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英国の物価高騰はまだ序の口

~ガス価格の高騰が続けば、来年前半には前年比+20%も視野に~

田中 理

要旨
  • 物価高騰が続く英国では10月からエネルギー料金の上限金額が一段と引き上げられ、来年以降も一段の引き上げが予想される。そこから試算すると、7月に40年振りに2桁台に乗せた英国の消費者物価は、来年初頭に向けて一段と上昇が加速し、前年比+20%近くに達する可能性がある。次期首相就任が確実視されるトラス外相は、BOEの政策対応の遅れがインフレ加速を招いたとの批判を繰り返している。エネルギー価格の一段の高騰に加えて、インフレ抑制に向けた次期政権からの政治的な圧力が高まることもあり、BOEは今後も積極的な利上げを継続しよう。

英国では7月の消費者物価が前年比+10.1%と40年振りの2桁台に乗せるなど、主要先進国の中でも物価上昇がひと際目立つ。英国の経済構造はドイツやフランスなどの大陸欧州諸国よりも米国に近いアングロサクソン型に属し、元々インフレ体質の国として知られるが、労働需給逼迫による賃金上昇や経済活動再開後の供給制約に加えて、エネルギー価格の高騰が物価を押し上げている。米国で物価にピークアウトの兆しが徐々に出始めるなか、英国では物価の更なる高騰が予想される。BOEが8月4日に公表した金融政策レポートでは、追加利上げを前提とした場合も、10~12月期の消費者物価が前年比+13.1%に一段と上昇し、その後はピークアウトするものの、2%の物価目標を下回るのは2024年7~9月期と予想する(図表1)。こうした見通しは原油とガス価格が、向こう2四半期については7月26日までの15営業日平均の先物価格で、その後は横這いで推移するとの前提に基づいている。ロシアによる欧州向けのガス供給の縮小などを受け、ガス不足への警戒が高まっており、ガス先物価格はBOEの想定を上回って大幅に上昇している。

ガス調達価格の上昇を受け、政府のガス・電力市場監督局(Ofgem)は26日、エネルギー会社が平均的な家計に請求できるエネルギー料金の上限金額をこれまでの年間1971ポンドから10月以降は3549ポンドに一気に80%引き上げることを決定した(図表2)。エネルギー関連のコンサルタント会社コーンウォール・インサイトは、来年1月には上限金額が5387ポンドに、4月にはさらに6616ポンドに引き上げられると予想する。こうした見通しが現実のものとなれば、英国のエネルギー料金は今年の春以前から1年間で5倍に高騰する。

エネルギー料金の上限金額と、消費者物価の電力・ガス・その他燃料費は連動する。同費目は7月時点で消費者物価を前年比で+2.5%ポイント押し上げている。10月の上限引き上げ後は、それが同+7%ポイント近くに拡大し、コーンウォール・インサイトの見通し通りに来年1月に再引き上げされる場合、物価の押し上げ幅は同+12%前後に達する計算となる。電力・ガス・その他燃料費以外の消費者物価の費目が横這いで推移するとの保守的な前提を置いた場合でも(実際には価格転嫁に伴いその他費目も上昇が加速すると考える方が自然)、英国の消費者物価は10月に前年比+14%近くに達し、来年1月には同+18%を上回る(前掲図表1)。

昨年12月以来、6会合連続で利上げをするBOEは、8月に27年振りとなる50bp利上げに踏み切り、インフレへの強い警戒姿勢を滲ませた。同時に発表した金融政策レポートでは、10~12月期に実質GDP成長率が前期比でマイナスに転落し、2024年4~6月期まで7四半期連続のマイナス成長を予想する(図表3)。BOEは英国の景気後退が不可避とみているが、それでも今後の利上げ継続が必要と判断している。9月5日に結果が判明する保守党の党首選は、トラス外相の勝利が確実視されている。トラス氏は大型減税による生活者支援と景気浮揚を掲げており、BOEのこうした成長率見通しはやや悲観的過ぎる可能性がある。トラス氏はまた、BOEの政策対応の遅れがインフレ加速を招いたとの批判を繰り返しており、2%のインフレ率を目標とするBOEの責務変更の可能性を示唆している。エネルギー価格の一段の高騰に加えて、インフレ抑制に向けた次期政権からの政治的な圧力が高まることもあり、BOEは今後も積極的な利上げを継続しよう。

図表1
図表1

図表3
図表3

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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