ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

デンマークに学ぶユニバーサルデザイン

~違いを豊かさに活かす~

後藤 博

目次

1. はじめに

国際競争力(注1)や持続可能な開発目標(SDGs)の分野で持続的に世界をリードするデンマークは、ユニバーサルデザインにおいても先進的な取り組みで注目を集めている(図表1、図表2)。本稿では、デンマークがどのようにして「すべての人のためのデザイン」を社会に浸透させてきたのか、その成功要因を分析し、日本における今後の社会づくりへの示唆を考察する。

図表1
図表1

図表2
図表2

2. デンマークのユニバーサルデザインの具体的な事例分析

デンマークのユニバーサルデザインは、日常生活の多くの場面で確認できる。

1) 公共交通機関

地下鉄や鉄道の駅、バスの停留所は、車いすやベビーカー、自転車の利用者がスムーズに乗り降りできるよう、段差がほとんどない構造になっている。また、視覚に訴える案内表示と音声ガイダンスが組み合わされており、誰にとっても分かりやすい情報提供が行われている。

たとえば、コペンハーゲンの地下鉄(Metro)では、すべての駅にエレベーターが設置されており、プラットホームと車両の段差も最小限に抑えられている。これは、車いすやベビーカー、自転車を利用する人にとって大きな利便性をもたらしている。

2)都市空間

コペンハーゲンのような都市では、道路の段差が緩やかにされ、すべての人が快適に移動できる環境が整備されている。公共の場には、ピクトグラム(絵文字)を使った案内板が多数設置されており、言語の壁を越えて直感的に情報を理解できるようになっている。

3)建築

医療施設や高齢者住宅だけでなく、一般的な商業施設や住宅においても、ユニバーサルデザインの考え方が取り入れられている。たとえば、廊下や出入り口の幅が広く取られていたり、自然光が最大限に取り入れられる設計になっている。

3. デンマークのユニバーサルデザインの成功要因

デンマークでは、ユニバーサルデザインの概念が建築基準法等に組み込まれており、政府主導で社会インフラとして整備されている。

デンマーク政府の公式サイト「The Danish Building Regulations 2018 (BR18)」には、ユニバーサルデザインとアクセシビリティに関する具体的な規定が明記されている。これらの規定は、新しい建築物の設計段階からユニバーサルデザインの導入を義務付けており、制度的な裏付けのもとで推進されていることを示している。これにより、住宅や公共交通機関、都市設計の初期段階から、誰もが使いやすいデザインが考慮されている。

また規定に加え、社会特有の「共創」の文化やデザイン思考も重要な成功要因であろう。トップダウン形式の推進力が整備されている一方で、下からの意識・実践(国民意識と共創)の相互作用によって成り立っていると考えられる。

1) 法律・制度による徹底した推進:高水準の福祉の実現

教育・医療費の無料化、高齢者の年金と住居の保障、障害児を持つ親に対する給与の約80%の保障などの手厚い制度は、国民が「施設に入らず、地域で自立した生活を送る」ことを可能にするための財政的コミットメントである。

国家予算の75%を投じて「地域で自立」を目指すのであれば、生活環境(都市、交通、建物)自体が、その自立を妨げるものであってはならない。ユニバーサルデザインは、この財政投資を機能させるための必須のインフラであり、福祉理念の物理的な具現化である。

2) 国民の意識と社会的な合意形成

① 税負担による国民意識

高い税率を受け入れ、その使途が福祉であると公表されることで、国民の間で「互いを支え合う社会」という意識が共有されている。その意識は、ユニバーサルデザインの実践や共創的な取り組みの土壌となっている。

② 教育制度による合意形成

デンマークの国民学校法に基づく教育制度は、その設計自体がユニバーサルデザインの理念を深く体現し、推進していると結論づけられる。ユニバーサルデザインが目指す「すべての人を包摂し、能力を最大限に引き出す環境」が、教育制度の中核に組み込まれているためである。

国民学校法における最大のユニバーサルデザインの実践は、「障害児教育も同一の国民学校法のもとで行われる」という点にある。そこで重視される要点は以下の2点である。

ア) 全人的な発達と個性の尊重

「生徒個々の個性を尊重する」「全人的な発達を促す」「生徒自身の可能性や独自で判断し対処できる自信を持たせる」という点は、画一的な学力向上を目指すのではなく、多様なニーズや能力を持つ生徒を前提とした人間中心の思想と一致する。多角的な評価と育成アプローチは、多様な生徒の学習スタイルや発達速度を受け入れるためのユニバーサルデザイン的な設計である。

イ) 実践重視

「学習は実践に重きをおく」という方針は、座学中心ではなく、体験や実践活動を通じて理解を深める機会を設けることを意味する。これは、感覚や運動能力など、多様な学習方法(モダリティ)を持つ生徒に対応するためのユニバーサルデザイン的アプローチである。

3) 参加型デザインによる共創

デンマークのデザインプロセスにおいて重要なのが、当事者が開発に直接関わる「共創(Co-creation)」である。高齢者や障害者自身が開発チームの一員となり、自分たちのニーズを反映させることで、本当に生活の質を高めることができるデザインが生まれている。ここでは一例として、わが国で障害を抱えた小児が増える傾向にあり、決して他人事とは言えないこともあることから、「親亡き後」の懸念を取り上げる。

① 「親亡き後」の懸念

「親亡き後」の懸念は、障害のある成人が親の支援なしに自立した生活を送れるかという点に集約される。デンマークでは、自立とノーマリゼーション(可能な限り普通に近い生活)を可能にするため、福祉住宅や生活支援サービスのモデルを構築する際、当事者(障害を持つ人自身)と親が設計に関与する。

ア) グループホームや福祉住宅(住まい)

グループホームや福祉住宅を計画・設計する際、地方自治体や住宅公社は、利用を想定している障害のある成人や、その家族(親)の意見を聞くというプロセスを含める。どのような間取り、設備、共用スペースが必要かについて、実際にその場所で生活する障害のある成人の意見を聴取する。住宅だけでなく、提供される生活支援サービス(スタッフの配置、日中の活動へのアクセス、食事の提供方法など)についても、利用者と親が意見を出し合い、「普通の」自立生活を送るための共創的なモデルが構築される。

イ) 「親離れ・子離れ」を促す社会環境の整備

デンマークでは18歳頃からの親離れが社会的な目標とされるが、これには親の不安を解消し、当事者の自立意欲を高めるための共創的なアプローチがとられる。

親が持つ「親亡き後」の具体的な不安(金銭管理、健康管理、地域社会での孤立など)をヒアリングし、それらを解消するための包括的な支援プランを、自治体、当事者、親が共同で作成する。

福祉担当者やケースワーカーが、親子の間で自立に向けた目標設定や移行計画を立てるプロセスに関与し、親の過度な関与と当事者の自立とのバランスを調整するために対話をする。

ウ) 共創の目的

この共創プロセスは、「ノーマリゼーション」を実現するための社会的な環境とサービスを、当事者の視点から作り上げることが目的である。当事者が開発に直接関わることで、彼らが自立した市民として生活するうえでの真のニーズが反映され、「親亡き後」も持続可能で質の高い生活を送れる社会が共創されている。

4. デンマークから学ぶべきこと

デンマークでは、ユニバーサルデザインが技術や機能の問題ではなく、社会全体の当たり前のものとして定着している。こうした事例から、私たちは以下の点を学ぶことができる。

1) 共創の文化を育む

開発者やデザイナーが、当事者と対話を重ね、共にアイデアを創り出す「共創」の文化を育むことが重要である。

2) デザインの目的を問い直す

美的なデザインの追求だけでなく、「誰かの生活を豊かにする」「社会課題を解決する」といった、目的志向型のデザインを追求するべきである。

5. まとめ

デンマークのユニバーサルデザインは、法律、国民の意識、そして共創のプロセスが一体となって機能することで、真に多様性を包摂する社会を築き上げている。

北欧では1970年代頃から市民などの利害関係者を巻き込みつつ、コミュニティ全体で実施する「参加型デザイン」と呼ばれるイノベーション手法が独自に提唱されてきた。

その手法は年月を経て、コミュニティでの活用における最適化が図られ、知見が蓄積されてきた。

社会的参加型手法は、複雑性・不確実性が高まる現代社会の社会課題の解決に、有効な持続性を兼ね備えたアプローチとして国内外から注目されるようになっている。当事者を巻き込むことでそのニーズを拾い上げ、より適切なサービスや製品を共に構築していこうとする考え方である。

日本においても社会的参加型手法の利点を取り込み、ユニバーサルデザインのあり方を日常でも問い直すことで、より良い社会をデザインするきっかけとなることを願っている。

なお、執筆にあたり貴重なご教示を賜り、当地の暮らしに詳しいNPO法人日本・デンマーク生活研究所の方々に感謝申し上げる。


【注釈】

  1. 世界競争力ランキングは、その国がどれだけ経済的に発展し、企業が活動しやすい環境にあるかを様々なデータから総合的に評価して順位を決めている。特定の1つの基準だけで決まるわけではなく、多くの項目を細かくチェックしている。
    代表的なスイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表しているランキングでは、大きく分けて4つのカテゴリーで国を評価している。この4つのカテゴリーには、さらに合計300以上の細かい項目がある。
    例えば、「経済パフォーマンス」 では、GDP(国内総生産)の成長率や貿易のバランスなどを見る。「政府の効率性」 では、政府のお金の使い方がムダになっていないか、法律がビジネスを邪魔していないかなどをチェックする。「ビジネスの効率性」では企業のやる気や、従業員がどれだけ新しい技術を学んでいるか、経営者がどれだけ新しいことに挑戦しているかなどを見る。「インフラ」 では、電気や水道、道路、インターネットの整備状況、さらに教育や医療のレベルなども評価する。
    これらの多くの項目を、統計データ(約3分の2)と企業幹部へのアンケート(約3分の1)という2つの情報源から集めて、点数化し、その合計点で最終的な順位を決める。つまり、世界競争力ランキングは、その国が単に豊かかどうかだけでなく、政府や企業の努力、そして社会全体の仕組みが、将来の発展につながるようになっているかを評価している。

【参考文献】

  • 千葉忠夫「世界一幸福な国デンマークの暮らし方」PHP研究所(2009年9月)

  • 千葉忠夫「理想の国―世界に誇れる未来日本国の条件 みなさんと共に理想の国づくり」M-stories出版(2024年9月)

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

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