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2026年春季労使交渉(春闘)の注目ポイント

~厚労省調査からみる2025年の実態と課題~

岩井 紳太郎

目次

1. 連合・経団連の集計では、2025年の賃上げ率は全体で5%超を実現

2026年春季労使交渉に向けた動きが、産業界・労働界の双方で加速している。物価高の長期化や人手不足の深刻化等、企業を取り巻く環境が大きく変化する中、2025年に続き持続的な賃上げを実現できるかどうかが、重要な焦点となっている。

2025年は、連合の最終集計における賃上げ率が全体で5.25%、300人未満の中小組合において4.65%と、前年を上回る結果となった。経団連の最終集計においても、大手企業、中小企業における賃上げ率は5.39%、4.35%と、いずれも高水準を記録した。ただ、これらは連合に加盟する労働組合や、大企業を中心とした経団連会員企業における集計結果であり、労働組合のない企業や中小企業の実態を十分に反映しているとは言い切れない側面もある。

他方、2025年10月に厚生労働省より公表された「令和7(2025)年賃金引上げ等の実態に関する調査」は、常用労働者100人以上の民営企業を対象としており、100人未満企業は捉えられないものの、労働組合のない企業も含めて賃上げの実態を把握できる。

そこで本稿では、厚生労働省の調査結果を用いて労働組合のない企業も含めた2025年の賃上げ状況を改めて確認したうえで、2026年春季労使交渉の注目ポイントや政労使の動きを整理する。

2. 中小企業・労働組合を有しない企業における賃上げ率は相対的に低い傾向

厚生労働省の調査結果における 2025年の賃金改定率は4.4%、改定額は13,601円であり、いずれも2024年を上回る水準となった(注1)。企業規模別の改定率は、「5,000人以上」、「1,000~4,999人」がいずれも5%を超えている一方で、「300~999人」、「100~299人」はそれぞれ4.0%、3.6%と、企業規模が小さくなるにつれて改定率は低い傾向にある(注2)。

また、労働組合の有無別にみると、労働組合ありでは改定率は4.8%であるのに対し、労働組合なしでは4.0%と、労働組合の有無で差が見られる。

図表
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差がより顕著なのは、ベースアップ(ベア)の実施率である。資料2の通り、定期昇給制度がある企業のうち、「ベアを行った・行う」と回答した割合は、労働組合ありでは82.1%であるのに対し、労働組合なしでは49.4%にとどまる。これらの結果を解釈するにあたり、労働組合のある企業がどの程度存在するかも確認しておきたい。当調査における労働組合のある企業の割合は全体で22.0%にとどまる。企業規模別にみると、5,000人以上では74.6%と高い一方、1,000~4,999人では56.6%、300~999人では30.3%、100~299人では15.7%と、規模が小さくなるほど低下している(注3)。

つまり、大企業を中心とした労働組合のある企業においては、ベアも含めた高水準の賃上げを実現できている一方、中小企業では賃上げ原資確保の制約に加えて労使交渉の場がない企業も多いことから、大企業並みの賃上げが難しい傾向がうかがえる。

図表
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もう1つ特徴的な点は、賃金改定の目的において、労働力の確保・定着の色合いが強まっている点である。賃金改定の決定に当たり最も重視した要素として、「企業の業績」(41.7%)が最も高いが、「労働力の確保・定着」(17.0%)、「雇用の維持」(11.9%)が続く(資料3)。時系列でみると、「労働力の確保・定着」「雇用の維持」は上昇傾向にあり、人手不足が深刻化する中で、採用・従業員のつなぎ止めを意識した賃上げの性格が強まっていることが示唆される。

図表
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3. 2026年の注目ポイントは、25年と同水準の賃上げ率を維持し、物価上昇を上回る賃上げを実現できるか

ここまで2025年の賃上げ状況を整理してきたが、2026年春季労使交渉に向けた動きは既に始まっている。

連合は「2026春季生活闘争方針」を11月に公表した。その中で「賃上げ分3%以上+定昇相当分込みで5%以上」を目安とし、「日本の実質賃金を1%上昇軌道に乗せる」ことを掲げた。また、中小労組などに対しては、「6%以上・18,000円以上(格差是正分1%超を上乗せ)」を目安とした。

経団連も年明けには春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスを示す「経営労働政策特別委員会報告」を公表予定であり、各種報道によれば賃上げモメンタムのさらなる定着を強調しているとされる。

さらに、政府も賃上げの動向を注視している。2025年11月には政労使会議が実施され、高市首相が2024、2025年と遜色のない水準での賃上げ、とりわけ物価上昇に負けないベースアップの実現に向けた協力を求めた。

2026年の注目ポイントは、2025年と同水準の賃上げ率を継続しながら、物価上昇を上回る賃上げを実現できるかだろう。とりわけ鍵となるのは、中小企業においてベースアップも含めた賃上げを継続・拡大できるかだ。前章で述べた通り、中小企業や労働組合のない企業の賃上げ率は相対的に低い。また、防衛的な賃上げで対応した企業も多く(注4)、2026年も2025年と同水準の賃上げを実現するには、引き続き価格転嫁の推進やデジタル技術の活用等による労働生産性の改善・向上などが不可欠となるだろう。

中小企業および労働組合のない企業での賃上げ実現のためには、政府による環境整備が欠かせない。高市政権は2025年11月に「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」を策定し、賃上げ環境整備や中小企業・小規模事業者支援を柱に位置付けた。適切な価格転嫁・取引適正化の推進や中小企業の「稼ぐ力」強化、重点支援地方交付金の活用・拡充などが盛り込まれている。

2026年春季労使交渉は年初から本格化する。上記の対応や政労使の取組み等を通じて、企業が賃上げ原資を確保し、物価上昇を上回る賃上げを実現できるのか、注目が集まる。

以 上

【注釈】

  1. 連合は春闘妥結結果の「定昇込み賃上げ率」、経団連は「賃金改善(アップ)率」、厚生労働省は企業調査に基づく「賃金改定率」を用いている。対象・定義・集計方法が異なるため、数値の単純比較には留意が必要である。

  2. 総務省「令和3年経済センサス」によれば、常用雇用者の企業規模別構成比は、~99人:37.3%、100~299人:14.6%、300~999人:15.0%、1,000~4,999人:15.5%、5,000人以上:17.6%であり、改定率が相対的に低い企業規模の層に、相当数の雇用者が分布している。

  3. 厚生労働省「令和6年労働組合基礎調査」によると、企業規模別の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は次の通りであり、組織率においても規模が小さくなるのにつれて低い傾向にある(1,000人以上:40.0%、100~999人:9.9%、99人以下:0.7%)。

  4. 日本商工会議所「商工会議所LOBO(早期景気観測)2025年9月調査結果」によると、2025年度に所定内賃金の引き上げを実施した企業のうち、「業績の改善がみられないが賃上げ(防衛的な賃上げ)を実施」した割合が65.0%と、前年同月調査から1.5ポイント増加した。

【参考文献】

  • 内閣府(2025)「『強い経済』を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」

  • 日本労働組合総連合会(2025)「2026春季生活闘争 闘争方針」

  • 岩井紳太郎(2024)「【1分解説】政労使会議とは?

岩井 紳太郎


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

岩井 紳太郎

いわい しんたろう

総合調査部 副主任研究員
専⾨分野: 労働政策、保険

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