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ノーベル賞(医学・生理学賞)受賞の快挙、但し次の課題も直視したい

~自然科学3賞は同分野研究の「遅行指標」~

石附 賢実

目次

1. 坂口氏の受賞と日本が誇る自然科学研究の底力

2025年10月6日、大阪大学特任教授の坂口志文氏に対するノーベル医学・生理学賞の授与が発表された。免疫反応を抑えるT細胞に係る研究が評価され、米国のメアリー・ブランコウ氏、フレッド・ラムズデル氏とともに授与されることとなった。日本出身(米国籍を含む)の自然科学分野のノーベル賞の受賞は26人目となった。ノーベル賞は、歴史と伝統、錚々たる過去の受賞者、厳格な選考過程、賞金額などにより世界最高峰の権威を誇るとされる賞で、言うまでもなく受賞は快挙である。心より敬意と祝意を表したい。

日本は、直近10年(2015-2024年)のノーベル自然科学3賞(医学・生理学賞、化学賞、物理賞)において研究機関所在地・出生地シェアいずれも3位につけており、科学技術大国の一角を占めていると評することができる受賞実績である(資料1)。

図表
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2. ノーベル賞は自然科学研究の「遅行指標」である

しかしながら、日本における自然科学研究の将来を考えるならば、浮かれてはいられない。ノーベル賞は過去の研究に対する評価だからである。研究機関所在地シェア(2015-2024年、資料1)上位10か国について、そのシェアと2001-2003年の論文引用数(上位10%)シェア(資料3左)を散布図にプロットしたのが資料2である。両者の相関係数(R)は0.996と極めて強い相関がある。米国1強につき相関係数は高めに出がちであるが、統計的外れ値として米国を除いても0.882と強い相関が認められる。一方、直近2021-2023年の論文引用数(上位10%)シェア(資料3右)との相関は相関係数0.234とかなり弱まる。つまり、研究が論文として世に出てノーベル賞に結びつくまで15-25年かかる場合が多いということになる。なお、「研究機関所在地シェア」を「出生地シェア」に置き換えた場合でも、相関係数は2001-2003年0.956、2021-2023年0.131、と同様の傾向を示す。今回の坂口氏の受賞においては、1990年代後半から2000年代の研究成果が評価されており、まさに過去の比類なき研究が評価されている。

なお、昨今の中国の引用シェアの高さについては、自国内の引用割合が多く、ホームバイアスの観点から過大評価との指摘もあることに留意する必要がある(注1)。

図表
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3. 日本の論文数シェアは引き続き低下傾向、優秀な研究者・学生の積極的受入れを

資料3の通り、日本の論文引用数シェアは低下傾向が続いている。近年は中国や米国が圧倒的な存在感を示す一方で、日本の国際的な研究プレゼンスは相対的に後退している。資料2の相関関係に鑑みれば、今後、自然科学分野におけるノーベル賞受賞はかなり厳しいものとなっていくことが想定される。

この背景には、人口減少等による若手研究者の減少や、近年底打ちしているとはいえ博士号取得者数が低迷していること、諸外国と比べて研究資金や研究者の時間の制約が大きいことなど、複数の要因が絡んでいると思われる。今後の人口減少下でも国内外から優秀な研究者や学生を積極的に受け入れ、多様性と包摂性に富んだ研究環境を整備していくことが求められる。折しも米国では大学が時の政権と緊張関係にあるとされ、世界各国が在米の優秀な研究者の争奪戦を繰り広げているなかで、日本も海外の若手研究者を世界水準の処遇で受け入れる枠組みを創設するなど努力しているところである(注2)。こうした取り組みを通じて知の生態系を育み、日本全体の科学技術力・経済力の底上げに繋げていくことが重要だ。さらに、現在、政府が検討を進める「第7期科学技術・イノベーション基本計画」においても研究力の抜本強化に向けた施策が期待される。

以 上

  【注釈】
  1. 中国の論文引用については、主要国の中で最大のホームバイアスがあるとの研究もあり、このバイアスを補正すると中国の被引用ランキングは過大評価で、米・英・独に次ぐ4位との指摘がなされている。
    Shumin Qiu, Claudia Steinwenderb, Pierre Azoulayc (2025). Paper tiger? Chinese science and home bias in citations. Journal of International Economics,157(2025)104123.

  2. 例えば、内閣府は海外からの優秀な研究者を招聘するため、2025年6月にJ-RISE Initiativeを立ち上げている。
    https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20250613.html

【参考文献】

石附 賢実


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

石附 賢実

いしづき ますみ

取締役 総合調査部長
専⾨分野: 経済外交、安全保障

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