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スコットランド独立の夢は破れたり

~来年秋の独立投票は見送りへ~

田中 理

要旨
  • 英国の最高裁判所は23日、英国政府の同意なしに、スコットランド独立の是非を問う住民投票を実施することができないとする判決を下した。これにより、来年秋に予定された住民投票の再実施は見送られる公算が高まった。スーナク首相は在任中の投票再実施を避ける意向を示唆。英国民投票後に高まった英国分裂の危機は遠退いた。但し、次の英国の総選挙で野党・労働党が勝利し、単独での政権発足ができない場合には注意が必要。スコットランドの選挙区を独占するスコットランド国民党が、連立参加や閣外協力と引き換えに投票再実施を求める可能性がある。

英国の最高裁判所は23日、英国政府の同意なしにスコットランドが英国からの独立の是非を問う住民投票を実施することができないとする司法判断を下した。スコットランドは2014年に英国政府の同意の下で住民投票を行ったが、独立後の国会運営を巡る不安から最終盤で現状維持票が延び、55%対45%の反対多数で独立を否認した。その後、2016年に英国の欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票が行われ、英国がEUを離脱したことを受け、EU残留票が多数を占めたスコットランドは改めて住民投票の実施を求めていた。2021年に行われたスコットランド議会選挙で、独立賛成派のスコットランド国民党(SNP)は最大与党の座を守り、同じく独立賛成派の緑の党と連立政権を発足した。スコットランド政府を率いるスタージョン第一首相は、2023年10月19日に住民投票を再実施する意向を示唆してきた。

今回の司法判断は、住民投票の実施を模索するスコットランド政府の要請に基づき、スコットランドの法務官が申し立てたもの。最高裁判所は判決で、スコットランド議会に一定の自治を認めた1999年の法律は、スコットランドとイングランドの間の連合関係について定めるものではなく、その権限は英国議会に帰属する。そのため、英国議会の同意なしに、スコットランド議会が英国からの独立の是非を問う住民投票の実施に関する立法行為を行うことは認められないとした。それと同時に最高裁判所は、いかなる住民投票も諮問的なもので、スコットランドに対して法的拘束力を持たないとするスコットランド政府の訴えを否認した。

スタージョン第一首相は、判決結果に失望を露わにしたが、その内容を尊重するとして、スコットランド市民が民意を表明する民主的且つ合法的な別の手段を模索するとした。まずは、次の英国の総選挙をスコットランド市民の独立の民意を示す事実上の住民投票の場とすることを表明した。一方的な独立投票を断行したスペインのカタルーニャ自治州とは異なり、来年10月に予定された住民投票の実施は見送られる可能性が高い。英国のスーナク首相は判決結果を歓迎、今はともに難局に立ち向かう時であるとし、自身の首相在任中の住民投票の再実施を避ける意向であることを示唆した。スコットランド住民を対象とした最近の世論調査では、英国からの独立への賛成派と反対派が拮抗している。英国の総選挙は小選挙区制で行われ、SNPはスコットランドの選挙区で圧倒的な強さを誇る。2025年1月までに実施が予定される総選挙でも、スコットランドの選挙区の多くをSNPが独占するとみられるが、それをスコットランド独立の民意として、住民投票を実施するまでの道のりは険しい。英国民投票後に高まった英国分裂の危機はひとまず遠退いた。

但し、次の英国の総選挙で野党・労働党が勝利し、単独での政権発足が困難な場合、SNPが連立参加や閣外協力と引き換えに投票再実施を求める可能性がある。中道左派政党のSNPは、経済社会政策分野では、保守党よりも労働党に立場が近い。そもそも、スコットランドで近年、独立機運が高まった背景には、2010年の総選挙以来、英国では長らく保守党政権が続き、中道左派寄りの有権者が多いスコットランド市民の民意が反映されていないとの不満もある。スーナク首相就任後、保守党の支持率は僅かに回復しているが、今も労働党が大きくリードしている。保守党の中途半端な追い上げと、ブレグジット党から改名した「リフォームUK」の党勢拡大、リベラル政党・自由民主党の支持低迷が重なれば、次の総選挙で労働党が勝利するが、政権発足に他党の協力が必要な状況となることも考えられる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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