春闘での大幅賃上げは期待薄

~昨年からは改善も、コロナ前には遠い。賃上げは物価上昇に追い付かず。~

新家 義貴

要旨
  • 2022年の春闘賃上げ率を1.98%と、21年の1.86%から伸びが高まると予測する(21年11月時点の予測から変更なし)。21年春闘ではベアはほぼゼロにとどまっていたが、21年の企業業績改善を受けて22年はベアを復活させる企業が増えるだろう。

  • もっとも、ベアは小幅なものにとどまるとみられ、コロナ前の伸びには距離が残る結果となる可能性が高い。企業によって業績のバラつきが大きいことから、業種の横並びや各社一律の賃金引き上げは現実的でなく、業績が悪化する企業ではベアの実施は引き続き困難。業績が好調な企業では賃上げが見込まれるが、ベアの大幅増額までは難しい。先行き不透明感が極めて強いなか、経営側は固定費の最たるものである基本給の大幅引き上げには踏み切りにくい。足元の物価上昇も、企業にとってはコスト増要因にほかならず、賃上げに繋がるものではない。

  • 22年のボーナスは21年の業績改善を受けて増加が見込まれるものの、月例給与を含めた賃金全体でみれば、伸びが明確に高まるには至らない。こうしたなか、消費者物価指数は先行き一時的に+2%に近づく展開が予想される。賃上げは物価の上昇に追い付かない可能性が高い。

労務行政研究所が2月2日に公表した「2022年賃上げ等に関するアンケート調査」によると、2022年の賃上げ見通しは2.00%となり、昨年の回答である1.73%を上回った。この調査は、伸び率の方向性が実績と一致することが多く、実際の春闘でも昨年から賃上げ率が高まる可能性が高いことが示唆される。2021年春闘では、極めて業況が厳しく、大幅に悪化した2020年度の業績を元に交渉が実施されたことからベアを見送る企業が続出し、ベースアップはほぼゼロにとどまっていた。一方、2021年の企業業績は改善しているため、2022年はベアを復活させる企業も増えるだろう。

もっとも、前年から改善が見込まれるとはいえ、コロナ前の伸びには距離が残る結果となる可能性が高い。新型コロナウイルスによるショックが一様なものではなかったことから、企業によって業績のバラつきが大きくなっていることが背景にある。業種の横並びや各社一律の賃金引き上げは現実的ではなく、業績が悪化する企業ではベアの実施は引き続き困難だ。

業績が好調な企業でもベアの大幅増額は難しい。資源価格高騰による業績悪化リスク、海外経済減速懸念等、もともとリスク要因が存在していたところに、新型コロナウイルスの感染急拡大という大きな逆風が吹いている。仮に今後オミクロン株が収まったとしても、いずれまた新たな変異株が登場しないとも限らない。来期以降の自社の業績を見通すことは困難であり、不透明感が極めて強いなかでの春闘とならざるを得ない。ボーナスであれば、前年の業績が比較的素直に反映されるのだが、月例給与はそれだけでは決まらない。業績に応じて増減させることができるボーナスとは異なり、月例給与はいったん引き上げると後々下げることは困難という特徴がある。経営側は、自社の今後の持続的な成長が展望できなければ、基本給の大幅引き上げには踏み切りにくいだろう。現在のように、先行き不透明感が極めて強い状態では賃上げに積極的にはなりづらい。

なお、足元で物価が上昇しつつあり、先行きも伸びを高める可能性が高いことが、賃上げを後押しするとの見解が聞かれることがあるが、現実的には難しい。足元での物価上昇は、需要の増加により生じたものではなく、あくまでコストプッシュによる、いわゆる「悪い物価上昇」である。企業にすれば収益圧迫要因にほかならず、「物価が上昇しているから賃上げ」とはならないだろう。

以上を踏まえ、2022年の春闘賃上げ率を1.98%と予測する(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)。21年11月18日に予測した数字から変更はない。「昨年から伸びは高まるが、改善幅は限定的なものにとどまり、コロナ前には遠い。」との見方も変わらない。コロナ前の伸びへの回復は2023年以降に持ち越しとなる。

こうしたなかで懸念されるのが生活必需品価格の上昇だ。原油等、資源価格の上昇が続いており、今後もエネルギー価格の伸びが大きく高まる可能性が高いことに加え、食料品価格の上昇も目立ってきた。こうした押し上げ圧力が当面残存することから、消費者物価指数は先行き一時的に+2%に近づく展開が予想されている。ベアが小幅なものにとどまるとみられるなか、家計にとっては厳しい状況である。ボーナスについては業績改善を反映する形でそれなりに伸びが高まることが予想されるものの、賃金全体としてみた場合、伸びは物価上昇に追い付かない可能性が高そうだ。春闘での賃上げが今後の個人消費の押し上げ要因になる展開は想定し難いだろう。

春闘賃上げ率の推移(前年比)
春闘賃上げ率の推移(前年比)

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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