・工作機械受注が教えてくれる景況感 ・米国 中小企業の値上げは一服感

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月28,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月128程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを少なくとも2023年4月までは維持するだろう。
  • FEDは、2022年は毎FOMCで利上げを実施するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。NYダウは▲0.2%、S&P500は▲0.4%、NASDAQは▲1.2%で引け。VIXは21.8へと上昇。
  • 米金利はベア・フラット化。債券市場の予想インフレ率(10年BEI)は2.464%(▲0.9bp)へと低下。実質金利は0.312%(+3.1bp)へと上昇。
  • 為替(G10)はUSDが中位程度。USD/JPYは135近傍で一進一退。コモディティはWTI原油が90.5㌦(▲0.3㌦)へと低下。銅は7983.0㌦(▲4.5㌦)へと低下。金は1794.0㌦(+7.2㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 予想インフレ率(10年BEI)
米国 予想インフレ率(10年BEI)

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

経済指標

  • 7月NFIB中小企業楽観指数は89.9へと小幅ながら改善。もっとも、仕入価格上昇と人手不足による労働コストの増加が相まって指数は約10年ぶりの低水準にある。インフレの先行指標として注目される3ヶ月先の販売価格計画は、原油価格下落を背景に37へと急低下。依然パンデミック前の水準を大幅に上回っているとはいえ、ピークアウト感が鮮明になった。他方、労働者不足を指摘する企業の割合は49と高止まり。これは7月雇用統計で平均時給が再加速し、週平均労働時間の長期化が示されたことと整合的で、労働コスト増加に起因するインフレ圧力がなお強いことを物語っている。

NFIB中小企業楽観指数
NFIB中小企業楽観指数

NFIB中小企業楽観指数
NFIB中小企業楽観指数

米国 労働者不足を指摘する企業の割合
米国 労働者不足を指摘する企業の割合

米国 販売価格引上を計画する企業の割合
米国 販売価格引上を計画する企業の割合

注目点

  • 7月工作機械受注(日本工作機械工業会)によると、7月の受注額(原数値)は1424億円であった。筆者作成の季節調整値は前月比▲10.3%、1441億円と前月比で大きく減少し下方屈折。前年比伸び率(原数値)は+5.5%へと鈍化し、いよいよ前年割れが視野に入った。国内向けは季節調整済み前月比▲16.3%、原数値前年比+14.5%、外需は季節調整済み前月比▲6.4%、原数値前年比+0.9%であった。外需は円安による嵩上げ効果を除くと実質的に前年割れの状態にあるとみられる。中国の厳格なコロナ対策に伴う商談の遅れという一過性要因が背景にあったとしても、それだけで弱さは説明できない。

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

  • 工作機械受注は、そのサイクルが世界経済の包括的指標であるOECD景気先行指数と連動するほか、アナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)とも一定の連動性を有する。OECD景気先行指数はアジアが中国や韓国の減速を背景に低下基調にあるほか、米国と欧州も下を向き、日本も改善が一服した。中国はなお厳格なコロナ対策を固持しており、先行き不透明感は残る。欧州はウクライナ危機とそれに伴うエネルギー戦略の難しさに直面しており当面はダウンサイドリスクが大きい。米国は消費者マインドが極端な悪化を示すなどインフレのマイナス影響が深刻なほか、最近は企業景況感も厳しさを増している。工作機械受注はこうした海外景気の風向きの悪さと一致しているようにみえ、そうした下で日本企業の業績見通しは慎重化している。工作機械は、決して大きくはない業界規模でありながらその受注動向は世界経済のトレンドを掴むうえで優れている。

工作機械受注・予想EPS
工作機械受注・予想EPS

工作機械受注・予想EPS
工作機械受注・予想EPS

工作機械受注・OECD景気先行指数
工作機械受注・OECD景気先行指数

  • そこでサイクルの位置取りを確認するために縦軸に工作機械受注の水準(36ヶ月平均からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、現在は右上領域を左方向に進んでおり、受注増加の終盤にあると判断され、間もなく減少局面入りが予想される。過去の経験則に従うなら、今後、受注は高水準を維持しつつも、左方向へ下向きのカーブを描き、株式市場では業績ピークアウトが強く警戒されるだろう。関連銘柄が多く含まれるTOPIX機械株は既に停滞感を強めているが、今後も下向きのリスクに注意が必要だろう。

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注・TOPIX機械
工作機械受注・TOPIX機械

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。