電気代の燃料費調整上限と消費者物価指数

~原燃料費調整上限の存在により、電気代・ガス代の追加的な上振れ余地は限定的~

新家 義貴

要旨
  • 電気代、都市ガス代は消費者物価指数に大きな影響を与えるため、その動向を正確に予測することが重要。その点、家庭用の電気料金、ガス料金について、多くの契約で原燃料費調整部分について上限が定められていることに留意する必要がある。

  • 電気代において、過去の燃料価格上昇の影響が遅れて反映されることで、今後上限に到達するケースが増加し、資源価格の上昇が電気代に反映されにくくなる。そのため、5月以降のドバイ原油価格が100ドル、1ドル128円で推移する場合でも、120ドル、140円で推移する場合でも、先行きの電気代のパスにほとんど差は生じない。つまり、仮に今後資源価格が一段と上昇しても、そのことによる追加的なCPI電気代の上振れ余地は限定的である。

  • ドバイ原油価格が120ドル、1ドル140円で推移するケースにおいて、仮に上限が存在しないとした場合の電気代を試算すると、上限がある場合と比較してCPIに0.7ポイントもの差が出る。燃料費調整における上限の存在が、CPIに非常に大きな影響を与えることが分かる。また、ガス代においても、原料費調整の上限が存在する契約があることから、燃料費価格上昇の影響が今後CPIに反映されにくくなる。

  • 資源価格の上昇が長期化するようであれば、上限の引き上げが議論される可能性がある。

電気代、ガス代の上限の存在が、CPIを攪乱

電気代、都市ガス代のCPIコアへの寄与度は直近3月時点で前年比+0.95%Ptにも達し、影響は非常に大きい。電気代、ガス代は燃料価格の動向に大きく影響されるため、資源価格が高騰するなか、これらの動きが今後どうなるかは、消費者物価指数の先行きを考える上で重要だ。

ただし、これを考える上で重要になってくるのが、家庭用の電気料金、ガス料金について、多くの契約で燃料費調整部分について上限が定められている点である。この上限の存在により、仮に今後資源価格がさらに高騰したり円安が急激に進行したとしても、それがCPIに反映されにくくなることに注意が必要だ。本稿では、こうした上限の存在を踏まえた上で、電気代、ガス代の今後について試算を行う。

電気代の燃料費調整制度と「上限」の存在

まずは電気代についてみてみよう。電気料金の算定においては、燃料費調整という仕組みが存在する。これは輸入燃料価格の変化を料金に反映させるための制度であり、過去の燃料費をもとに自動的に電力料金が調整される。具体的には、原油・LNG・石炭それぞれの3ヶ月平均の貿易統計価格にもとづいて平均燃料価格を算定、それを2か月後の電気料金に反映する。たとえば1~3月の平均燃料価格の動きは、6月分の電気料金に反映されることになる。3ヶ月の平均をとる上、2ヵ月のラグがあるため、電気料金への反映は資源価格の変化から半年程度遅れる。「電気料金は資源価格高騰の影響を遅れて反映する」と言われるのは、この制度が存在するためである。

なお、この燃料費調整には、需要家(家計)保護の観点から上限が存在する契約がある。この場合、実際の平均燃料価格が、各社が設定する基準燃料価格から1.5倍(ガスの場合は1.6倍)に達した場合、それ以上は燃料費調整による料金引き上げは行われない。2016年の電力小売自由化、料金自由化後、こうした上限が設定されていない契約も増えているが、消費者物価指数においては、大手10社における規制料金を元に電気代が計算されており、これには上限が存在する。そのため、CPIの電気代ではすべて上限があるものとして考える必要がある。

今後資源価格が一段と上昇しても、追加的な電気代上振れ余地は限定的

こうした上限を踏まえた上で、CPIにおける電気代の先行きを試算してみよう。まず、5月以降のドバイ原油価格が100ドル、1ドル128円で推移するケースを考える。22年4月時点で既に5社が燃料費調整の上限に到達しているが、過去の燃料費上昇の影響が遅れて反映されてくることで今後もこうした動きが続き、22年10月にはすべてで上限に達することになる。ここで比較のため、仮に上限が存在しないとした場合の電力料金も試算し、比較したものが図1、2である。もし上限がないと仮定した場合、上限ありの実際の推移と比較して、CPIは瞬間風速で0.3%Pt程度上振れることになる。

図1 電気代(消費者物価指数、水準)
図1 電気代(消費者物価指数、水準)

図1 電気代(消費者物価指数、水準)
図1 電気代(消費者物価指数、水準)

図2 電気代(CPIへの前年比寄与度、%)
図2 電気代(CPIへの前年比寄与度、%)

次に、5月以降のドバイ原油価格が120ドル、1ドル140円で推移するケースを試算した。この結果を前述のドバイ100ドル、1ドル128円のケースと比較したものが図3、4となるが、驚くべきことに、両者にほとんど差はない。

その理由は以下のとおりだ。そもそも原油の輸入では、入着までのラグがあることに加え、燃料費調整の計算においては、3ヶ月平均をとり、さらにそれが2カ月遅れで反映されるため、5月以降の為替レートや原油価格の動向が電気代に反映されるのは、どんなに速くても8~9月以降になる。だがその頃には(それ以前の燃料費上昇の影響が反映されることで)既にほぼ上限に達していることから、5月以降に一段と原油価格が上昇したとしても、追加的な押し上げ余地はほぼ存在しない。結果として、5月以降の原油や為替が横ばいであっても急上昇であっても、先行きの電気料金のパスにほとんど差は生じない。

ちなみに、原油価格が120ドル、1ドル140円のケースでも、仮に上限が存在しないとした場合の電力料金を試算すると、CPIに最大0.7ポイントもの差が生じ、上限による抑制効果が極めて大きくなる。上限があるか無いかで、CPIに非常に大きな影響を与えることが分かるだろう。

図3 電気代(消費者物価指数、水準)
図3 電気代(消費者物価指数、水準)

図3 電気代(消費者物価指数、水準)
図3 電気代(消費者物価指数、水準)

図4 電気代(CPIへの前年比寄与度、%)
図4 電気代(CPIへの前年比寄与度、%)

ガス代でも上限の存在がCPI抑制要因に

続いて、都市ガス代を考える。消費者物価指数では、調査市町村別に都市ガスを供給している代表的なガス会社を1社選定し、その価格を調査するとされている。電気代とは異なり、必ずしも上限ありの契約のみが反映されるわけではないことに注意が必要だ。もっとも、都市ガスでは、多くの事業者が原料費調整において上限を設定していない一方、シェアの大きい大手においては調整の上限が設定されていることが多い。上限ありと無しとが混在するものの、シェアの大きさから考えて、ある程度は上限ありの価格を反映すると考えても良いだろう。以下では、便宜上、すべての契約で上限があると仮定して試算を行った 1。また、ガス代の原料費調整には、LNG(液化天然ガス)とLPG(液化石油ガス)の輸入価格が影響するが、これらは原油価格に遅れて連動すると仮定している。

まず、5月以降のドバイ原油価格が100ドル、1ドル128円で推移するケースを考える。現時点では原料費調整の上限に達するところはないが、過去の燃料費上昇の影響が遅れて反映されてくることで8月~10月にかけて一部で上限に到達する見込みだ。もっとも、基準燃料価格には各社かなり差があることから、このケースでは上限に到達しない企業もある。ここで比較のため、仮に上限が存在しないとした場合のガス料金も試算し、比較したものが図5、6となるが、上限に到達する企業としない企業が混在するため、上限がないと仮定した場合と上限がある場合の差は、電気代ほどにはならない。

図 5 都市ガス代(消費者物価指数、水準)
図 5 都市ガス代(消費者物価指数、水準)

図 5 都市ガス代(消費者物価指数、水準)
図 5 都市ガス代(消費者物価指数、水準)

図6 都市ガス代 (CPIコアへの前年比寄与度、%)
図6 都市ガス代 (CPIコアへの前年比寄与度、%)

次に、5月以降のドバイ原油価格が120ドル、1ドル140円で推移するケースを試算した。この場合、22年末にはすべて上限に達することになる。この結果を前述のドバイ100ドル、1ドル128円のケースと比較したのが図7、8となるが、電気代と同様の理由で、両者にあまり差は出ない。

また、ドバイ原油価格が120ドル、1ドル140円のケースで、仮にすべての契約で上限が存在しないとした場合のガス料金を試算すると、CPIに瞬間風速で0.1~0.2%ポイントの差が出る。電気代ほどではないが、上限の存在がCPIに影響を与えることが分かる。

図 7 都市ガス代(消費者物価指数、水準)
図 7 都市ガス代(消費者物価指数、水準)

図 7 都市ガス代(消費者物価指数、水準)
図 7 都市ガス代(消費者物価指数、水準)

図 8 都市ガス代 (CPIコアへの寄与度、%)
図 8 都市ガス代 (CPIコアへの寄与度、%)

上限は維持されるか

このように、原燃料費調整制度における上限の存在が、CPIに大きな影響を与えることになる。特に、5月以降の原油や為替が横ばいであっても大幅に上昇したとしても、先行きの電気、ガス料金のパスに大きな差は生じない点は非常に重要だ。この点は、先行きのCPIを考える上で大きな意味を持つ。

注意が必要なのは、本稿における試算は、原燃料費調整における上限が現状のまま据え置かれることを前提にしている点である。必要に応じて料金改定申請を行うことは可能であり、基準燃料価格の見直しを通じて上限を引き上げることは十分考えられる。この場合、電気、都市ガス代は、本稿で別途試算した「上限なし」の動きに近いものになることが予想される。

燃料価格が大幅に上昇しているなかで上限が引き上げられれば小売価格が急激に上昇してしまい、消費者からの不満が強まることが予想されるため、上限は維持される可能性が高いと筆者は考えている。もっとも、仮に資源価格の上昇が長期化するようであれば、上限の維持が困難となり、引き上げが議論されることは十分考えられるだろう。CPIへの影響も大きいだけに、こうした点には注意しておきたい。


1 そのため、上限の存在によるCPI抑制効果がこの試算では過大に算出されていることに注意が必要。

新家 義貴

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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