株高不況 株高不況

転職ブームは終焉に(米求人統計) 賃金インフレは沈静化へ

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月130程度で推移するだろう。
  • 日銀は現在のYCCを10‐12月期に修正するだろう。
  • FEDはFF金利を5.25%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年1-3月を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国市場は下落。S&P500は▲0.6%、NASDAQは▲0.6%で引け。VIXは17.9へと上昇。
  • 米金利カーブはブル・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.177%(▲5.3bp)へと低下。 実質金利は1.475%(+0.8bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲76.4bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは139前半へと下落。コモディティはWTI原油が68.1㌦(▲1.4㌦)へと低下。銅は8089.0㌦(▲34.0㌦)へと低下。金は1963.9㌦(+5.9㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブと名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)と米国 長短金利差(2年10年)
米国 イールドカーブと名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)と米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

経済指標

  • 5月中国製造業PMI(国家統計局)は48.8へと0.4pt低下。生産(50.2→49.6)と新規受注(48.8→48.3)が共に50を割れた他、雇用(48.8→48.4)も軟化。非製造業PMIは54.5へと1.9pt低下したものの、依然として好調な領域を維持。

中国 PMI(国家統計局)
中国 PMI(国家統計局)

注目点

  • 4月JOLTS求人統計によると求人件数は前月比+3.7%、1010万件と市場予想の940万件を大幅に上回り、3ヶ月ぶりに1000万件の大台に乗せた。景気減速、金融環境の引き締まりにもかかわらず、人手不足の解消を優先課題とする企業行動が浮かび上がる。同時に失業者数に対する求人件数の割合や求人率(定義はグラフ内参照)も6.1%へと上昇した。求人件数は宿泊飲食、製造業で減少した反面、ヘルスケア、運輸・倉庫、金融保険などで増加。コロナ禍の落ち込みがきつかった宿泊・飲食の「挽回雇用」が牽引役でなりつつあるのが最近の特徴と言える。

JOLTS求人件数と求人率
JOLTS求人件数と求人率

JOLTS求人件数
JOLTS求人件数

求人率
求人率

  • もっとも、4月のJOLTS求人統計統計は他の雇用関連統計が下向きの曲線を描いていることと整合せず、労働市場の逼迫感をやや誇張している可能性が指摘できる。例えば、雇用統計の先行指標として有用なCB消費者信頼感調査の雇用判断DIは低下傾向が明確化している。こうした採用市場における求職者優位の構図が崩れつつある指標の存在を踏まえるとJOLTS求人統計の強さには違和感を禁じ得ない。またNFIB中小企業調査の質問項目である人手不足感の上昇一服、或いは雇用計画の低下傾向を辿っていることとも整合しない。3月の銀行不安以降、金融機関側の問題によって貸出態度が厳格化し資金繰り環境が悪化する中、中小企業は人件費の一方的増加に及び腰になっているとみられる。JOLTS求人統計は予てから指摘されている二重計上問題によって企業の求人意欲が誇張されている可能性が指摘できる。

CB消費者信頼感指数(雇用判断)とNFIB中小企業調査
CB消費者信頼感指数(雇用判断)とNFIB中小企業調査

CB消費者信頼感指数(雇用判断)
CB消費者信頼感指数(雇用判断)

NFIB中小企業調査
NFIB中小企業調査

  • 他方、転職活動の活発度合いを映し出す自発的離職率は2.44%へと小幅低下、3ヶ月平均でみても緩やかな低下基調を辿っており、転職が必ずしも待遇改善に結び付かない状況を浮き彫りにしている。この指標が雇用統計の平均時給に対して一定の先行性を有してきた経緯を踏まえると、先行きは賃金インフレの沈静化が予想される。

自発的離職率
自発的離職率

  • 過去数ヶ月のJOLT求人統計を含む雇用関連統計から判断すると、現在の労働市場は人手不足感が残存する一方で、雇用者数が充足してきたこともあって、企業は追加的な労働コスト増加に寛容でなくなりつつあり、賃金上昇圧力が和らいでいると思われる。Fedを悩ませている賃金インフレは大きく見れば沈静化に向かっていると判断される。

  • そうした中、5月31日はハーカー・フィラデルフィア連銀総裁が「現時点で利上げ停止を支持している」、「FRB当局者は一段の利上げを実施する用意を整えておく必要がある」と発言した他、ジェファーソンFRB理事も「次回の会合で利上げを見送れば、FOMCが追加引き締めの程度について決定する前により多くのデータを見ることができる」とした上で「今後の会合で政策金利を据え置くという決定は、今回の引き締めサイクルにおける金利のピークに達したことを意味すると解釈すべきではない」と発言した。それぞれ6月FOMCにおける利上げ休止の妥当性に言及した上で、7月FOMC以降の利上げ再開に含みを持たせた。これは5月19日のパウエル議長発言(「データや見通しの進展を慎重に評価する余裕がある」、「結果的に政策金利をそれほど上げる必要はないかもしれない」)とも整合的で、FRB内部で6月の利上げ休止について合意形成が進んでいることを窺わせる。

  • これらを踏まえ筆者は、利上げ終了が(事後的に)確定する時期が7月以降にずれ込むと判断。それに伴って利下げ開始時期を2024年1-3月期へ変更する。ターミナルレートの予想は5.25%で据え置くが、5.50%(6月休止、7月追加利上げ再開)となる可能性は5分5分であると判断している。当然のことながら、銀行の連鎖破綻が再開したり、商用不動産市況の悪化に伴いリスク管理の甘いファンドが巨額損失を計上したりすることで金融環境が引き締まれば、早期に予防的利下げが講じられる可能性はあるが、現在の米国経済は軟着陸に向かっておりそうしたリスクは低下している。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。