株高不況 株高不況

日銀を動かす経済指標 ただし夏場は待機

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は現在のYCCを10‐12月期に修正するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)へ引き上げるだろう。利下げは24年1-3月を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.8%、NASDAQは+1.6%で引け。VIXは13.6へと上昇。
  • 米金利はブル・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.242%(▲3.7bp)へと低下。実質金利は1.526%(▲6.1bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲87.5bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSD安基調継続。USD/JPYは138近傍へと下落。コモディティはWTI原油が76.9㌦(+1.1㌦)へと上昇。銅は8694.0㌦(+194.5㌦)へと上昇。金は1963.8㌦(+2.1㌦)へと上昇。

図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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図表5
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経済指標

  • 米新規失業保険申請件数は23.7万件と前週比減少。4週移動平均値でも24.7万件と微減となっている。継続受給者数は172.9万人と緩やかな減少基調にある。良くも悪くも労働市場が悪化している様子は見受けられない。

図表6
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図表7
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図表8
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注目点

  • 7月の金融政策決定会合で日銀が政策修正に踏み切るとの見方がある。その背景を以下で整理していく。政策修正観測が生じた直接的なきっかけは7月7日に日経新聞が報じた内田副総裁のインタビュー記事で以下のような発言があったこと。一部市場参加者は政策修正の布石と認識し、10年金利は7月6日の0.41%から7月13日にかけて0.48%付近まで上昇、為替市場ではFedの利上げ終了観測の高まりと相まって円高が進行している。
  • 長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)の見直しは、金融仲介や市場機能に配慮しつつ、いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断していきたい。

  • このところ予想物価上昇率が高まっており、実質金利は一段と低下していると思う。そのもとで、今春の賃上げに見られるようにデフレ期に定着していた企業行動にようやく変化の兆しが出てきた。

  • もし(マイナス金利を)解除するなら実体経済面の需要抑制で物価上昇を防ぐのが適切と判断したということになる。0.1%の利上げだ。

  • またもう少し遡ると6月26日に発表された6月金融政策決定会合(15-16日)における主な意見の中に以下のような記載があったことも意識されている。次回以降の会合で金融政策の現状維持が決定される場合、それに対して反対票を投じる政策委員が登場するとの思惑が生じた。

「2%の持続的・安定的な物価上昇」の実現の可能性が高まりつつあるが、金融緩和全体については、待つことのコストは大きくないため、当面継続すべきである。ただし、そのツールであるイールドカーブ・コントロールについては、将来の出口局面における急激な金利変動の回避、市場機能の改善、市場との対話の円滑化といった点を勘案すると、コストが大きい。早い段階で、その扱いの見直しを検討すべきである。

  • また7月7日に発表された5月の毎月勤労統計が市場予想を上回ったことも重要。新体制移行後の日銀は「賃金上昇を伴った物価上昇」に重きを置いており、従来以上に賃金指標が注目されている。内田副総裁のインタビューが話題となる中、同日発表された現金給与総額(≒基本給+残業代+賞与)は前年比+2.5%となり2%超を達成した。連合が集計・公表する春闘賃上げ率(ベア相当部分)は約30年ぶりの高水準である2%で着地し、それが政府統計である5月の毎月勤労統計に反映され、晴れて「公式記録」となった形。現実の消費者上昇率を大幅に下回っているとはいえ、日銀の物価目標は上回っており、贔屓目にみれば、まずまずの賃金上昇が達成されているとの判断もできる。そして賃金の根幹である所定内給与(≒基本給)も、日本経済がデフレ入りする前の1990年代半ばと同程度の+1.8%へと跳ね上がった。春闘賃上げ率から判断すると6月以降は一段の加速が期待され、年度を通じて2%近傍の推移が予想される状況にある。このような公式記録が確認された以上、金融政策の修正観測が生じるのは、ある意味で自然だろう。

図表9
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  • ただし筆者は現時点で日銀の政策修正時期は10-12月頃になると判断している。これまでの植田総裁の発言も然り、当該インタビューにおける内田副総裁の発言も全体としてみれば、金融緩和の継続に肯定的な内容だった。金融市場参加者が注目したのは飽くまで内田副総裁の発言に内包されていた各論であって総論ではない。実際、内田副総裁は6日までに実施された共同通信の単独取材に対して以下のように従来からの見解を繰り返している。
  • 慌てて利上げをしていく環境には全くない。

  • 物価上昇率を2%で安定させる目標の実現が見通せない。

  • 金融引き締めに転じれば2%を実現できなくなってしまうリスクの方がはるかに大きい。

  • 企業の価格設定スタンスが上向く下で賃金上昇率が高まっているのは事実だが、5月分の数値を以って緩和修正の根拠とするのは拙速だろう。2023年度入り後のデータをもう少し蓄積し、かつ来年の賃上げ率を見通す上で重要な企業業績の行方にある程度の自信を持てる10-12月頃まで待つのが最も蓋然性の高い展開と考えられる。

藤代 宏一


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