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英国がEU離脱後で初のFTA合意

~CPTPP加盟につながる英豪FTA~

田中 理

要旨

英国とオーストラリアは自由貿易協定(FTA)を締結することで合意。これはEU離脱後の英国が一から締結する初のFTAで、ブレグジットの成果を内外にアピールするだけでなく、英国が参加を目指す環太平洋戦略経済連携協定(CPTPP)の足掛かりとなる。

英国のコーンウォールで開催されたG7会合に招待されたオーストラリアのモリソン首相は14日、英国のジョンソン首相と会談し、両国間で自由貿易協定(FTA)を締結することで基本合意した。合意の詳細は明らかにされていないが、15年間で段階的に関税や数量割当を撤廃すると伝えられる。EUを離脱した英国はこれまで60ヶ国以上の国や地域とFTAを締結してきたが、これらは何れも過去にEUの一員として締結したFTAを焼き直したものに過ぎなかった(図表1)。

図表1
図表1

今回のオーストラリアとのFTAは、離脱後の英国が初めて一から締結するFTAで、ブレグジットの成果を内外にアピールする意味合いだけでなく、2日に英国の加盟交渉入りが決まった環太平洋戦略経済連携協定(CPTPP)への参加に向けた追い風となる。対中関係悪化で輸出先の多角化を進めたいオーストラリアとも思惑が一致した。これでCPTPPに参加する11ヶ国のうち、英国がFTAを締結・合意していないのは、マレーシア、ニュージーランド、ブルネイの3ヶ国のみ(図表2)。英国はニュージーランドとも同様のFTA締結を目指しており、同国のオコナー貿易・経済成長相が今週訪英し、コロナ後で初の対面での交渉を行う。今回の訪英での協議妥結は予定されていない。

図表2
図表2

英国のオーストラリア向け輸出品目の上位は、自動車、医薬品、アルコール飲料など。オーストラリアから英国への輸出品目の上位は、鉄鋼、ワイン、機械類など。牛肉など食品の輸出シェアはそれほど大きくないが、政治的には大きな意味合いを持つ。EUの厳しい食品安全基準に阻まれ、オーストラリアはこれまで英国への食品輸出が制限されてきた。今回の合意により、オーストラリアは関税や数量割当なしで食品輸出ができるようになる。英国やスコットランドの食品業界や畜産農家からはオーストラリアからの安い輸入肉が増えることを警戒し、緊急輸入制限(セーフガード)や産業保護を求める声が多い。英国政府やスコットランド政府は、今回の合意がオーストラリア市場の開放だけでなく、アジア太平洋市場への足掛かりになるとして理解を求めている。

以上

田中 理


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