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ドイツとフランスの選挙シナリオ

~独緑の党の政権奪取は困難に、仏大統領選は三つ巴の戦いに~

田中 理

要旨

来年春のフランス大統領選挙、今年秋のドイツ連邦議会選挙に向けて、最新情勢をアップデート。フランスでは地域圏選挙後の世論調査が発表され、共和党のベルトラン氏の支持率が20%乗せ。マクロン大統領、極右のルペン候補に迫ってきた。現職大統領と極右候補の一騎打ちとみられた来年の大統領選は、ベルトラン氏を加えた三つ巴の戦いになりそう。ドイツでは緑の党の支持低下が続くなか、首相候補のベアボック共同党首の盗用疑惑が新たに浮上し、政権奪取は困難に。総選挙後の連立の組み合わせは、現与党のキリスト教民主同盟(CDU)と緑の党の黒緑連立が最有力だが、CDUとリベラル政党・自由民主党(FDP)の黒黄連立の可能性も出てきた。

6月20・27日の地域圏選挙の結果を受けたフランス大統領選の世論調査が発表され、選挙結果が振るわなかった国民連合のルペン候補が支持を落とした一方、マクロン大統領と共和党のベルトラン現オ=ド=フランス首長が支持を伸ばした(図表1)。選挙前に15%前後で推移していたベルトラン氏の支持率は20%に乗せ、ぺクレス現イル=ド=フランス首長(12%)、ヴォキエ現オーヴェルニ=ローヌ=アルプ首長(13%)と比べて頭一つ抜け出した形。共和党の大統領候補の一本化はこれからだが、ベルトラン氏が最有力の候補となりそうだ。共和党は前回の大統領選挙では、予備選挙を勝ち抜いた候補を党の大統領候補とした。ベルトラン氏は予備選への参加に否定的で、今回共和党が予備選挙を行うかは決まっていない。6月28日付けレポート「マクロン再選阻止を目指す第三の候補」で指摘した通り、現職大統領と極右候補の一騎打ちとみられた大統領選の行方が混沌としてきた。

図表
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秋に連邦議会選挙を控えるドイツでは、一時は第一党を窺う位置につけていた環境政党・緑の党の支持低下が続いており、保守系与党・キリスト教民主同盟(CDU)がリードを広げている(図表2)。緑の党躍進の原動力となったベアボック共同党首の首相候補への指名は、その後、同氏の党助成金の申告漏れや経歴書の誤りが次々と発覚し、逆風に変わっている(6月14日付けレポート「ドイツ政局:緑の党の勢いは早くも息切れ」を参照されたい)。先月末には選挙戦を睨んで同氏が発表した新著「Jetzt - Wie wir unser Land erneuern(いま。我々がドイツをどのように刷新するか。)」での盗用や引用違反の疑惑が新たに浮上。ドイツでは近年、論文盗用を理由に辞任に追い込まれる閣僚が相次ぎ、先月半ばに連立政権に加わる社会民主党(SPD)の家族担当相が博士論文での盗用疑惑で辞任したばかり。緑の党は不正の事実はないと同氏を擁護するが、盗用に対する社会の目は厳しく、選挙戦への影響は避けられない。

図表
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最新の世論調査で議会の過半数を確保可能な連立の組み合わせは、CDUと緑の党による黒緑連立か、緑の党とSPDの左派2党にリベラル政党・自由民主党(FDP)が加わる信号連立以外にない(図表3)。数字の上では緑の党の政権奪取の可能性が残るが、現在の選挙戦のモメンタムを考えると、緑の党が主導する政権誕生は難しくなってきた。CDUが今年に入って失った支持の一部はFDPに流れている。このままCDUとFDPが支持を伸ばせば、両党による黒黄連立の可能性も出てくる。先日発表された主要政党のマニフェストでは、濃淡はあるが何れの政党も気候変動対策の強化を訴えている点で共通するが、財政運営に対する考え方の相違が目立つ。CDUが増税に反対、FDPが法人税引き下げ、両党ともに財政黒字化を義務付ける債務ブレーキの維持を主張しているのに対し、緑の党は高所得や富裕層への増税、気候変動関連の公共投資拡大、失業保険の引き上げ、債務ブレーキの見直し、復興基金の恒久化などを主張している。

図表
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以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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