インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

豪中銀はいよいよ「忍耐強さ」を脱ぎ捨てた

~利上げ実施に向けた布石か、商品市況の上昇と中銀のタカ派傾斜が豪ドル相場を下支えする展開に~

西濵 徹

要旨
  • 年明け以降の豪州は、オミクロン株による新型コロナの感染再拡大が直撃したほか、足下ではBA.2の感染拡大が続く。ただし、ワクチン接種の進展を理由に「ウィズ・コロナ」戦略が維持されるなど行動制限は緩和されている。一方、行動制限の緩和にも拘らず人の移動は頭打ちが続くなど雇用への不透明感はくすぶる。
  • ただし、行動制限の緩和や国際商品市況の上昇を受けて雇用環境は改善が続いており、家計消費も底入れするなど景気回復を促す動きがみられる。コロナ禍を経た行動様式の変化を受けて不動産市況は上振れしており、中銀は金融政策の正常化を進めてきたが、足下でも上昇が続いているほか、銀行の貸出態度緩和を受けて企業マインドも堅調な推移をみせるなど、足下の景気は総じて回復の動きが続いているとみられる。
  • 国際商品市況の上昇に伴いインフレ率は上振れしているが、中銀は5日の定例会合でも現行の金融緩和の維持を決定した。ただし、先行きの政策運営を巡って、物価及び労働コストを巡るデータに基づく変更を示唆し、これまで維持した「忍耐強く対応する用意がある」との文言を削除し、利上げ実施の布石を打つ動きをみせた。豪ドル相場は商品市況の上昇を背景に上昇しているが、中銀のタカ派姿勢も相場を下支えしよう。

年明け以降の豪州においては、オミクロン株による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染再拡大の動きが続いており、足下ではオミクロン株の派生型(BA.2)の感染が急拡大するなど、依然として予断を許さない状況が続いている。ただし、オミクロン株については他の変異株に比べて感染力が極めて高いものの、陽性者の大宗を無症状者や軽症者が占めるなど重症化率が低いとされる上、世界的にはワクチン接種の進展を追い風に経済活動の正常化を図る『ウィズ・コロナ』に動く流れが広がっている。同国においても、足下の完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は8割以上に達している上、昨年11月に開始された追加接種(ブースター接種)を受けた人の割合も5割に達するなど、世界的にもワクチン接種が進んでいる国のひとつとなっている。さらに、今月からは高齢者などを対象に4回目接種が開始されるなど、ワクチン接種を通じて経済活動の正常化を前進させる取り組みは着実に進められている。こうしたことから、足下の感染動向については人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)が2,223人(4月4日時点)と極めて厳しい状況が続いているものの、先月以降はほとんどの州で社会的距離規制が緩和されているほか、屋内におけるマスク着用義務の緩和に動くなど『ポスト・コロナ』に向けた動きもみられる。ただし、感染動向の急激な悪化を受けて医療機関や検査施設がひっ迫するなか、行動制限が緩和されているにも拘らず感染予防に向けて自主的な行動規制の動きが広がりをみせている。結果、昨年末にかけては感染動向の改善も追い風に人の移動は底入れの動きを強めてきたものの、年明け以降は感染再拡大を受けて一転して頭打ちの動きを強めたほか、その後も回復力の乏しい展開が続くなど景気の足を引っ張ることが懸念される。

図 1 豪州国内における感染動向の推移
図 1 豪州国内における感染動向の推移

図 2 COVID-19 コミュニティ・モビリティ・レポートの推移
図 2 COVID-19 コミュニティ・モビリティ・レポートの推移

このように景気を巡る不透明要因はくすぶるものの、行動制限が緩和されていることを反映して、大都市部を中心に調整してきた雇用環境が大きく底入れしているほか、労働需給のひっ迫感が強まるなかで賃金上昇圧力が強まる動きが確認されるなど、家計部門を取り巻く状況は改善している。さらに、昨年以降における世界経済の回復を追い風とする国際商品市況の上昇の動きは、交易条件の改善を通じて国民所得を押し上げている。さらに、ここにきてウクライナ情勢の悪化を理由とする国際商品市況の上振れを受けて交易条件は上昇ペースを強めるなど、国民所得を巡る状況の急速な改善が期待出来る。こうした動きを反映して、上述のように年明け以降の人の移動は下振れする動きが確認されているにも拘らず、家計消費の動向を示す小売売上高は堅調な動きをみせるなど、行動制限の緩和を受けてペントアップ・ディマンドが発現している様子がうかがえる。また、足下の雇用環境の改善に加え、コロナ禍を経た生活様式の変化が進むなか、中銀(豪州準備銀行)によるコロナ禍対応を目的とする金融緩和を追い風に金融市場は『カネ余り』の様相を強めるとともに、低金利環境が続いていることも追い風に全土で不動産市況は上昇傾向を強めてきた。こうした事態を受けて、中銀は昨年後半以降に段階的に金融政策の正常化に向けた取り組みを前進させているものの、足下の不動産価格は大都市部で高止まりするとともに、地方部においては上昇が続いている。さらに、不動産市況の上昇は銀行部門の貸出態度の改善を促しており、足下の企業マインドは堅調な動きをみせるなど景気を取り巻く状況は改善が進んでいるとみられる。

図 3 交易条件指数の推移
図 3 交易条件指数の推移

図 4 小売売上高の推移
図 4 小売売上高の推移

このように足下の景気を巡る状況に堅調さがうかがえる一方、昨年以降における国際商品市況の上昇の動きは全世界的なインフレ圧力を招いており、同国においてもインフレ率は3四半期連続で中銀の定めるインフレ目標を上回る推移が続くなど、インフレが顕在化している。さらに、足下ではウクライナ情勢の悪化を理由に国際商品市況は高止まりしており、先行きに亘ってインフレが長期化することが懸念される。こうしたなか、中銀は5日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レートを0.10%、為替決済残高に対する金利をゼロに据え置く現行の金融緩和を維持する決定を行った。会合後に公表された声明文では、物価動向に関連して「ウクライナ問題や世界的なパンデミックからの回復に伴う旺盛な需要などを理由に世界的にインフレ率が急上昇しており、債券利回りが上振れするとともに、政策金利の見通しも高まっている」との見方を示した。一方、同国経済については「引き続き底堅く、感染再拡大に伴う落ち込みから回復している」としつつ、「物価上昇は家計を圧迫しており、洪水被害により多くの地域が厳しい状況に直面している」との見方を示している。なお、労働市場の動向について「豪経済の力強さを示唆している」とした上で「今後数ヶ月間にわたって力強い成長が続く」としつつ、賃金動向については「回復しているがコロナ禍前の低水準に留まっている」とし、「労働需給のひっ迫を勘案すれば賃金上昇が続くが、そのペースは緩やかなものに留まる」との見通しを示した。物価動向については「上振れしているが、他の国々に比べれば低水準に留まる」としつつ、「今後数四半期に亘って一段の上振れが見込まれる」としつつ、「供給要因や世界的なエネルギー価格の動向、労働市場の環境に左右される」との見方を示した。その上で、金融市場を取り巻く状況については「引き続き極めて緩和的」としつつ、豪ドル相場について「商品市況の上昇を受けて上昇している」とした上で、住宅価格について「過去1年に亘って力強く上昇したが、足下では一部で緩和している」との認識を示した。政策運営については「コロナ禍対応を目的に完全雇用と物価安定を目的とし、利上げ実施前にインフレ率の目標域への持続的収束の確認を望んできた」とこれまでの対応を総括する一方、先行きは「インフレ率はさらなる上振れが予想される一方、労働コストの上昇はインフレ率の目標域への持続的収束を下回る」との認識を示すなど、現行の緩和維持を正当化する姿勢をみせた。一方、「今後数ヶ月以内に物価及び労働コストの双方に関する追加的な情報が入手可能となる」とした上で、「今後の政策運営に当たってはこれらの情報を評価する」としつつ、前回会合まで維持した「忍耐強く対応する用意がある」との文言を削除するなど、利上げ実施に向けた布石を打ったものと捉えられる。足下の豪ドル相場は国際商品市況の上昇も追い風に上値を追う動きが続いているが、先行きも国際商品市況の高止まりに加え、中銀による『タカ派』傾斜も追い風に豪ドル相場は堅調な推移が見込まれよう。

図 5 インフレ率の推移
図 5 インフレ率の推移

図 6 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 6 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ