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2022.10.12
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英金融市場の動揺続く、次の一手は?
~BOEによる国債の時限買い入れ終了まで残り3日~
田中 理
- 要旨
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- BOEの市場介入と政府の最高税率引き下げ撤回後も、英国債市場の混乱と年金基金の流動性不安が続いている。BOEは10月15日以降の時限国債買い入れの継続を否定したうえで、1日当たりの買い入れ上限の引き上げ、担保基準を緩和したレポファシリティの創設、時限買い入れの対象にインフレ連動国債を追加し、金融市場の動揺封じ込めを狙うが、買い入れ終了後の国債需給悪化と年金基金の流動性不安を解消することが出来ずにいる。政府は中期財政計画の発表を10月末に前倒ししたが、財政安定には歳出削減や更なる減税見直しが必要との見方が多い。金融市場の動揺再燃を受け、BOEが15日以降も国債の時限買い入れを継続することや、月末に延期した量的引き締めの再延期を余儀なくされる恐れがある。
英国のトラス政権による財政規律を度外視したエネルギー料金凍結と大型減税に端を発した英国債市場の混乱と年金基金の流動性危機が続いている。金融市場の動揺を受け、BOEは先月28日、10月14日までの時限措置として長期国債の買い入れを開始するとともに、量的引き締め(量的緩和を通じて保有する国債の売却)を10月末まで延期することを発表、政府も今月3日に所得税の最高税率の引き下げ方針を撤回した。ただ、撤回した最高税率引き下げの減税規模は、総額450億ポンドのうち10~20億ポンド程度に過ぎない。エネルギー料金凍結による1530億ポンドの財政負担と相俟って、時限買い入れが終了する15日以降の国債需給が大幅に悪化する構図は変わらない。国債の価格下落(利回り上昇)は、国債を担保にデリバティブなどに投資して運用益を膨らませる運用戦略の年金基金(Liability Driven Investment Funds:LDI基金)の資金不足を招いている。担保価値下落によるマージンコールで現金が不足する年金基金は、国債や社債などの保有資産の売却を急ぎ、債券価格の更なる下落を招く悪循環に陥っている。
BOEの時限買い入れ終了で、国債の買い支えがなくなれば、こうした悪循環が再燃する恐れがある。年金基金の関係団体などから、10月15日以降も買い入れ継続を求める声が相次いでいるが、BOEは買い入れが金融安定上の時限措置で、金融政策上の手段ではないとして、買い入れ継続を否定している。その後も市場の動揺が続くなか、BOEは10月15日以降の時限買い入れ延長を改めて否定したうえで、10日に1営業日当たりの国債購入額を引き上げること(10日は1日当たりの上限を50億ポンドから100億ポンドに倍増し、その後は毎朝9時に当日の上限を決定する)、11月10日までの時限措置として、担保条件を緩和した時限的なレポファシリティ(Temporary Expanded Collateral Repo Facility:TECRF)の創設を決め、11日にはさらに時限買い入れの対象に年金基金の保有割合が多いインフレ連動国債を加えた。
だが、7日までの8営業日で総額400億ポンド(=50億ポンド/日×8日)の買い入れ枠のうち、実際に利用した金額は50億ポンドにとどまった。使い切れない買い入れ枠を増やしたところで、金融市場の不安払拭にはつながらない。新たに創設したレポファシリティも、年金基金の資金繰りをBOEが直接改善させるものではない。投資適格級の社債や外貨建て債券などに担保条件を緩和したことで、金融市場の動揺時も銀行はBOEからの短期資金の調達が容易となる。だが、銀行の資金繰りが改善したからと言って、貸し倒れリスクのある年金基金への資金供給を増やすかどうかは定かでない。レポファシリティの利用には、担保の信用力に応じた掛け目が設定されるうえ、現在2.25%のBOEの政策金利に0.15%ポイントを加算した金利が課せられる。時限買い入れが終了する15日以降、銀行が年金基金向けの資金供給を増やさない限り、国債市場の混乱と年金基金の流動性危機が燻り続ける。
政府が更なる財政方針の見直しを進めない限り、国債市場の動揺は収まりそうにない。金融市場の動揺が続くなか、政府は10日、中期財政計画の発表を11月23日から10月31日に前倒しすることを発表した。大型減税の堅持と近く発表予定の規制緩和策で経済を活性化し(2.5%の実質経済成長率を達成し)、中期的な財政安定を確保する方針とみられるが、財政を専門とする英国の独立系研究機関(Institute for Fiscal Studies:IFS)は11日、政府債務の膨張を食い止めるには、620億ポンドの歳出削減か増税が必要であるとの試算結果を発表した。IMFの金融安定の責任者も、国債利回りの上昇抑制には政府の減税方針の見直しが必要であると主張している。政府の報道官は11日に改めて、発表した政策が経済成長をもたらすことを確信しているとし、減税方針の追加撤回がないと説明している。14日までに政府がこうした方針を軌道修正する可能性は低く、金融市場の動揺再燃を受け、BOEが15日以降も国債の時限買い入れを継続することや、月末に延期した量的引き締めの再延期を余儀なくされる恐れがある。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

