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英ジョンソン首相の政治生命は風前の灯

~最側近が辞任、党首不信任投票開始は時間の問題~

田中 理

要旨
  • ジョンソン首相を長年支えてきた最側近が、最近の首相の言動を批判して3日に辞任した。コロナの感染予防措置に違反するパーティ疑惑に揺れる首相にとって新たな痛手。党首不信任投票は年1回の縛りがあるため、多くの議員は投票のタイミングを見極めようとしている。パーティー疑惑を巡る警察の捜査や内部報告書の追加公表を待って、不信任投票が開始される可能性が高い。

  • EU離脱後の混乱が続く北アイルランドでは、英国本土からの農産品輸入時の検疫検査の廃止を求めて、自治政府を率いる第一首相が辞任した。5月に予定される北アイルランド議会選挙の前倒しにつながる可能性や、難航する英国とEU間の北アイルランドの運営見直し協議に影を差す恐れがある。

英国では4日、ジョンソン首相の上級スタッフ(ローゼンフィールド主席補佐官、ドイル主席広報官、レイノルズ主席私設秘書、ミルザ主席政策官)4名が相次いで辞任した。このうち3名の辞任は首相官邸でのパーティー疑惑の責任を取ったものであるのに対し、政策ブレーンであるミルザ氏の辞任は、ジョンソン首相が野党・労働党のスターマー党首を虚偽に基づいて非難し、謝罪を進言したものの聞き入れられなかったことを直接の理由に挙げている。首相をロンドン市長時代から支えてきた最側近のミルザ氏からも愛想を尽かされた形で、人心離反や求心力低下を如実に表している。1月31日にパーティー疑惑に関する内部調査の報告書が公表されたことを受け、ジョンソン首相は謝罪とともに、官邸の統治機構やスタッフの刷新を約束していた。上級スタッフ3人の辞任はこれを反映したものとみられるが、ジョンソン・シンパのミルザ氏の辞任の衝撃を和らげるために3人の辞任発表を前倒ししたとの見方も浮上している。保守党のある非閣僚議員は今回の辞任劇を「首相官邸にとって悪夢ばかりか、完全なメルトダウン」と評したとされる(BBC)。

今のところジョンソン首相の保守党党首不信任投票の開始に必要な54名の書簡は集まっていない。不信任投票は年に1回の縛りがあるため、多くの議員は投票のタイミングを見極めているとされる。保守党内ではジョンソン首相では次の総選挙を戦えないとの声が高まっている。不信任投票の開始はもはや時間の問題で、パーティー疑惑を巡るロンドン警視庁の捜査結果や、警察の捜査終了後に公表予定の追加の内部調査報告書の結果を待って、開始される可能性が高い。保守党は議会の過半数を保持しており、ジョンソン首相が党首の座を追われた場合も、解散・総選挙が前倒しとなる可能性は低い。後継党首を選出し、新たな首相に就任する。有力な後継候補とされるスナック財務相は、ジョンソン首相のスターマー党首への発言に苦言を呈すなど、首相との距離を置き始めている。

こうしたなか、5月5日に議会選挙を控える北アイルランドの政治情勢も不安定化している。北アイルランドの自治政府を率いるギバン第一首相は3日、EU離脱後に開始された北アイルランドと英国本土との国境管理の廃止を求める所属政党・民主統一党(DUP)の主張が認められなかったことを理由に辞任した。DUP所属のプーツ農業相は2日、国境管理には北アイルランド議会の承認が必要として、英国本土から北アイルランドに農産品が流入する際の検疫検査の廃止を求めていた。EU側はこれに猛反発し、英国政府に北アイルランド自治政府の判断を覆すように求めた。英国政府はDUPの主張の法的妥当性を検討するとしているが、今も検査が続けられている。北アイルランドの運営規則の見直しを求める英国とEU間の協議は、昨年12月にトラス外相がEU離脱担当相を引き継いだ後も断続的に続けられているが、引き続き突破口が見出せずにいる。今回の北アイルランド自治政府による国境管理を一方的に廃止する試みは、今後の協議にも影を落としかねない。北アイルランド議会第1党で自治政府を率いるDUPは、北アイルランドを英国と事実上切り離す解決策に、英国との一体性継続を求めるユニオニスト系住民の不満が募り、別のユニオニスト政党に票が分散する形で苦戦を強いられている。各種の世論調査では、北アイルランド再統一を主張するナショナリスト政党・シンフェイン党にリードを許している。第一首相の辞任は議会選に向けた支持回復を狙ったものとみられる。第一首相が辞任した場合、議会第二党(シンフェイン党)が輩出するオニール副第一首相も辞任することになる。別の閣僚は留任することになるが、予算など重要な政策決定はできない。自治政府運営が機能不全に陥った場合、議会選挙が前倒しされる可能性がある。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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