株高不況 株高不況

労働市場の「質的正常化」を示した雇用統計

高得点の雇用統計はFedの金融引き締めを穏健に

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月28,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月128程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを少なくとも2023年4月までは維持するだろう。
  • FEDは、2022年は毎FOMCで利上げを実施。利下げは23年後半以降だろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。NYダウは▲1.1%、S&P500は▲1.1%、NASDAQは▲1.3%で引け。VIXは25.5へと上昇。
  • 米金利カーブはブル・スティープ化。債券市場の予想インフレ率(10年BEI)は2.471%(+2.2bp)へと上昇。実質金利は0.715%(▲8.5bp)へと低下。
  • 為替(G10)はUSDがやや軟調。USD/JPYは140前半で一進一退。コモディティはWTI原油が86.9㌦(+0.3㌦)へと上昇。銅は7633.0㌦(+36.0㌦)へと上昇。金は1713.0㌦(+13.4㌦)へと上昇。

図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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図表5
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注目点

  • 8月米雇用統計は理想的な結果。雇用者数は堅調なペースで増加し、悩みの種であった労働参加率は上昇し、同時に平均時給の異常値的上昇がやや減速するなど、パンデミックによって歪んだ労働市場が正常化に向かっていることを示した。金融政策の短期的な見通しに影響を与えるものではなかったものの、やや長い目でみれば来年前半までに利上げが終了するとの期待を高めたと言える。9月分もこうした結果となれば、それは利上げ幅を縮小する理由になり得るだろう。9月FOMCの利上げ幅が75bpだとすると、11月FOMCは50bpに縮小する可能性が高まる。

  • 雇用者数は前月比+31.5万人と市場予想に沿った増加であった。教育(+6.8万人)、専門職(+6.8万人)、小売(+4.4万人)、レジャー・ホスピタリティ(+3.1万人)など広範な業種で伸びが続き、全体の雇用者数はパンデミック発生前と同程度まで戻した。もっとも、この間の労働参加率低下によってパンデミック発生前の増加トレンドからは大幅に下方乖離しており、なお労働力不足が深刻であることを物語っている。仮にパンデミックが発生せず2020年と21年に毎月15万人の雇用増があったとすれば、現在の労働力は単純計算で約500万人分の不足が生じていることになる。

図表6
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図表7
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図表8
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  • その点、8月の労働参加率上昇は大いに望ましい結果であった。8月は62.36%と7月の62.10%からはっきりと上昇し、2022年3月以来の水準を回復。直近数ヶ月の労働参加率は不可解に停滞しており、人手不足解消に相当な時間を要することを物語っていたが、社会的にコロナが終息する中で高インフレに伴う生活コスト増加に直面したことで、労働市場に戻ってくる人々が増加したと考えられる。政府からの給付が底をつき、株式市場が年初の高値から大幅に下落し金融資産が目減りしたことも効いたとみられる。年代別にみると働き盛り世代の25-54歳は82.8%と2019年末の水準を回復し完全なる正常化を遂げた反面、55歳以上は38.6%と低下水準にあり、なお且つ8月も低下が続いた。いわゆるアーリーリタイアに伴う労働供給の減少が労働市場全体の逼迫を生むという構図に変化は見れなかった。8月雇用統計で唯一残念な点はここであった。

図表9
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  • とはいえ全体の労働参加率上昇により人手不足感は幾分和らいだとみられ、そうした中で平均時給は前月比+0.31%、前年比+5.20%と7月対比で減速した。平均時給の瞬間風速(3ヶ月前比年率)は+4.86%と増勢鈍化。7月時点では再加速の兆しが強まっていたが、賃金の異常値的上昇は一先ず沈静化の方向にあると判断される。同時に週平均労働時間は34.5時間へと短縮した。これはパンデミック発生後のレンジ下限であるほか、2015年頃の平均的な数値でもあり、正常化の進展を窺わせ。こうした労働市場の質的正常化は賃金インフレの脅威が後退することを通じてFedの金融引き締めを穏健なものにすると考えられる。

図表10
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図表11
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図表12
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藤代 宏一


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