強すぎる雇用統計が引き起こすもの

~テーパリングより利上げ見通し~

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年前半に資産購入の減額を開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国市場は下落。NYダウは▲0.1%、S&P500は▲0.4%、NASDAQは▲1.0%で引け。VIXは18.0へと上昇。バイデン大統領が28%への法人増税を取り下げ、15%の最低税率導入案を提案したと報じられた。
  • 米金利カーブは中期ゾーンを中心に金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.431%(▲2.4bp)へと低下。債券市場の実質金利は▲0.819%(+6.1bp)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面高。USD/JPYは110近傍へと上昇、EUR/USDは1.21前半へと水準を切り下げた。コモディティはWTI原油が68.8㌦(▲0.0㌦)へと低下。銅は9788.5㌦(▲359.0㌦)へと低下。金は1871.2㌦(▲36.3㌦)へと低下。ビットコインは小幅続伸。

経済指標

  • 米新規失業保険申請件数(季節調整値)は38.5万件へと前週から2.0万件減少。他方、原数値は42.5万件へと微増。季節的な失業が多い時期に差し掛かっており、季節調整値が低めにでている。なお、5月ADP雇用統計によると民間雇用者数は前月比+97.8万人と、4月の+65.4万人から加速。速報段階では雇用統計の先行指標として必ずしも有効ではないが、それでも労働市場の回復ペース加速を示すデータとなった。

米国 新規失業保険申請件数、ADP・BLS雇用統計
米国 新規失業保険申請件数、ADP・BLS雇用統計

米国 新規失業保険申請件数
米国 新規失業保険申請件数

ADP・BLS雇用統計
ADP・BLS雇用統計

  • 5月ISM非製造業景況指数は64.0と記録的高水準から一段と上昇。事業活動(62.7→66.2)、新規受注(63.2→63.9)が強く伸び、雇用(58.8→55.3)も高水準を維持。また5月のサービス業PMI(確定値)は70.4と異常値的水準に到達。雇用(56.9→56.1)も高水準を維持した。5月入り後の米経済は驚異的ペースで回復している公算が大きい。

ISM非製造業・サービス業PMI、雇用判断
ISM非製造業・サービス業PMI、雇用判断

ISM非製造業・サービス業PMI
ISM非製造業・サービス業PMI

雇用判断
雇用判断

注目ポイント

  • 本日発表の5月米雇用統計のコンセンサスは、雇用者が前月比+67.4万人、失業率は5.9%へと0.2%ptの低下となっている。速報性に優れた雇用関連指標が総じて鋭角な改善を示していることに鑑みると、かなり強い結果が予想される。過去数ヶ月、コンセンサスと公表値に大きなズレが生じてきた経緯を踏まえると、(ADP並みの)100万人増加という結果も考えられる。

  • その場合、テーパリング観測が一段と強固になろう。もっとも、2022年前半のテーパリング開始それ自体は既にコンセンサスとなっており、市場へのインパクトは限定的と考えられる。NY連銀が取りまとめたプライマリーディラーズ・サーベイ(4月調査)によれば、市場関係者の中心的予想は22年1Qの減額開始、22年末までの買い入れ停止となっている。

  • ただし、雇用統計があまりにも強いと市場参加者が思い描く、資産購入終了から利上げ開始に至るまでの時間的距離が縮まる可能性がある。現在、金融市場では2023年央の利上げ開始と、その後の1年間に約2回の利上げが織り込まれた状態にあるが、この状態は過去2ヶ月程度大きな変化なく推移してきた。雇用統計が極めて強い結果になれば、利上げ予想時期の前倒しによって長期金利が急上昇し、金融市場の波乱につながる可能性もある。

市場関係者が予想する資産購入ペース、米国 フォワード金利
市場関係者が予想する資産購入ペース、米国 フォワード金利

市場関係者が予想する資産購入ペース
市場関係者が予想する資産購入ペース

米国 フォワード金利
米国 フォワード金利

  • 最後に別の話題として日本のワクチン接種状況をアップデートしておきたい。首相官邸が日々更新するワクチン接種回数は加速感が認められており、65歳以上の接種率(少なくとも1回接種済み)は6月2日時点で16.9%と鋭角に上向いてきた。一日あたりの接種回数は高齢者分だけで40万回を突破するペースに達し、報道によれば7月末までに99%の自治体が高齢者のワクチン接種を完了できる見込みと報告しているという。米国や英国の例にならうならば、高齢者の接種に目途がつく頃に経済活動正常化の流れが早まることになる。

ワクチン接種回数(累計)、高齢者ワクチン接種回数(一日あたり)
ワクチン接種回数(累計)、高齢者ワクチン接種回数(一日あたり)

ワクチン接種回数(累計)
ワクチン接種回数(累計)

高齢者ワクチン接種回数(一日あたり)
高齢者ワクチン接種回数(一日あたり)

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。