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- 英スナク首相の憂鬱な日々
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- トラスショックを乗り越えたスナク首相だが、政治環境は厳しさを増している。党内融和を目指すが、指導力の発揮に苦慮。財政緊縮で景気が低迷、物価が高止まりするなか、生活困窮によるストライキが頻発。来年の総選挙を睨んで、党内の強硬派は春季予算に減税を盛り込むことを要求。ジョンソン時代と変わらぬ政権中枢の倫理欠如を問われかねない問題が相次いで発覚。保守党の支持率が低迷しており、スナク降ろしがいつ再燃しても不思議でない。
トラス前首相による財政規律を度外視した大型減税とエネルギー料金の凍結が金融市場の激しい動揺(トラス・ショック)を招いてから4ヶ月、英国では減税を求める声が日増しに高まっている。26日付けの英フィナンシャル・タイムズ紙は、3月に発表予定の春季予算に減税を盛り込むべきとする与党・保守党内の強硬派の動きに、トラス前首相が近く加わるとの関係筋の見方を伝えている。トラス前首相は低成長を打破するためにも、減税による景気浮揚が必要であると主張。トラス氏や党内の強硬派は、首相就任時の政策は正しかったが、政策発表前に不安定化していた金融市場や、政治的な支持が得られなかったことが失敗の原因であったと考えている。スナク首相とハント財務相は、インフレ抑制や財政再建が優先課題であるとし、早期の減税実施を否定している。
スナク首相は政権発足後、前首相の減税方針を完全撤回し、昨年11月の秋季予算では増税や歳出削減を通じた財政再建に舵を切り、金融市場の動揺封じ込めに成功したが、首相を取り巻く政治環境は厳しさを増している。陸上風力発電の禁止や住宅建設目標を巡る政府方針は、ジョンソン・トラスの両首相経験者が批判するなど党内の反発を招き、軌道修正を余儀なくされた。資源価格の上昇一服でピークアウトしたとは言え、物価の高止まりが続いている。生活費の高騰に苦しむ英国民の間で不満が燻り続けており、昨年末以来、賃上げを求めるストライキが頻発している。エネルギー危機回避とガス価格の下落で、ユーロ圏では景気の先行き改善期待が急速に高まっているのに対し、英国ではスナク政権の緊縮路線やストライキの影響もあり、景気の低迷が続いている。代表的な企業景況感である1月のPMIの速報値は、製造業とサービス業の合成指数で、ユーロ圏が7ヶ月振りに好不況の分岐点である50を回復したのに対し、英国では6ヶ月連続で50を下回り、前月と比べて悪化モメンタムが加速した(図表1)。ブレグジット後のEU市場での競争力低迷、深刻な人手不足、長年の投資不足などで、英国は中期的な経済活力の低下に見舞われている。
昨年11月には、副首相を兼務するラーブ司法相のモラハラ疑惑が浮上、複数の訴えが提起されている。最近でも、保守党の幹事長を務めるザハウィ元財務相が納税漏れで追徴課税されていたことが発覚。最大野党・労働党を中心に退任を求める声も広がっているが、スナク首相は同氏を擁護。スナク首相自身も移動中の公用車の後部座席でSNSに動画を投稿した際、シートベルトをしていなかったことが発覚。罰金を科されるなど、失点が目立つ。ジョンソン時代と変わらぬ政権中枢の相次ぐ倫理欠如や問題発覚に、スナク首相の勤勉な実務家としての能力に疑問符がついた。
スナク首相を巡っては、ブレグジットを巡る煮えきれない態度、EUとの関係改善模索、ジョンソン元首相退陣の引き金などを巡って、保守党内の強硬離脱派やジョンソン元首相周辺からは懐疑的な視線に晒されている。党内融和を目指したが、リーダーシップを発揮できずにいる。保守党の支持率はトラスショック時に20%台前半に落ち込んだ後、スナク政権誕生後も25%前後で低迷している(図表2)。50%近くでリードする労働党に大きな溝を開けられたままだ。誰が首相として相応しいかを尋ねる世論調査でも、スナク首相は労働党のスターマー党首に終始リードを許している。2024年にも総選挙が予定されるなか、このまま保守党の支持率が低迷すれば、スナク降ろしが再燃しかねない。


田中 理
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