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AIエージェントはプレゼン資料作成をどう変えるのか

~実証実験から見えた、人間の新しい役割と競争優位~

柏村 祐

目次

1.AI時代のプレゼン資料作成における新たな課題

生成AI、特に自律的にタスクを実行するAIエージェントの進化により、ビジネス文書作成の現場は劇的に変化している。これまでプレゼンテーション資料の作成には、情報収集から構成検討、デザイン作業まで含めてそれなりの期間を要していた。また、作成者のスキルレベルによって品質に大きなばらつきが生じるという課題があった。さらに、外部デザイナーへの委託には高額なコストが発生するため、リソースが限られた企業では質の高い資料作成のハードルが高いという課題も存在していた。

これらの従来の課題は、AIエージェントの登場により改善された。今やAIに指示を出すだけで、一定の品質をもつ資料が短時間で完成する時代となった。しかし、この技術的進歩により、従来から存在していた課題がより鮮明に浮き彫りになっている。それは「いかに相手(顧客や社内関係者)の真のニーズを捉え、期待を超えるアウトプットを生み出すか」という問題であり、AIの活用によってこの重要性がさらに高まっている。

本レポートでは、実際に行ったAIエージェントによる講演資料作成のプロセスを実証実験として詳しく紹介する。この実験を通じて、AIとの協働において最も重要な要素は何かを探り、これからの時代に求められるビジネスパーソンのスキルについて考察する。

2.実証実験:AIエージェントとの対話による資料作成プロセス

今回の実証実験をもとに、AIエージェントとの対話による資料作成プロセスを詳しく説明する。このプロセスは、AIへの単純な指示から始まり、対話を通じて講演依頼者(以下顧客という)のニーズを具体化していく過程そのものである。

1)ステップ1:情報ソースの学習と初期指示

まず、筆者が執筆したレポート「闇オンラインカジノ・エコノミーの見えざる危機と処方箋」のPDFファイルをAIエージェントにアップロードし、次に極めてシンプルな初期指示をテキストで入力した。

指示文は「闇オンラインカジノ・エコノミーの見えざる危機と課題解決の講演資料を作成ください。1時間話します。」である。この指示に対し、AIは「ご質問を受け付けました。」と応答し、ここから具体的な資料作成に向けた対話が始まった。

図表
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2)ステップ2:AIエージェントによる顧客ニーズのヒアリングと具体化

この曖昧な指示に対し、AIは即座に資料作成を開始するのではなく、まずアウトプットの精度を高めるための質問を投げかけてきた。まずは講演の骨子を定めるため、AIは「タイトル」「最も強調したいポイント」「聴衆に伝えたい具体的なメッセージ」「紹介したい事例」といった核心的な質問が行われた。

この実証実験を通じて、AIとの効果的な対話には、人間同士のコミュニケーションとは異なるアプローチが必要であることが明らかになった。多くのビジネスパーソンがAIを使いこなせない最大の理由は、この対話方法を理解していないことにある。

間違った対話の典型例として、以下が挙げられる。「いい感じの資料を作って」といった抽象的すぎて具体的な成果物を定義できない指示、「前回と同じような感じで」のようにAIには過去の記憶がないことを忘れた指示、「常識的に考えて分かるでしょ」のように業界固有の暗黙知をAIがもっていない前提を無視した指示、そして一度の指示ですべて完璧を求める段階的確認プロセスの軽視などである。

一方、成功する対話には4つのポイントがある。

第一は具体的に指示することである。すなわち、「1時間の講演資料、30枚程度のスライド、聴衆は○○業界の管理職、目的は啓発活動」など、5W1Hを明確に定義することが重要である。第二に段階的に確認することである。人間からAIへの初期指示、AIから人間への詳細ヒアリング、人間による計画確認、AIによる実行という段階を踏み、各ステップで認識のズレを防ぐことが必要である。第三にAIには前提知識がないため、業界背景、専門用語の定義、重要な制約条件をすべて明示的に提供することが求められる。第四はフィードバックを繰り返すことである。AIからの質問には具体的に答え、認識のズレがあれば即座に軌道修正することが求められる。つまり、AIとの効果的な協働には、一度で完璧を求めるのではなく、これらのポイントに基づいて粘り強く対話を重ねることが不可欠なのである。

今回の実験では、これらの原則に従って対話を進めた結果、AIが実際の顧客の意図を汲み取ることができた。元レポートで扱った「社会への影響」「対策の必要性」「ギャンブル依存症問題」という主要テーマを踏まえ、講演で強調したいポイントとして「影響」「対策」「依存症」を選択し、特に聴衆に伝えたいメッセージとして、AIが提示した複数の選択肢の中から「啓発活動」にチェックを入れた(図表2のチェックボックス形式の質問項目参照)。これは、顧客が社会的な問題意識を強く持ち、単なる現状報告ではなく、具体的な対策と啓発の重要性を訴えたいと考えていたためである。さらに、チェックボックスだけでは伝えきれない具体的な要望として、説明欄に「IRの中でのオンラインカジノの位置づけについて必ず資料として入れてください」と文章で補足した。これにより、最終的なアウトプットを筆者が作成したいイメージに近づけることができた。

図表
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3)ステップ3:AIエージェントによる行動計画(ToDoリスト)の提示

筆者からの詳細な指示を受け、AIは次に、資料作成の全工程をタスクに分解した「ToDoリスト」を提示してきた。これは、AIが筆者の意図を正しく理解したかを確認するための「中間報告」としての役割を果たす。図表3が示すように、リストは大きく分けて「1. オンラインカジノに関する情報収集」「2. 社会的影響と対策の分析」「3. 生成PPT大綱」「4. 制作PPT」の4段階で構成されている。これは、人間がプロジェクトを進める際の思考プロセス、すなわち情報収集→分析→構成案作成→実制作という流れを忠実に再現している。

このリストを確認することで、筆者はAIがどのような手順で作業を進めようとしているのかを事前に把握できる。もしここで認識のズレがあれば、実行前に軌道修正を指示できるため、手戻りのリスクを大幅に削減できる。この計画を承認し、次のステップへ進むことを指示した。

図表
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4)ステップ4:プレゼンテーション資料の自動生成

ToDoリストを承認すると、AIは計画に沿って自動的に資料作成プロセスを実行し、最終的に30枚のスライドからなるプレゼンテーション資料を生成した。以下が、生成されたスライドの一覧である。図の通り、単にテキストを並べただけでなく、タイトルページ、目次、各章のスライド、そして結論と、講演の流れに沿った一貫性のある構成となっている。また、グラフや図解も適切に配置されており、視覚的な分かりやすさも考慮されていることが分かる。

特に注目すべきは、ステップ2の対話内容が忠実に反映されている点である。たとえば、指示した「統計データ」や「失敗事例」は具体的なグラフやケーススタディとしてスライドに盛り込まれ、「啓発活動」の重要性は結論部分で強調される構成となっていた。なお、ステップ1からステップ4までの一連のプロセスに要した時間は約20分程度であった。事前の綿密なすり合わせが、最終的なアウトプットの質を決定づけることを示す好例と言える。

図表
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この一連のプロセスは、AIエージェントとの資料作成が、一方的な「命令」ではなく、目的を共有し、認識をすり合わせながら進める「対話」のプロセスであることを示している。AIに仕事を依頼する際は、この「対話」こそが、アウトプットの質を最大化する鍵となるのである。

3.人間の役割は「顧客理解」と「AIへの的確な指示」へ

前章で示した実証実験は、AIとの効果的な対話プロセスが、質の高いプレゼンテーション資料の自動生成を可能にすることを実証した。今回の実証実験において、生成された資料の構成は論理的で一貫性があり、実際のプレゼンテーションでも活用可能な品質を備えていた。この結果は、適切な対話プロセスを経ることで、AIが実用的な資料を生成できることを示している。しかし、質の高い資料が生成できた要因を「AIの性能が向上した」という点だけに求めるべきではない。この実験を通じて明らかになったのは、AIが優れたアウトプットを生成するためには、人間による適切な「情報の構造化」と「目的の明確化」が不可欠であるということである。

人間の役割は、顧客の言葉の裏にある課題や期待、すなわち「Why(なぜこれが必要なのか)」を深く洞察し、それをAIが実行可能な「What(何をすべきか)」と「How(どのようにすべきか)」に翻訳する、知的プロデューサーへとシフトしていくのである。AIは与えられた情報を基に論理的な構成を組み立てることはできるが、AIツールを使うユーザーが抱える漠然とした不安や、言葉にならない期待といった非言語的な文脈を汲み取ることはできない。その行間を読み解き、共感し、課題の本質を言語化することこそ、人間にしかできない代替不可能な価値である。

今回の実験で言えば、AIへのインプットは単なる「指示」ではなく、顧客の課題を構造化し、解決への道筋を描く「設計図」そのものであった。AIからの質問に答えるプロセスは、我々自身の思考を整理し、顧客への理解を深めるための「対話」でもあったのだ。これからのビジネスパーソンに求められるのは、スライド作成の技術(オペレーションスキル)ではない。顧客の課題の本質を見抜く「課題発見能力」、複雑な事象を整理し要点を抽出する「構造化能力」、そしてそれをAIが誤解なく理解できる言葉に落とし込む「言語化能力」なのである。

図表
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AIエージェントを使いこなすことは、単なる業務効率化や生産性向上に留まるものではない。それは、我々人間を、本来最も価値を発揮すべき創造的な領域へと解放するための強力な手段である。定型的な作業から解放された我々は、より多くの時間を顧客との対話や、新たな戦略の立案、イノベーションの創出といった高次の知的活動に振り向けることができるようになる。

AIを単なる便利な道具として使うのではなく、思考を深めるための戦略的パートナーとして迎え入れること。そして、人間とAIがそれぞれの強みを最大限に活かし、協働すること。これこそが、デジタル時代の新たな競争優位の源泉であり、より豊かで創造的な社会を築くための確実な道筋であると確信している。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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