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2023.04.10
欧州経済
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国際的課題・国際問題
北アイルランド和平から25年
~関係見直しで合意も、英EU間の貿易停滞が続く~
田中 理
- 要旨
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- 4月10日は多くの犠牲者を出した北アイルランド紛争の和平合意から25周年にあたる。EU離脱後の北アイルランドでは、英国本土との物流混乱などが発生。難航していた北アイルランド関係の見直し協議は、2月末に書類や検査を簡素化する新たな枠組みで合意。英EU間の貿易戦争のリスクは後退した。だが、北アイルランドのユニオニスト政党が合意の受け入れと自治政府への参加を拒否。自治政府が不在のまま、和平合意25周年を迎えることになった。新たな枠組みにより、北アイルランドと英国本土との物流混乱は緩和されるが、英国とEU間の物流混乱が解消する目途は立たない。最近でもドーバー港で大型バスが半日以上も足止めされるなど、港湾施設周辺では慢性的な渋滞が発生。英EU間の貿易取引に影を落としている。
3700人余りの犠牲者を出した北アイルランド紛争の和平合意(ベルファスト合意)から、4月10日で25年が経過する。EU離脱後の北アイルランドの経済・政治情勢の不安定化を受け、離脱後の北アイルランドの取り扱いの見直しを協議してきた英国とEUは2月末、①英国本土と北アイルランド間の物品取引時に、書類提出や規制検査を簡素化する、②新たなEU規則を導入する際に、北アイルランド議会の異議提起を認める、などを盛り込んだ新たな枠組み(ウインザー枠組み)で合意した。これにより、北アイルランド関係を巡る英EU間の対立激化が回避され、英国が離脱合意を一方的に破棄することや、EU側が対抗措置として英国からの物品輸入に関税を課すなどの、貿易戦争に発展するリスクは遠退いた。ただ、英国との一体性を重視する北アイルランドのユニオニスト政党・民主統一党(DUP)は、新たな枠組みを大きな前進と評価しながらも、自らが課した7つの基準を満たしていないとして、受け入れを拒否している。
長年、北アイルランドの自治政府を率いてきたDUPは、ユニオニスト系住民の利益を守れなかったことが痛手となり、昨年5月の北アイルランド議会選挙で敗北。自治議会が設置されてから初めて、アイルランド民族の一体性を重視するナショナリスト政党、シン・フェイン党に第一党の座を譲った。北アイルランドの自治政府は、双方の住民の利益を守るため、ユニオニストの第一党とナショナリストの第1党が合同で組織する取り決めがある。DUPは議会選での敗北後、自治政府への参加を拒否している。英EU間の北アイルランド関係見直し協議でユニオニスト住民の利益が損なわれないことを条件に、自治政府に参加する意向を示唆してきた。今回、新たな枠組みの受け入れを拒否したことで、北アイルランド自治政府の発足が遠退いた。英国政府はDUPに対して、新たな枠組みの受け入れと自治政府への参加を促している。DUPが政権参加を拒み続ける場合、英国政府による北アイルランドの直轄統治を検討するとしている。
2月にはアイルランド統一を求めるナショナリスト系の民兵組織が警察に発砲し、重症を負わせる事件も発生。北アイルランド各地で和平合意25周年を記念した祝賀パレードが予定されるなか、武装闘争を放棄していない過激派組織による爆破テロ事件や住民間の対立などへの警戒も強まっている。英国の情報機関は最近、北アイルランドの治安上の脅威を「深刻」に引き上げた。アイルランドを家系のルーツに持ち、北アイルランド和平に強い関心を持つ米国のバイデン大統領を迎えての和平合意25周年は、厳戒態勢が敷かれるなか、自治政府が不在のまま迎えることとなった。
英国とEUが新たな枠組みに合意したことで、北アイルランドと英国本土間の物流混乱は緩和される。だが、英国のEU離脱後、英国とEU間の物品取引には関税や規制上の検査が必要となり、港湾施設周辺では慢性的な渋滞が発生している。最近でもイースター休暇の週末に、英EU間の大動脈であるドーバー港でフェリーへの乗船を待つ大型バスが半日以上も足止めされたことが話題となった。バスの乗客はひとりひとり下車し、パスポート検査を受けなければならない。港の管理会社とフェリーの運営会社は、混雑緩和に向けて、週末の大型バスのフェリーへの乗船台数を制限することを発表した。繁忙期に税関やパスポート検査の職員を増員することや臨時の施設を設けることを示唆している。渋滞発生は商業車両にとっても輸送コストの増加につながる。規制上の検査や承認手続きによるコスト負担の増加と相俟って、英国とEU間の貿易取引停滞につながっている。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

