「テーパリング示唆」の示唆 ~最も明示的な表現が盛り込まれたFOMC議事要旨~

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年前半に資産購入の減額を開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。NYダウは▲0.5%、S&P500は▲0.3%、NASDAQは▲0.0%で引け。VIXは22.20へと上昇。午前はクリプトアセットの広範かつ大幅な下落を横目に安く推移していたが、次第に買い戻され、NASDAQは下落の大半を埋めた。
  • 米金利カーブは中期ゾーンを中心に金利上昇。FOMC議事要旨はテーパリング観測を強めた面がある。予想インフレ率(10年BEI)は2.495%(▲5.5bp)へと大幅に低下。債券市場の実質金利は▲0.829%(+9.0bp)へと上昇した。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面高。USD/JPYは109前半を回復、EUR/USDは1.21後半へと下落。コモディティはWTI原油が63.4㌦(▲2.1㌦)へと低下。銅は10001.5㌦(▲403.5㌦)へと低下。金は1881.5㌦(+13.5㌦)へと上昇。ビットコインは続落。

注目ポイント

  • 4月27‐28日開催のFOMC議事要旨はテーパリング開始に向けて地均しをする意図が読み取れた。年内にテーパリング開始が宣言され、2022年前半にテーパリング開始が決定される公算が高まった。
  • 議事要旨で目を引いたのは「数人の参加者(a number of)はFOMCが設定する目標に向けて経済の急速な進展が継続すれば、今後ある時点のFOMC(upcoming meetings)で、資産買い入れペースの調整(≒テーパリング)を巡る議論を開始することが適切になる可能性がある」との記載。テーパリングに関するこれまでの情報発信で最も明示的な表現であった。筆者は一部タカ派の意見として、こうした見解が記載される可能性を指摘していたが、思いのほか多くの参加者がテーパリング議論に前向きだったことになる。
  • テーパリング議論の開始が次回6月FOMC(15‐16日)になるかは雇用統計が鍵を握る。5月8日に発表された4月雇用統計は不可解なほど弱く、テーパリング議論の前進はおろかそれを後退させる結果であった。しかしながら、4月雇用統計は季節調整の難しさ等から実態よりも弱い結果が示されていた可能性が高く、他の雇用関連統計の著しい改善と整合しなかった。5月雇用統計でその反動が期待されることを踏まえると、6月FOMCはテーパリング議論を開始する良い時機になると思われる。そこから更に「数回の」FOMCで議論を重ねた後、年末までにテーパリング開始を宣言するという流れになるのではないか。なお、6月の「議論開始」は市場参加者の中心的な見通しよりも若干早い(タカ派)かもしれない。
  • 今後、金融市場が安定を保つ条件として重要なのは、FEDが「テーパリング」と「利上げ」の切り離しに成功するか否かであろう。米経済が順調に再開している現状、テーパリングそれ自体は大きく見れば時間の問題と認識されているが、FEDが楽観的な景気見通しを根拠にテーパリング議論を前進させる場合、同時に「意図せぬ」利上げ観測が生じさせてしまう可能性がある。利上げ観測の封じ込めには、FEDがアベレージ・インフレーション・ターゲティング戦略に基づく「埋め合わせ」が完了するまで利上げを待つ姿勢を前面に押し出すことが重要であるが、そうした情報発信が金融市場に上手く伝達するとは限らない。

藤代 宏一


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