コロナの人口動態への影響は?

~経済活動再開後の出生数と外国人労働者が鍵~

田中 理

要旨

英国では昨年、コロナ禍で出生数が減少し、死者数が増加した。過去のパンデミックでは、感染収束後に出生数が大幅に持ち直し、死者数が大きく減少した。今回も年明け以降に死者数の大幅な減少が確認されるが、過去のパンデミックが戦争終結のタイミングと重なり、出生数への影響については不透明な部分も多い。今後の人口動態を占ううえでは、コロナ禍克服後の出生数が持ち直すかどうかに加えて、外国人労働者の動向が鍵を握る。近年ブレグジットをきっかけに自国に戻るEU出身者が増えているが、そこにコロナ禍での失業や休業が重なり、外国人労働者の流出が加速している。経済活動再開後に流出した外国人労働者が英国に戻らない場合、中長期的な経済活力を削ぐばかりか、短期的にも労働力不足でインフレ懸念が高まる恐れがある。

26日付けの日本経済新聞の朝刊1面は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で日本で少子化が加速したと報じている。同僚の星野の試算に基づき、婚姻や妊娠の先送りなどを背景に、2021年の出生数が過去最少を更新し、戦後初の80万人を割り込む可能性があると指摘している(詳しくは2020年12月25日付けの星野のレポート「コロナ危機がもたらす将来人口への影響」を参照されたい)。また、別の同僚の熊野は最近のレポートで、外国人の流入減少が人口減少を加速させていると論じている(詳しくは5月24日付けの熊野のレポート「急減する総人口、その理由は何か?」を参照されたい)。欧州担当の筆者は英国の事例に基づき、コロナ禍が人口動態にどのような影響を及ぼすかを考察する。

英国(データの関係上、ここではイングランドとウェールズ)でもコロナの感染拡大により、2020年は出生数が減少し、死者数が増加した(図表1)。昨年春に感染が拡大した当初、欧米メディアではロックダウンで外出機会が制限され、夫婦やパートナーが一緒に過ごす時間が増えるため、出生数が増加する可能性があるとの論調が目立った。現実には感染拡大への不安や経済的な先行き不透明感の高まりを背景に、婚姻、妊娠、不妊治療を先送りするケースが増えたとされ、出生数の減少傾向が加速した。また、英国はコロナを理由とした死者数が13万人近くと米国、ブラジル、インド、メキシコに次ぐ世界第5位、人口100万人当たりの死者数も1900人近くと主要先進国で最も高い国の1つで米国を上回る。コロナ禍の感染予防措置が奏功し、他の呼吸器疾患などを理由とした死者数が抑制されるケースもみられたが、病床逼迫で必要な医療措置が受けられずに命を落とすケースもあり、全体としては例年に比べた死者数(超過死亡者)が多かった。

図表1
図表1

英国では現在、インド変異種の感染拡大などの不安要素も一部にあるが、全体としては新規の感染者数が大幅に減り、感染封じ込めに成功している。総人口の半数以上が1回以上のワクチン接種を終え、3割以上が2回目のワクチン接種も終えている。段階的な行動制限の解除を開始しており、6月21日には全ての制限措置が解除される可能性が高まっている(今月末までに判断する予定)。行動制限の解除に伴い、4月の小売売上が急反発するなど、本格的な経済活動再開に向けて動き出している。感染封じ込めと経済活動再開に伴い、今後、出生数の持ち直しや死者数の減少が起きるのだろうか。死者数の減少は既に確認されている。4月のイングランドの人口当たりの死者数は、2001年の統計開始以来で最少を更新した。新型コロナを原因とした死者の多くは高齢者や基礎疾患を持つ人々に集中していた。死期の前倒しのような現象が起き、死者数の減少につながっている可能性がある。出生数が速やかに持ち直すかどうかは不透明な部分が多い。1918~1920年にかけて世界を襲った「スペインかぜ」では、パンデミック終了後に出生数が大幅に持ち直したが、これは第一次世界大戦の終了後の時期と重なる(前述の図表1)。パンデミック克服以上に戦争終結による兵士の帰還や社会的な安堵の広がりが影響した可能性がある。コロナ禍で先送りされた婚姻や妊娠の持ち直しが予想されるが(ちなみに英国のジョンソン首相も最近、2022年夏に婚約者と結婚することが報じられている)、当時のような急速な回復は見込めない。

これまで世界各国から多くの人を惹きつけてきた英国の人口は昨年、過去20年間で最も少ない伸び率にとどまったことが見込まれ、首都ロンドンでは1988年以来の減少に転じたとの試算もある。コロナ禍とブレグジットが重なり、外国人の英国からの流出が加速したことに原因がある。2016年の国民投票で英国がEUからの離脱を選択して以降、EU国籍保有者の英国からの純流入が細っている(図表2)。おまけに、ロックダウンで最も影響を受けた小売業やサービス業は外国人労働への依存度が高い。ブレグジットでEU市民としての特別待遇を失い、さらにコロナ禍で失業や休業を余儀なくされ、出身国に戻る労働者が加速した模様だ。経済活動再開後も帰国した外国人労働者が英国に戻らず、労働者不足になるとの懸念が広がっている。この点は中長期的な英国経済の活力を削ぐ恐れがあるばかりか、インフレ体質の英国で賃金上昇圧力を高める可能性があり、金融政策上のインプリケーションにも注意が必要となる。

図表2
図表2

以上

田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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