「新規受注(50.5)」も同+0.3pt上昇して2ヶ月連続で50を上回るなど、内需喚起策の効果が発現している様子がうかがえる。一方、「輸出向け新規受注(47.8)」は前月比+1.1pt上昇するも依然として50を大きく下回る推移が続いており、米中摩擦に加え、世界的なデリスキング(リスク低減)を目指したサプライチェーンの見直しの動きが外需の足かせとなる状況が続いている。ただし、上述のように内需関連を中心に受注の底打ちが確認されているにも拘らず「受注残(45.3)」は前月比▲0.6pt低下しており、中小・零細企業を中心に需要不足に直面する状況は変わっておらず、政府による内需喚起策の恩恵は大企業に留まっている可能性が高い。さらに、足下では商品市況が底入れの動きを強めていることを反映して「購買価格(59.4)」は前月比+2.9pt上昇して17ヶ月ぶりの水準となるなど川上段階でインフレ圧力が強まる動きがみられる一方、需要不足が続くなかで商品価格への転嫁は難しい状況が続いているとみられるなど、業績の圧迫要因となることが懸念される。また、生産拡大の動きが広がるなかで「購買量(50.7)」は前月比+0.2pt上昇するなど原材料需要が拡大する動きがみられる一方、「輸入(47.6)」は同▲0.7pt低下して引き続き50を下回る推移が続いており、中国における生産拡大の動きが世界経済にとってプラスになりにくくなっている。他方、生産拡大にも拘らず「雇用(48.1)」は前月比+0.1ptとわずかな上昇に留まるとともに、50を下回る推移が続くなど雇用調整圧力がくすぶるなど、引き続き家計消費の足かせになることが懸念される。

図表2
図表2

一方、不動産市況の低迷に加え、家計消費をはじめとする内需の低迷の動きは建設業やサービス業など非製造業の企業マインドの足かせとなる状況が続いてきたものの、9月の非製造業PMIは51.7と前月(51.0)から+0.7pt上昇しており、今年3月をピークに低下傾向が続いた流れに変化の兆しがうかがえる。業種別では、不動産市況の低迷を受けて頭打ちの展開が続いてきた「不動産(56.2)」は前月比+2.4pt上昇して2ヶ月連続で上昇しており、政府による不動産需要喚起策などを追い風に底入れの動きを強める一方、「サービス業(50.9)」も同+0.4pt上昇するなど頭打ちが続いた流れに変化の兆しが出ているものの、足下の企業マインドは建設業により下支えされている。足下の経済活動に底打ち感が出ている一方、先行きの生産活動の動向に影響を与える「新規受注(47.8)」は前月比+0.3pt上昇するも依然として50を下回る推移が続いているほか、「輸出向け新規受注(49.4)」も同+1.5pt上昇するもともに50を下回るなど受注動向の回復が遅れている。上述したように、製造業企業においては商品市況の底入れの動きを追い風に原材料価格の上昇に直面するなか、非製造業においても「投入価格(52.5)」は前月比+0.8pt上昇して1年半近くぶりの水準となるなど企業部門は幅広くインフレ圧力に直面している。一方、「出荷価格(50.3)」は前月比+0.3ptの上昇しているものの、そうした動きは建設業で進む動きがみられる一方、サービス業については価格転嫁が難しい様子がうかがえるなど、家計部門の財布の紐の固さが影響しているとみられる。そして、頭打ちの動きが続いた企業マインドの底打ちにも拘らず「雇用(46.8)」は前月比±0.0ptと横這いで推移するとともに、50を大きく下回る推移が続くなど雇用調整圧力がくすぶる展開が続いており、製造業と同様に雇用拡大に及び腰の状況にあると捉えられる。なお、製造業と非製造業を併せた総合PMIも9月は52.0と前月(51.3)から+0.7pt上昇するなど底打ちしているものの、7-9月平均は51.5と4-6月平均(53.2)から▲1.7pt低下しており、足下の景気は頭打ちの様相を強めることは避けられそうにない。

図表3
図表3

なお、政府統計以上に世界経済との連動性が高いとされるS&Pグローバルが公表した9月の財新製造業PMIは50.6と2ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準を上回るも、前月(51.0)から▲0.4pt低下しており、上述のように政府統計が底入れの動きを強めているのと対照的な動きをみせている。なお、足下の生産動向を示す「生産(51.8)」は前月比+0.2pt上昇するなど生産活動は底入れの動きを強めている一方、先行きの生産に影響を与える「新規受注(51.1)」は同▲0.1pt低下しており底入れの動きに早くも一服感が出ているほか、「輸出向け新規受注(49.1)」は同+1.1pt上昇するも依然として50を下回る推移が続くなど外需の回復は道半ばの状況にあるなど、受注動向に不透明感がくすぶる。なお、上述のように商品市況の底入れの動きが企業部門にとって幅広くインフレ圧力となっているように、「投入価格(51.8)」は前月比+1.4pt上昇して8ヶ月ぶりの水準となっている。一方、「出荷価格(51.7)」も前月比+2.4ptと大幅に上昇して7ヶ月ぶりに50を上回る水準となるとともに、18ヶ月ぶりの水準となるなど大きく底入れしており、外需向けを中心に価格転嫁が進むことで世界的なインフレ圧力が一段と長期化する可能性も考えられる。さらに、生産活動の底入れが進む一方で「購買量(50.7)」は前月比▲0.5pt低下するなど底入れの動きが一服しており、中国の製造業が世界経済をけん引してきた流れが変化しつつあると捉えられる。そして、生産活動の底入れにも拘らず「雇用(48.7)」は前月比▲3.1ptと大幅に低下して2ヶ月ぶりに50を下回る水準に低下するなど雇用調整の動きを強めており、家計消費の劇的な改善は期待しにくい状況にある。

図表4
図表4

また、9月の財新サービス業PMIも50.2と引き続き好不況の分かれ目となる水準を維持しているものの、前月(51.8)から▲1.6pt低下して9ヶ月ぶりの低水準となるなど、昨年末以降に当局がゼロコロナ終了に舵を切ったことで年明け直後は底入れする動きが確認されたものの、3月をピークに頭打ちする展開が続いている。足下の経済活動は頭打ちの動きを強める一方、先行きの経済活動に影響を与える「新規受注(51.0)」は引き続き50を上回る推移が続くも前月比▲1.5pt低下するなど頭打ちの動きを強めているものの、「輸出向け新規受注(51.0)」は同+1.8pt上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、外需を中心に改善の動きが強まっている。ただし、「受注残(50.6)」は引き続き50を上回る推移が続くも前月比▲0.8pt低下するなど頭打ちしており、内需の低迷が受注動向の重石となっていると捉えられる。一方、製造業を中心に企業部門は商品市況の底入れを受けたインフレ圧力に直面しているものの、「投入価格(51.2)」は前月比▲0.7pt低下するなど底入れの動きに一服感が出ている一方、「出荷価格(50.9)」は同+0.5pt上昇するなど外需向けを中心に価格転嫁の動きが進んでいる様子がうかがえる。ただし、経済活動の頭打ちの動きを反映して「雇用(50.9)」は50を上回る推移が続くなど緩やかに拡大しているものの、前月比▲1.2pt低下するなどそのペースは鈍化しており、雇用回復による家計部門のマインド改善にはほど遠い状況にあると判断出来る。なお、製造業とサービス業を併せた総合PMIも50.9と前月(51.7)から▲0.8pt低下して年明け以降最も低い水準となっており、7-9月平均も51.5と4-6月(53.9)から▲2.4pt低下するなど、昨年末以降のゼロコロナ終了により底入れした景気は一転頭打ちの動きを強めている。

図表5
図表5

上述のように、政府統計に基づけば9月の企業マインドは底打ちしている一方、民間統計では頭打ちの動きを強めており、世界経済との連動性の高さを勘案すれば、中国景気の頭打ちを意識せざるを得ない状況にあると捉えることが出来る。足下では政府や中銀などによる内需喚起策の効果発現の兆しがうかがえるものの、企業部門は幅広く雇用拡大に及び腰の姿勢をみせるなど回復の見通しが立ちにくいなかで家計消費をはじめとする内需がすそ野広く底入れの動きを強める状況は見通しにくい。他方、世界経済を巡ってもコロナ禍からの景気回復をけん引してきた欧米など主要国景気は頭打ちの動きを強めているほか、米中摩擦や世界的なデリスキングに伴う中国回避の動きがみられることを勘案すれば、外需が中国景気の下支え役となることを期待することは難しくなっている。不動産セクターを巡る債務問題についても、大手の恒大集団の債務問題に改めて注目が集まる事態となるなど、2021年に同社の社債を巡る債務不履行(デフォルト)懸念が顕在化した後(注1)、当局による介入を通じて事態収拾が図られることが期待されたものの、その実態は一段と状況が悪化していた模様である。足下では当局の内需喚起策により部分的に市況の底打ちが進む動きがみられるものの、コロナ禍を経て人口減少局面入りが早まるなど人口動態が大きく変化するなか、過去に行われた対策の延長線上にある対症療法的な動きが状況の改善を促すかは見通しが立ちにくい。7月に施行された改正中華人民共和国反間諜法(反スパイ法)の影響で同国に居住する外国人、外資系企業を取り巻く事業環境も悪化する動きがみられるなか、ウクライナ戦争を機に一段と露わになった世界的な分断の動きが一層進むことも予想されるなど、世界経済と中国経済との連動性が希薄化することも考えられる。2000年代以降の世界経済にとっては中国の経済成長がけん引役となってきたことを勘案すれば、今後は中国経済にそうした役割を期待することは難しくなっている上、その代わりの役割を担う国が居ないことも世界経済にとっての悪材料となることに留意する必要があろう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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