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2021.08.06
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来年中の利上げが視野に入るBOE
~再投資終了の政策金利水準を0.5%に引き下げ~
田中 理
- 要旨
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BOEは8月の政策委員会で政策変更を見送ったが、予測期間中に金融政策をやや引き締める必要があることを示唆。再投資を終了する政策金利の水準を従来の1.5%から0.5%に引き下げた。足元の物価上昇は一時的なものであることや、デルタ株の感染が景気拡大を脅かすことはないと判断。修正後の見通しに基づけば、新規の資産買い入れを年末に終了、来年中に利上げを開始、2023年末までに0.5%まで利上げ、2024年以降に再投資を終了することを見込む。
5日に結果が公表された英イングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)では、①政策金利を0.1%で据え置くことと、②社債買い入れ残高を200億ポンドに維持することを全会一致で、③国債買い入れ残高を8750億ポンドに維持することを賛成8・反対1の賛成多数で決定した。現在の買い入れペース(週34億ポンド)が続けば、年末頃までに新規の国債買い入れを終了し、その後は政策金利が0.5%に引き上げられるまで(従来は1.5%だったが、今回のMPCで買い入れ縮小を開始する政策金利の水準が引き下げられた)、満期を迎えた国債の再投資を通じて買い入れ残高が維持される。反対票を投じたソンダーズ外部委員は、国債の買い入れ残高を8300億ポンドに引き下げることを主張。これは9月末にも新規の国債買い入れを終了するのに相当する。
前回のMPCで唯一、新規資産買い入れの早期終了を主張したチーフエコノミストのホールデン氏が6月末で退任。その後、ソンダーズ外部委員とラムスデン副総裁が7月中旬に、インフレ圧力の高まりで従来の想定よりも早いタイミングで金融緩和の縮小を検討する必要があると発言し、新たにタカ派傾斜するメンバーが現れた。四半期に1回、経済や物価見通しを点検する今回のMPCでは、この2人が国債買い入れ残高の引き下げを主張し、賛成7・反対2で票が割れる可能性もあったが、反対票を投じたのはソンダーズ委員1人にとどまった。今回賛成票を投じたブリハ外部委員が8月末に退任予定で、後任には経済協力開発機構(OECD)のチーフエコノミストなどを歴任したマン氏(最近までシティグループのグローバル・チーフ・エコノミスト)が新たな外部委員に就任する。議会公聴会での発言からは、マン氏は物価上昇の一時的な側面に着目し、早期の緩和縮小に否定的で、MPC内の主流派意見に近いとみられる。ホールデン氏の後任はまだ決まっていないが、年末を待たずに新規の資産買い入れが終了する可能性は遠退いた。
同時に公表された金融政策レポート(旧物価レポート)では、2021年の英国の実質GDP成長率の見通し(市場金利予想に基づく最頻値、以下同じ)を7.25%で据え置き、2022年(前回:5.75%→今回:6%)と2023年(1.25%→1.5%)を僅かに上方修正した。英国ではデルタ株の爆発的な感染拡大後も行動制限の全面解除を決行したにもかかわらず、足元で感染者がピークアウト傾向にある。ワクチン接種の進展、大規模イベントの終了(サッカー欧州選手権)、感染拡大地域での人出減少、気温上昇、学校の夏季休暇入りなどが感染抑制に働いた模様だが、英国の識者の間でも最近の感染者の減少を合理的に説明するのは難しいとの見方が多い。BOEはデルタ株の影響で7-9月期の成長率見通しを僅かに下方修正したが、景気回復を脅かすとは考えていない。経済活動再開が景気の力強い回復を後押しし、10-12月期にはコロナ危機以前のGDPの水準を回復すると予想する。その後は挽回需要と政策効果の一巡で、景気回復ペースは徐々に巡航速度に軟着陸する。失業率の見通しは、2021年10-12月期(5.00%→4.70%)と2022年10-12月期(4.40%→4.30%)を下方修正し、2023年10-12月期を4.30%で据え置いた。従来は9月末で時短補助金が打ち切られ、補助金受給者の労働市場への再参入により、7-9月期の失業率が5.40%まで上昇すると見ていた。修正後の見通しでは失業率の上昇は見込んでいない。需給ギャップは前回同様に2022年中の解消を見込むが、成長率の上方修正に合わせて僅かに前倒しされる。
また、同レポートでは、エネルギー価格の上昇や経済活動再開後の供給不足の影響で、2021年10-12月期の消費者物価の見通しを大幅に上方修正(2.47%→4.00%)、2022年10-12月期も物価目標を上回り(2.02%→2.54%)、2023年10-12月期に物価目標への収斂(1.93%→1.99%)を予想する。BOEは最近の内外での物価上昇が一時的なものであると判断している。前回見通し対比で2%の物価目標を超過する期間が長期化するとみるが、現行0.1%の政策金利が2022年末時点で0.30%、2023年末時点で0.48%、2024年末時点で0.57%に引き上げられる先物金利の想定に基づけば、2023年10-12月期に物価が2%の目標に収斂し、予測最終期の2024年7-9月期には1.89%と物価目標をやや下回ると予想する。政策金利を現行の0.1%に据え置けば、物価は2%を持続的に上回ると予想しており(2022年末で2.68%、2023年末で2.17%)、来年中の利上げ開始が視野に入る。
BOEの現行の政策ガイダンスでは、「余剰生産能力の解消と2%の物価目標の持続的な達成に向けた大幅な進展を示す明確な証拠が得られるまでは、金融引き締めを行わない」とする。今回のMPCではこの条件が満たされているかが議論され、引き締めの条件が満たされているとして、ソンダーズ委員が資産買い入れの早期終了を主張したが、残りのメンバーは条件達成の濃淡の違い(①条件は満たされていない、②かなりの進展が見られるが、まだ完全には満たされていない、③条件は満たされたが、これはあくまで必要条件であり、十分条件ではない)こそあるが、現行の金融政策スタンスが引き続き適切であるとの判断で一致した。そのうえで、「経済活動が8月の金融政策レポートの中心予想に概ね沿って推移する場合、中期的な物価目標を持続的に達成するためには、予測期間中に金融政策をやや引き締める必要がある」との判断を示した。
なお、今回のMPCでは今後の金融政策の正常化に向けた指針が改められ、利上げが先か、資産買い入れの縮小が先かの議論が決着した。BOEはこれまで、次の緩和局面での十分な利下げ余地を確保する観点から、政策金利を少なくとも1.5%に引き上げるまで、満期を迎えた買い入れ資産の再投資を行うとしていた。下限とする政策金利の水準を引き下げたことを受け、今回、再投資を終了する政策金利の水準を従来の1.5%から0.5%に引き下げた。両者の順番を入れ替え、資産買い入れの縮小開始後に利上げを開始するとの見方も一部で浮上していたが、そうした方針の採用は見送られた。修正後のガイダンスでは、「政策金利が0.5%に到達し、経済環境に応じて適切な場合、満期を迎えた資産の再投資を中止し、買い入れ資産残高の縮小を開始する」方針が示される。今回の見通しに基づけば、BOEは2022年中の利上げ開始と、2024年以降の再投資終了を見込んでいる。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

