米国 約3年ぶりの利上げ決定(22年3月15、16日FOMC)

~連続利上げを示唆、ドットでは23年末2.75%への利上げが適切と予想~

桂畑 誠治

22年3月のFOMCでは、25bpの利上げを決定したほか、バランスシートの縮小開始を早ければ5月に決定する可能性があることを明らかにした。また、新しいドットチャートでは、22年末の適切なFFレート誘導目標の水準が大幅に上方シフトし、22年の利上げ回数は25bpで7回となった。今回のFOMC声明文、FOMC参加者の経済・金利予測、パウエル議長の記者会見では、FRBがインフレ抑制のため金融引き締めに積極的になっていることを示したが、想定の範囲内だった。

3月15、16日に開催されたFOMCで、FRBは、政策金利であるFFレート誘導目標レンジを0.25~0.50%に引き上げることを賛成8人、反対1人で決定した。ブラード・セントルイス連銀総裁は予想通り50bpの利上げが適切として25bpの利上げに反対した。今回、18年12月以来3年3カ月ぶりの利上げ決定のほか、継続的な利上げが適切になるとの見方が声明文で示された。

FRBは、最大雇用と長期的に2%のインフレ率を目指しており、金融政策のスタンスを適切に引き締めることでインフレ率が目標の2%に戻り、労働市場が力強さを維持すると予想している。このため、今回FF金利誘導目標レンジの0.25~0.50%への引き上げを決定したほか、目標レンジの引き上げの継続が適切になるとの見方を示した。さらに、今後の会合で国債、政府機関債、住宅ローン担保証券の保有高の縮小を開始する見込みであることも示した。

FOMC声明文の景気判断は、前回同様「経済活動と雇用に関する指標は力強さを増し続けている」とインフレが高進するなかで米経済が堅調な拡大を続けているとの判断を示した。そのうえで、パンデミックに関する文言が全て削除されており、新型コロナウイルス感染症の景気への影響が小さくなっていると判断した模様。

雇用情勢について「ここ数ヶ月、雇用の増加は力強く、失業率は大幅に低下した」と前回の「ここ数ヶ月、雇用の増加は堅調であり、失業率は大幅に低下した」から上方修正され、労働市場の好調さを指摘した。パウエル議長は、「経済は非常に力強く、労働需要は非常に力強い」と経済、労働市場の強さを強調した。

声明文でのインフレ判断は、「パンデミック、エネルギー価格の上昇、幅広い物価圧力に絡む需給の不均衡を反映し、インフレ率は高止まりしている」とインフレ率の高止まりを初めて声明文で指摘した。前回は「パンデミックと経済の再開に関連する需給の不均衡は、インフレ率の上昇に寄与し続けている」とインフレの大幅な上昇の評価を示さず、原因の説明にとどめていた。

また、議長は「インフレは長期目標である2%を大きく上回っている」、「サプライチェーンの混乱が新型コロナウイルスによって悪化、想定よりかなり長期化したため、価格上昇圧力は幅広い財やサービスに及んでいる」としたうえ、「エネルギー価格の上昇が物価全体の上昇に拍車をかけている」との見方を示した。

ロシアによるウクライナ侵略戦争の影響に関して声明文で「ロシアのウクライナに対する軍事侵攻は甚大な人的・経済的な苦しみをもたらしている」としたうえで、「米国経済への影響は極めて不明確なものの、目先は侵攻と関連事象がインフレのさらなる押し上げ圧力を生み出し、経済活動の重しになる可能性が高い」と戦争、制裁の行方などが不透明なため米国経済への影響は不確実だが、商品市況の上昇によるインフレ圧力の高まりが米国経済にマイナスの影響を与えるとの見方を示した。

議長は「ウクライナ侵攻が米経済に与える影響は極めて不透明」としつつ、「原油や商品価格の上昇が世界に及ぼす直接的な影響だけでなく、侵攻や関連事象は海外での経済活動を抑制し、供給網の混乱をもたらし、貿易や他の経路を通じて米経済に波及する可能性がある」として、直接的な影響だけでなく間接的に米国経済に悪影響を及ぼすことを指摘した。

今回、声明文から景気の先行き、インフレの先行き、リスクに関する文言が削除された。一方、パウエル議長は、「現在、総需要は強く、労働市場は極めて堅調であるほか、家計や企業のバランスシートも健全であり、金融緩和を弱めても、経済は堅調さを保つだろう」とFRBが利上げを継続しても、経済は堅調さを維持するとの見方を示したうえ、「今後1年間のリセッションの確率は高くない」との認識を示した。

インフレに関して、議長は「ウクライナ侵攻前は、インフレは1~3月にピークをつけ、今年後半に下がり始めるとみていた」とこれまでの予想を説明した。しかし、「ウクライナ侵攻に伴う原油や他の商品価格の高騰は、短期的にさらなる上昇圧力となるうえ、供給網の問題を生じさせており、供給網の問題解決も先送りされる可能性がある」と慎重な見方を示し、「今年の半ばまでは物価上昇率は高止まりし、23年には急激に下がるだろう」とインフレ見通しを上方修正した。

なお、前回声明文での景気やインフレの先行き、リスクに関する文言では「経済の道筋は引き続きウイルスを巡る状況に左右されるだろう」とワクチン接種、新型コロナウイルスの感染拡大やその対応で見通しが変化することを指摘したうえで、供給制約による経済成長の鈍化を受け「ワクチン接種と供給制約の緩和が進めば、経済活動および雇用の拡大持続とインフレ抑制を支援すると予想される」とこれまでのワクチン接種の進展に加えて、供給制約の緩和が経済や雇用の拡大、インフレの抑制に繋がるとの見方を維持した。リスクについて、前回「新型コロナウイルスの新しい変異種を含め、経済見通しに対するリスクは依然として残されている」と新たな変異種に対する警戒を明示していた。

今後の金融政策運営に関して、FRBは声明文で今後も「経済見通しに影響を及ぼす情報を注視し、目標の達成を阻害するようなリスクが生じれば、金融政策スタンスを適切に調整していく用意がある」と金融政策を柔軟に運営する方針であることを強調した。

議長は、「委員会は物価安定を回復するために行動する義務があると切実に感じており、そのための手段を活用していく」と金融引締めを継続することを強調した。議長は「供給に一段と整合するように、経済全般の需要を減速させたい」とインフレを低下させるために需要を弱める必要があるとの考えを示した。

バランスシートの縮小について議長は「今回の枠組みも、前回のプロセスを熟知している人なら非常に見慣れたものになるだろう」と前回同様に満期を迎えた証券の再投資額を縮小する形で実施することを繰り返したうえ、「ただ、今回は前回よりも速いペースで、かなり早い時期に行う」とバランスシートの縮小が5月に決定され、6月から開始される可能性があることを示唆した。規模は前回よりも速いペースとなる1000億ドル程度が見込まれる。

また、議長は「全ての会合が生きた会合であり、利上げの加速が適切と判断すればそうする」と22年の残りのFOMCすべてで利上げの可能性があるほか、必要であれば利上げ幅の拡大を行う考えであることを示した。一方で、「保有資産の縮小は、追加の利上げに相当する可能性がある」としてうえで、「利上げのペースについてはまだどうなるかわからない」と、バランスシートの縮小ペース、金融市場の反応によって利上げペースが変化する可能性があることも示唆した。

今後、新型コロナウイルスのパンデミックの継続、ウクライナ情勢の深刻化が続く可能性があるなかで、潜在成長率を上回る経済成長の持続、労働市場の逼迫、FOMC参加者によるインフレ予想の21年12月時点からの上方シフトを背景に、FRBは3月の利上げを含め22年に25bpの利上げを7回行うと予想される。FRBは、23年前半までにFFレート誘導目標をFOMC参加者の推計したターミナルレートである2.375%を上回る2.5%程度に引き上げると見込まれる。

【FOMC参加者による経済・金利予測:22年3月】

FOMC参加者による経済・金利予測(中央値)では、22年の実質GDP予測(10-12月期の前年同期比)は+2.8%とインフレの高進を受け、前回12月の+4.0%から下方修正された。一方、23年+2.2%(前回+2.2%)、24年+2.0%(前回+2.0%)と変わらずとなり、利上げが継続されるなか、潜在成長率程度の成長を維持できると予想されている。

失業率の予測(10-12月期の平均値)は、利上げ見通しの大幅な引き上げにもかかわらず22年3.5%(前回3.5%)、23年3.5%(前回3.5%)、24年3.6%(前回3.5%)と労働市場の逼迫が続くと予想されている。

インフレ見通し(10-12月期の前年同期比)は、22年にPCEデフレーターが+4.3%(前回12月+2.6%)、PCEコアデフレーターが+4.1%(前回+2.7%)と今回も大幅に上方修正された。23年のPCEデフレーターは+2.7%(前回+2.3%)、PCEコアデフレーターは+2.6%(前回+2.3%)と大幅に上方修正され、インフレの高止まりが長期化する予想に変更された。24年のPCEデフレーターは+2.3%(前回+2.1%)、PCEコアデフレーターは+2.3%(前回+2.1%)と上方修正され、24年もFRBの目標を上回った状態が続くと予想された。

ドットチャート(FFレート誘導目標レンジの中央値、年末)では、22年は1.875%(前回0.875%)、23年は2.75%(前回1.625%)、24年は2.75%(前回2.125%)と予測期間を通じて上方シフトした。長期は2.375%と中立金利の見方が下方シフトした。

利上げ回数では25bpの利上げが22年に7回、23年に3、4回の予想に上方シフトした。

FOMC参加者の経済金利予測
FOMC参加者の経済金利予測

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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