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2022.11.07
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習政権3期目入り早々1人目の「トラ」が退出へ
~人民銀のデジタル人民元責任者の范前副総裁が調査対象に、政治の安定を優先する展開は続く~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国では、先月の党大会と1中全会を経て習近平政権は3期目入りを果たした。「中国式現代化」を軸に経済と政治の運営を進めると見込まれるなか、経済政策面では改革派官僚が退出する一方、政策能力面で疑問が残る習氏の子飼いが担うとみられる。党大会を前に当局は景気下支えに動いて金融市場における信用動向は底入れしているが、足下では景気減速が意識される状況にあり、当局の「ゼロ・コロナ」戦略への拘泥が影響している。ただし、足下では感染動向が再び急激に悪化しており、動態ゼロ・コロナの堅持を強調するなど戦略転換に動く可能性は極めて低い。他方、党大会ではデジタル化を戦略の柱に据えており、デジタル人民元の実証実験の加速化が期待されたが、これを担う人民銀の范前副総裁が重大な規律違反の調査対象となった。習政権は3期目も引き続き反汚職・反腐敗運動に取り組む方針を改めて示したが、今後もゼロ・コロナ戦略同様に政治の安定が優先される一方で経済政策は劣後する可能性は高いと予想される。
中国では、先月の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)、及び直後の1中全会(中国共産党第20期中央委員会第1回全体会議)を経て習近平政権は異例の3期目入りを果たしている。共産党大会においては、今後の経済のみならず政治を巡っても『中国式現代化』を軸にした政策運営を進めることにより、2035年頃までの「社会主義現代化」のほぼ実現、及び2050年頃までの「社会主義現代化強国」の実現を目指す方針が改めて強調された。なお、経済運営面での中国式現代化とは、あらゆる経済活動に党、及び政府が積極的に関与するとともに、ハイレベルの科学技術の自立自強と人材育成強化の実現を通じて国家安全保障能力の向上を図るなど、統制色の強い経済運営を目指すとみられる。こうした政策運営を志向する背後では、これまで政権の経済政策を担ってきた面々が相次いで交代する動きがみられるなど、実務面でも大きな転換が図られると見込まれる。具体的には、党内で財政、及び金融面でのマクロ政策の取りまとめを行う党中央財経領導小組主任、及び政府でも国務院副総理として経済政策を担い、対米協議の窓口を担った劉鶴氏が政権3期目の政策運営から離れることとなった。さらに、劉氏の下で二人三脚によりマクロ政策の取りまとめを行った『改革派官僚』の易鋼氏(中国人民銀行行長)の、及び郭樹清氏(中国人民銀行党委書記兼副行長、中国銀行保険監督管理委員会主席)はともに中央委員、及び中央委員候補名簿から外れるなど、来年3月の全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議)を経て金融行政を離れると見込まれる。また、習政権3期目の人事では、若手エリート養成機関である共産主義青年団(共青団)出身の李克強氏や汪洋氏が党中央政治局常務委員(最高指導部)から外れるとともに、将来的な最高指導部入りを目指す中央政治局員から胡春華氏が外れる事実上の降格となる一方、最高指導部及び中央政治局員はその多くが習氏の『子飼い』が占める格好となった。こうしたことから、習政権3期目は習氏の意向を汲みながら政策運営が進められるとともに、政権内に習氏を諫める人材が皆無となったことで習氏の思う通りの方向性で進められる可能性が高まったと捉えられる。そして、経済運営を担う次期国務院首相には李強氏が就くと目されるが、中共上海市委書記として習氏が強力に推し進める『ゼロ・コロナ』戦略を着実に遂行する形でロックダウン(都市封鎖)を実施する一方、その政策能力については疑問符が付いている。また、筆頭副総理には丁薛祥氏が就くとみられるが、党務に長く関わる一方で経済政策を担った経験がないことを勘案すれば、如何なる政策運営を行うかは未知数である。その意味では、劉鶴氏の後任として国務院副総理に就くと目される何立峰氏(国家発展改革委員会主任)の手腕が注目されるが、習氏が推進する一帯一路の立案を担う一方で計画経済色の強い経済運営を志向する傾向があるとともに、地方政府を担当した地域では度々問題が顕在化するなど実務面での能力に疑問符が呈されることが少なくない。このように習政権3期目の経済運営を巡っては不透明要因が山積しているなか、政府(国家統計局)が公表するPMI(購買担当者景況感)は製造業、及び非製造業ともに好不況の分かれ目を下回り(注1)、S&Pグローバルが公表する財新PMI(民間版)も製造業、及びサービス業ともに同様の動きをみせるなど(注2)、足下の景気は減速の動きを強めている。なお、当局は景気下支えに向けた取り組みを強化しており、昨年末以降に中銀(中国人民銀行)が段階的な金融緩和に動いていることを反映して金融市場における信用動向は改善が確認されるなど、景気の底入れを促すことが期待される状況にある。こうした動きにも拘らず足下の景気が減速感を強めている背景には、習政権がゼロ・コロナ戦略に拘泥して幅広い経済活動を制限していることが挙げられる。しかし、足下の感染動向は再び急速に悪化しており、当局(国家衛生健康委員会)は改めて厳格な感染対策である『動態ゼロ・コロナ戦略』を堅持する方針を示していることを勘案すれば、早々に方針転換が行われる可能性は極めて低いと捉えられる。他方、党大会では現代式中国化により『デジタル中国』の建設を加速する方針が示されたほか、金融面では中銀が主導する形でCBDC(中央銀行デジタル通貨)である「デジタル人民元」の実証実験が行われており、今後は実証実験の対象地域を段階的にすべての省に広げる方針を示している。さらに、ウクライナ情勢の悪化を理由に欧米はロシアへの経済制裁としてSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除したことを受け、米中摩擦が激化するなかで中国はデジタル人民元を国家戦略の柱に据えるとともに、経済安全保障の観点から海外との決済にも広げることも視野に入れているとみられる。こうしたなか、5日に党中央規律検査委員会は中銀においてデジタル人民元を巡る実証実験の陣頭指揮を執るなど主導的な役割を果たしてきた范一飛副行長(副総裁)を「重大な規律違反の疑い」で調査していることを公表しており、同日付で退任した模様である。重大な規律違反に関する詳細は明らかになっていないものの、范氏は中国建設銀行の副行長や政府系ファンドである中国投資有限責任公司の副総経理を歴任した後、2015年から中銀の副行長を務めており、デジタル人民元の実現に向けた責任者となってきた。ただし、党大会において習氏は2期10年の政権運営の実績に反汚職・反腐敗運動を挙げ、『トラ退治』、『ハエ叩き』、『キツネ狩り』により党・国家・軍に巣食うリスク除去を果たした実績を訴えるとともに、習氏への忠心が強い李希氏を党中央規律検査委員会書記に据えるなど、習政権は3期目も反汚職・反腐敗運動を進めることが改めて示された格好である。そうしたなか、范氏は習政権3期目入りして初のトラ退治の対象になったと捉えられるが、今後も当局がゼロ・コロナ戦略に拘泥することと同様に、政治面での安定を重視する観点では経済政策は劣後する可能性が高いと見込まれ、同様の事案が発生すると予想される。


注1 10月31日付レポート「習近平政権3期目の船出は景気減速のなかへ」
注2 11月4日付レポート「中国・民間版PMIも景気減速を示唆(Asia Weekly (10/31~11/4))」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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