「半導体次第」の鉱工業生産

~自動車の回復待ち~

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年央に資産購入を終了、23年前半に利上げを開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。NYダウは+0.3%、S&P500は+0.2%、NASDAQは▲0.2%で引け。VIXは22.60へと上昇。
  • 米金利カーブは5年ゾーンを中心に金利低下。10年金利は5営業日ぶりに低下。債券市場の予想インフレ率(10年BEI)は2.375%(▲1.9bp)へと低下。実質金利は▲0.861%(▲0.2bp)へと低下。
  • 為替(G10通貨)はUSDが全面高。USD/JPYは111前半へと上伸。コモディティはWTI原油が75.3㌦(▲0.2㌦)へと低下。銅は9269.0㌦(▲93.0㌦)へと低下。金は1735.9㌦(▲14.1㌦)へと低下。

米国 イールドカーブと米国 予想インフレ率(10年)と米国 実質金利(10年)
米国 イールドカーブと米国 予想インフレ率(10年)と米国 実質金利(10年)

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 予想インフレ率(10年)
米国 予想インフレ率(10年)

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

経済指標

  • 8月米中古住宅販売成約指数は前月比+8.1%と市場予想(+1.4%)を大幅に上回った。3ヶ月平均でみても増加傾向に回帰しており、住宅販売件数の再加速を示唆。

中古住宅販売件数・成約指数
中古住宅販売件数・成約指数

注目ポイント①

  • 日本の8月鉱工業生産は前月比▲3.2%と2ヶ月連続の減産。自動車工業が前月比▲15.2%(寄与度▲2.3%pt)と極めて大幅な減産となり全体を下押し。半導体不足に加え、アジア地域からの部材調達難が重くのしかかった。また電気・情報通信機械工業も前月比▲10.6%(寄与度▲0.9%pt)と大幅な減産であった。半導体不足によってノート型パソコンの生産が減少したほか、自動車の減産に付随してカーナビや自動車用電気照明器具が減少。下押し寄与度はこの2業種で約3.2%ptと大きく、半導体不足の深刻度合いを浮き彫りにする結果であった。鉱工業生産の水準は2021年5月以来の水準となり、足踏み状態にある。

  • 出荷は前月比▲3.2%と2ヶ月連続の低下。在庫も▲0.3%と2ヶ月連続の低下であった。出荷、在庫ともに自動車の下押し寄与が大きい。在庫率は+3.4%と2ヶ月連続上昇であった。もっとも、出荷と在庫の前年比差分から算出した出荷・在庫バランスは+11.6%と明確なプラス圏を維持している。自動車業の極端な動きによって歪められているものの、全体としてみれば、企業は余分な在庫を抱えておらず、先行きの生産は回復し易い状況にあると言える。

鉱工業生産指数と出荷・在庫バランス
鉱工業生産指数と出荷・在庫バランス

鉱工業生産指数
鉱工業生産指数

出荷・在庫バランス
出荷・在庫バランス

  • 生産の先行きを読むうえで有用な生産予測調査によれば9月は前月比+0.2%、10月は+6.8%と増産計画が示された。経産省が独自にバイアスを補正した9月の生産予測値は▲1.3%であった。バイアス補正前の計画によると9月も輸送用機械は▲8.7%と減産が続く反面、化学(+9.4%)や生産用機械(+5.6%)が増産となる。調査時期は9月上旬であるから、8月下旬に相次いだ自動車大手の追加減産の決定は概ね織り込まれていると思われる。輸送用機械は10月に+15.8%の増産を見込んでおり、それが実現すれば鉱工業全体も増産が予想される。

自動車工業(生産)
自動車工業(生産)

  • 株式市場と関連の深い電子部品・デバイス工業に目を向けると、8月の生産は前月比▲2.9%の減産であった。もっとも3ヶ月平均では+0.6%と8ヶ月連続の増産を達成しており強さは維持されている。5Gの本格稼働、世界的なDXの進展により、集積回路(IC)、固定コンデンサ、電子回路基板、水晶振動子、コネクタ等の生産が高水準で推移している。電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランス(3ヶ月平均)はプラス幅縮小も高水準を維持。一部の半導体は価格が落ち着きつつあるものの、セクター全体として製品需給は引き締まっており、当面は製品価格の上昇傾向が持続しよう。循環図の位置取りから判断しても、出荷の増加と在庫の復元はしばらく続きそうだ。同じく株式市場との関連が深い半導体製造装置(←生産用機械工業に分類される)の生産は前月比▲2.5%と減産も、3ヶ月平均で+9.4%となり、水準は過去のシリコンサイクルのピークを遥かに凌駕している。グローバル半導体メーカーが能力増業投資を急ぐなか、製造装置分野で競争力を有する本邦企業への引き合いは強い。このように良くも悪くも半導体関連が全体の生産を牽引する構図が続いている。

IT関連財(生産)
IT関連財(生産)

出荷・在庫バランス 電子部品・デバイス工業と電子部品・デバイス工業
出荷・在庫バランス 電子部品・デバイス工業と電子部品・デバイス工業

出荷・在庫バランス 電子部品・デバイス工業
出荷・在庫バランス 電子部品・デバイス工業

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

藤代 宏一


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