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2023.03.09
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マレーシア中銀、リンギ安が再燃するも利上げ局面の休止を維持
~さらなる正常化に含みを持たせる一方、外部環境を睨みながら難しいかじ取りを迫られる展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- 9日、マレーシア中銀は政策金利を2会合連続で据え置く決定を行った。同国経済は昨年に22年ぶりの高成長を実現する一方、物価高と金利高の共存に加え、世界経済の減速も重なり年末にかけて景気に急ブレーキが掛かる動きが確認されている。一方、昨年末にかけてインフレが頭打ちに転じたほか、リンギ相場も底入れしたことを受けて、中銀は1月の定例会合で半年強に及ぶ利上げ局面の休止を決定している。中国のゼロコロナ終了も景気の追い風になると期待される一方、足下では米ドル高の再燃を受けてリンギ相場が頭打ちに転じるなど輸入インフレ懸念が高まる動きがみられる。中銀は先行きの政策運営について、さらなる正常化に含みを持たせるなど足下の状況は利上げ局面の小休止との考えを滲ませている。ただし、外部環境が目まぐるしく変化するなかで、状況を睨みながらの難しいかじ取りを迫られる展開が続くと予想される。
昨年のマレーシア経済を巡っては、コロナ禍の感染一服による経済活動の正常化や国境再開の動きに加え、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きも追い風に、通年の経済成長率は+8.7%と22年ぶりの高い伸びとなった。しかし、これは年前半にペントアップ・ディマンドが発現する形で家計消費が大きく押し上げられたことが影響している一方、ウクライナ情勢の悪化をきっかけとする商品高は同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いており、家計消費の回復もインフレに拍車を掛ける動きに繋がった。よって、中銀は物価抑制を目的に昨年5月に利上げ実施に動いたものの、その後は国際金融市場における米ドル高を反映して通貨リンギ相場は調整の動きを強めるなど輸入インフレが警戒されたため、中銀は物価と為替の安定を目的に断続的な利上げを余儀なくされた。結果、中銀による4会合連続の利上げ実施を受けて政策金利はコロナ禍前の水準となるとともに、インフレの高止まりを受けて家計部門にとっては実質購買力に下押し圧力が掛かるなど、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。事実、昨年10-12月の実質GDP成長率はペントアップ・ディマンドの一巡に加え、物価高と金利高の共存により家計消費に下押し圧力が掛かるとともに、回復の動きが続いた世界経済の減速懸念の高まりも重なり、前期比年率▲10.05%と5四半期ぶりのマイナス成長に転じるとともに、景気は頭打ちの動きを強めていることが確認されている(注1)。なお、加速の動きを強めたインフレ率は昨年8月をピークに頭打ちする動きをみせているほか、コアインフレ率も昨年11月を境に頭打ちに転じるなど物価を巡る状況に変化の兆しがうかがえる。さらに、昨年末にかけては国際金融市場における米ドル高の動きに一服感が出たため、昨年11月に過去最安値を更新する動きをみせたリンギ相場も一転して底入れの動きを強めるなど輸入インフレの懸念も大きく後退した。また、昨年末以降は中国がゼロコロナの終了に転じるなど景気回復への期待が高まっており、同国経済にとっては財輸出の約2割、コロナ禍直前の2019年時点においては外国人観光客の1割強を中国(含、香港・マカオ)が占めることを勘案すれば、中国の景気回復の動きは追い風になることが期待されるなど、リンギ相場の底入れを促す一因になったと見込まれる。こうした外部環境の変化を受けて、中銀は1月の定例会合において5会合ぶりに政策金利を据え置くなど半年強に及んだ利上げ局面の休止を決定している(注2)。他方、足下の国際金融市場においては米ドル高の動きが再燃していることを反映してリンギ相場は一転頭打ちの動きを強めているほか、欧米など主要国を中心とする世界経済の減速懸念が国際商品市況の重石となっていることもリンギ相場の足かせになるなど、輸入インフレが再燃する可能性もくすぶる。このように外部環境は再び変化する動きがみられるものの、中銀は9日に開催した定例会合において政策金利を2会合連続で2.75%に据え置く決定を行うなど利上げ局面の休止を継続している。会合後に公表した声明文では、世界経済について「中国経済の再開など明るい材料はみられるが、物価高と金利高の共存が重荷となっており、地政学リスクやインフレ動向、金融市場環境による下振れリスクに晒されている」との認識を示した。一方、同国経済について「昨年は力強い回復を果たすも、今年は世界経済の減速を受けて緩やかなものに留まる」とした上で「インフラ投資の進捗は景気の上振れ要因となり得る一方、世界経済の減速や国際金融市場の混乱は下振れ要因になる」との見通しを示した。物価動向については「先行きは緩やかになるが需給双方の要因に伴い上昇が続く」とした上で「リスクは上方に傾いており、補助金や価格統制を巡る政策動向や商品市況に左右される」との見方を示している。その上で、先行きの政策運営について「足下の政策金利は依然緩和的な水準に留まるなか、過去の利上げが実体経済に影響を与えるタイムラグを勘案しながら物価動向に影響を与える要因を警戒する」とした上で「さらなる正常化の可否については景気や物価動向を勘案しながら調整する」とするなど、あくまで現状は利上げ局面の休止である考えを滲ませたとみられる。当面は外部環境を睨みながらの難しいかじ取りを迫られる局面が続くと予想される。


注1 2月10日付レポート「マレーシア・アンワル政権は「安全運転」を維持することが出来るか」
注2 1月20日付レポート「インドネシアは追加利上げの一方でマレーシアは金利据え置き(Asia Weekly(1/14~1/20))」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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