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2024.07.04
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高齢ドライバーの課題と先進安全技術
~安全性と移動手段確保のソリューションとしてのASVを考える~
宮木 由貴子
- 目次
1.交通事故死者数の推移
交通事故による死者は、長期的に減少傾向にある。1970年に16,765人に及んだが、交通安全対策基本法が制定されたことで10年間で半減した。その後も車両の安全性向上、シートベルトやチャイルドシートなどの義務化に加え、利用者に対する安全意識の啓蒙など様々なアプローチが奏功し、死者数は減少してきた。高齢者の交通事故死亡者数も近年減少傾向にあるが、高齢化の影響もあって交通事故死者数全体における高齢者の占める割合は54.7%と高く、「高齢者の事故」が目立つ一因となっている(図表1)。

2.高齢ドライバーの増加
高齢化に伴って高齢ドライバー自体も増加しているが、加齢に伴う心身の機能低下は避けられず、高齢ドライバーが絡む事故が報道されるたびに、高齢者の免許返納や運転継続についての議論が起こる。自家用車依存のライフスタイルが浸透した社会において、ドライバーの高齢化にどう対処するのかは大きな課題である。特に公共交通機関の減・廃路線が続く地方部では、日常生活の維持に自家用車は欠かせない。運転免許を返納するか否かは、高齢者自身の暮らしやすさと、自分や周囲の安全を確保することを天秤にかけることといっても過言ではない。
運転免許返納者数の推移をみると、ここ4年は減少傾向にあることがわかる(図表2)。2019年に大きく増加したのは、この年の4月に発生した「池袋自動車暴走事故」という高齢ドライバーによる痛ましい出来事が影響したと考えられる。

3.高齢者の事故の特性
そもそも、高齢者の事故にはどのような特徴があるのだろうか。75歳以上の高齢運転者と75歳未満の運転者の死亡事故の人的要因を比較すると、両者には違いがみられる(図表3)。75歳未満の運転者では「安全不確認」「内在的前方不注意」といったものが多いのに対し、75歳以上の高齢運転者では「操作不適」が最多となっている。さらに操作不適としてカウントされる「ブレーキとアクセルの踏み間違い」については75歳未満の運転者で0.5%であるのに対し、75歳以上の高齢運転者では7.0%と顕著に高い。このように、高齢になると不注意というよりは「間違える」という要因での事故が多くなるといえる。
ヒヤリハット案件や自宅の駐車場などで軽くぶつけたりこすったりするような軽微な事故であれば、事故としてカウントされないだけでなく、本人に自覚がないケースもあるようだ。実際に、車についた傷をみて家族が高齢ドライバーの操作不適に気づくケースも散見される。

4.高齢ドライバーを取り巻く家族らの葛藤
とはいえ、家族が高齢ドライバーの操作不適に気づいたとしても、免許返納は容易ではない。居住する地域に代わりの交通手段がないケースが多いうえ、仮にあったとしても自家用車への依存度が高い人に公共交通へのシフトを促すのは難しい。都市部では「加齢で歩くのがつらくなり自家用車を使うようになった」という人もいる。
筆者が経済産業省・国土交通省の自動運転プロジェクトで実施した調査によると、「身近に、近いうちに運転免許を返納したほうがよい・今後の自動車の運転を止めたほうがよいと思われる人」の有無について27.4%が「いる」と回答している。「いる」と回答した人(5,681人)に対して「最も心配な人」は誰かをたずねたところ、最上位は「自分の父親」(31.8%)となっており、以下「自分の母親」(13.7%)、「祖父母」(12.2%)と続いた(図表省略)。
なお、現在100歳以上の人口は10万人近くに及ぶが、その約9割は女性であり、今後100歳以上の人口が爆発的に増加するなかで、高齢になればなるほど女性が多くなる傾向が続く。図表4のとおり、現在の60代以下では男女の免許保有率の差は小さく、近い将来、運転継続か免許返納かを悩む「母親」「祖母」が社会課題になることは想像に難くない。
2050年には全世帯に占める一人暮らしの割合が44%になるとされているが、その中に多くの生涯未婚の高齢者が含まれるようになると、自家用車についた傷やへこみに気づいてくれたり、「運転免許を返納したほうがよい・今後の自動車の運転を止めたほうがよい」との指摘をしてくれる家族がいない人の増加も予想される。

5.運転機能を先端技術で補完する動き
政府は国土交通省を中心に、「ASV(先進安全自動車:Advanced Safety Vehicle)推進計画」により1991年から車の安全性向上に取り組んでいる。現在第7期となるが、6期・7期で大きなアドバンテージとなっているのは「衝突被害軽減ブレーキ」や「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」などの技術を用いた安全性向上である。
衝突被害軽減ブレーキ(「自動ブレーキ」と表現されることもあるが、必ず自動で停止するものではないのでこの用語は推奨されない)は、国産の新型車を対象に2021年11月から搭載が義務化されており、輸入車の新型車(2024年7月より)、国産の継続生産車(2025年12月、ただし軽トラックは2027年9月)、輸入車の継続生産車(2026年7月)という形で順次義務化が進められている。また、既出の「ブレーキとアクセルの踏み間違い」を回避する技術が「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」である(注1)。6月に国連の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」の作業部会で踏み間違い防止装置の性能基準が決まったことを受け、こちらも現在搭載義務化が検討されている。
高齢者の事故はニュースになりやすいが、これらの機能によって「回避された事故件数」は把握できないので、世間ではなかなか注目されない。しかし、これらの機能の搭載が義務化される方向にあることに加え、自動車保険を販売している損害保険会社各社が「ASV割引」を行っている点を鑑みても、安全性に効果があると客観的に評価されていることは間違いない。
6.国土交通省の1万人調査から見える高齢ドライバーの課題
これらの点について、国土交通省が実施した調査(注2)から、衝突被害軽減ブレーキとペダル踏み間違い時加速抑制装置の認知状況と理解度をみてみる。
(1)認知状況
まず認知状況については、衝突被害軽減ブレーキで34.2%が、ペダル踏み間違い時加速抑制装置では19.6%が「知っていて、現在の自家用車に当該機能が搭載されている」と回答した(図表5)。衝突被害軽減ブレーキは義務化の影響もあって普及が進んでいるようだが、課題は「聞いたことはあるが、自分が使用している車に当該機能が搭載されているかどうかはわからない」「当該機能について全く知らない」とする割合が衝突被害軽減ブレーキで22.9%、ペダル踏み間違い時加速抑制装置で29.0%いることである。ただ、高齢ドライバーに適している機能ということもあって、年代が高いほど「知っていて、現在の自家用車に当該機能が搭載されている」「知っているが、現在の自家用車には当該機能が搭載されていない」とする割合は高い。
こうした機能のついた車に乗り換えるつもりがないとする高齢層の理由としては「車を買い替えようと思っていないから」「もうすぐ運転をやめるから」という理由が多く、年齢的に踏み切れない事情が作用しているようだ(図表省略)。また、操作性に慣れた車両からの乗り換えも高齢者にとっては負荷が高い。そのため、機能の後付けという選択肢はそのハードルを下げる可能性がある。

(2)理解度
各種機能についてそれぞれ理解度をみたところ、各機能が自家用車に搭載されている人でも、理解が十分でないことが確認された(図表6)。
ASVは運転の安全性確保に大きなアドバンテージをもたらすものの、技術に「絶対」ということはなく、過信は禁物である。衝突被害軽減ブレーキが搭載されているからといって、危険を察知してもあえてブレーキを踏まないといった行動はあってはいけないことだが、この機能を「自動ブレーキ」と認識してしまっている人にはあり得る行動である。ASVは自動運転ではないので、ドライバーとしての注意義務と行動を怠ることは、かえって運転の安全性を脅かすことにつながる。こうした安全機能については、その普及を推進するとともに、正しい理解を広めることが極めて重要である。

7.ASVは、正しい理解に基づいて普及して初めて活かされる
加えて、同調査からは、全体的に女性のASV機能への関心や知識が低いことも明らかになっている。今後女性の高齢ドライバーが急増していくことが見込まれるなかで、いかにこれらの先進安全技術を広め、正しい理解を促進していくかは、今後の大きな課題である。また、男性の場合、年代が高まるにつれて運転への自信が高まる傾向があり、同調査からも60代で74.8%(女性は40.7%)、70代で77.0%(同49.9%)が「自信あり」としている(図表省略)。こうした層にも安全機能への関心や理解を高めていくことが重要だろう。
以上のように、高齢ドライバーに関する課題については、単に加齢による心身の機能低下による安全性の低下だけではなく、安全機能への無関心や学習機会の欠如、自己認識に関するものなど多岐にわたることがわかる。ASVは技術面での安全確保と高齢者を中心とした運転サポートに有効であるものの、技術が備わっているだけでは不十分で、その普及と正しい理解があって初めて効果を発揮する。
高齢者が運転寿命の延伸を望むのであれば、長期的な視点により自身のモビリティ(移動手段)をライフデザインの一環として検討したうえで、技術の正しい活用を含む安全確保に関する行動変容が不可欠といえる。高齢ドライバーとその家族は、免許を返納するか否かに悩むだけでなく、そのような選択肢もあるということを認識することが望ましい。
【注釈】
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こうした機能を搭載する車の購入について、2021年11月まで「サポカー補助金(安全運転サポート車普及促進事業費補助金)」があった。
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「令和5年度 ASV機能に関する調査」 楽天インサイトアンケートモニターを用い全国10,000人の男女(有免許者)に対し、2024年2月9~16日に調査を実施。
【サポカー、ASVについての詳細は以下を参照のこと】
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先進安全自動車 ASV推進計画 経済産業省 サポカー(安全運転サポート車)ポータルサイト
DriveSafe!(国土交通省) -
ASV搭載義務化に関する情報(国土交通省)
乗用車等の衝突被害軽減ブレーキに関する国際基準を導入し、新車を対象とした義務付けを行います。~道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部改正について~
宮木 由貴子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

