物価高対応・総合緊急対策の解剖

~GDP押し上げ効果は限定的、エネルギー政策は骨太2022のテーマに~

星野 卓也

要旨
  • 政府は今年度の2段階経済対策の第1弾にあたる総合緊急対策を決定。燃料油価格の上昇抑制の延長・拡充や低所得子育て世帯への給付金が柱になる。財源には予備費のほか補正予算を編成。利用した予備費は補正予算で再度積み増す形とする。

  • 燃料油価格対策や給付金のGDPの押上げ効果は0.3~0.5兆円程度(年間GDPの0.06%pt~0.09%ptに相当)と限定的。公共事業の前倒し実施も行われるが、資材・人材不足や建設コスト上昇等もあり、実質GDPの押し上げ効果は不透明である。

  • 6月の骨太方針でもエネルギー政策はテーマになっていきそうだ。前例のないパンデミックの中で大規模なコロナ対策予備費には正当性があったが、今後の予備費運用の方法について、コンセンサスを形成しておくことは必要だと考えられる。

目次

物価高対策を決定

政府は26日に『コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」』を決定した。先週レポート1でもまとめた通り、今年度の経済対策は今回の物価高対策と参院選後の「新しい資本主義」実現のための経済対策、の2段階になり、今回決定の対策はその第1弾にあたる。対策のフレームは資料1の通り。燃料油価格上昇抑制策の延長や低所得子育て世帯への給付金などが柱だ。財源として2022年度予算の一般予備費・コロナ予備費を用いる(1.5兆円)ほか、補正予算(2.7兆円)を編成する。資料2の通り、補正予算は6~9月の燃料油対策1.2兆円が計上されるが、残りの1.5兆円は本対策で消化する予備費の補填に充てる。今回支出されることが決定したのは予備費分(1.5兆円)と補正予算の燃料費対策分(1.2兆円)の2.7兆円となる。

資料3では対策の主な事業を整理した。①原油高騰対策、②エネルギー・原材料・食料等安定供給対策、③中小企業対策等、④生活困窮者等への支援の4本柱のほか、公共工事の前倒し執行を実施する。

コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」のフレーム
コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」のフレーム

想定される 2022 年度補正予算フレーム
想定される 2022 年度補正予算フレーム

コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」の主な内容
コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」の主な内容

GDPに対する効果は限定的か、CPI総合指数を0.5%pt押し下げ

今回の対策において、GDPの押し上げ(下支え)に効きそうな部分は燃料油対策(計1.5兆円)や低所得子育て世帯向けの給付金(0.2兆円程度)になる。限界消費性向を20%~30%程度と置けばGDPの押し上げは0.3~0.5兆円程度(年間GDPの0.06%pt~0.09%ptに相当)になる。地方創生臨時交付金で実施される事業等も押上げ効果を発揮するかもしれないが、いずれにせよGDPへの影響は限定的だろう。また、公共工事の前倒し執行は過去に消費税率引き上げ時の景気対策としても用いられたものだ。前倒し実施は、参院選後に成立見込の第2弾経済対策(第2次補正予算)において、公共事業の追加を行うことも見越されているとみられる。公共事業については、資材・人材の不足による執行遅れ等がみられており、GDPの押上げ効果が分散(薄く長く)なっているのが近年の特徴である。なお、政府資料によれば、CPI総合指数を▲0.5pt押し下げるとされている 2

骨太方針はエネルギー政策に言及か

対策本文では「本年6月までに、新しい資本主義実現会議における議論を通じて、新しい資本主義のグランドデザインと実行計画を取りまとめるほか、骨太方針 2022を取りまとめる。」として、例年通り6月の骨太方針を策定することを定めた。参院選後に実施される第2弾経済対策もこれに沿ったものとなるだろう。石油・LNGをはじめとした輸入エネルギーに依存する経済構造の脆弱さが原油高騰によって露になる中で、脱炭素化の促進などが俎上に載るとみられる。また、今回対策本文では「原子力を含めあらゆる電源の最大限の活用を進めていかなければ、国民生活や経済活動に不可欠な電力の安定供給の確保に影響が出るおそれがある。」との記述も盛り込まれた。次回骨太方針ではエネルギー政策がテーマとなっていきそうだ。

予備費運用に関する議論を

予備費の増額や使途拡大は、財政政策の「柔軟性」と「民主性」のバランスをどう考えるか?という財政運営の課題を突き付ける。政府裁量で利用できる予備費は、状況に合わせた迅速な対応が可能(柔軟性)というメリットの傍らで、歳出時には国会議決が必要、という財政民主主義の原則(民主性)の抜け穴としての性格も持つ。これまでに経験のないパンデミックへの対応、という理由で大規模なコロナ対策予備費には正当性があったが、今後の予備費運用の方法について、コンセンサスを形成しておくことは必要だと考えられる。

以上

1 Economic Trends「物価高対策にも補正予算編成へ~参院選前と後、補正予算は2度組まれることに~」(2022年4月22日)「https://www.dlri.co.jp/report/macro/186096.html
2 原油価格の高騰が続き、対策がフル稼働した場合と考えられる。

星野 卓也


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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