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2025.07.18
SDGs・ESG
持続可能な社会(SDGs)
環境・エネルギー・GX
企業開示
サステナビリティ情報法定開示の段階適用の背景にはリソース不足も
~GX推進スキル標準(GXSS‐P)などを活用したGX人材の「育成」が必要~
加藤 大典
- 目次
1. 脱炭素化の重要施策である法定開示が2027年3月期から段階的に義務付け
2025年7月17日、「金融審議会サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ中間論点整理」(以下、中間論点整理)が公表された。グローバルな投資家との建設的な対話を志向するプライム市場上場企業について、時価総額の大きな企業(注1)から順次、SSBJ基準(注2)に準拠した有価証券報告書の作成が義務付けられることとなった。
開示基準の適用時期については、具体的には、株式時価総額3兆円以上の企業(2025年3月末時点で68社)は2027年3月期から、同1兆円以上3兆円未満(同103社)は2028年3月期から、同5,000億円以上1兆円未満(同113社)は2029年3月期からの適用が基本とされた(資料1)。ただし5,000億円以上1兆円未満の企業については、国内外の動向等を注視しつつ引き続き検討し、本年中を目途に当ワーキング・グループで結論を出すこととなった。時価総額5,000億円未満の企業については、企業の開示状況や投資家のニーズ等を踏まえて今後検討するとされ、数年後を目途に結論を出す方向性が示された。なお、適用にあたっての経過措置として、二段階開示(注3)が適用開始から2年間設けられることとなった。
また、開示されるサステナビリティ情報の信頼性を確保するための第三者による保証については、開示基準の適用開始時期の翌年から義務付けられることとなった(注4)。

2. 適用開始時期はリソースの有無が重要なポイント
上記のとおり法定開示は段階的に適用されるが、その背景には、適用対象企業の「開示に必要なリソース」の問題がある。中間論点整理では、随所に「リソース」についての記述がある。具体的には「他方、プライム市場上場企業の中にも、(中略)企業によってリソースに相当のばらつきがあるとの意見もあった」「株式時価総額1兆円以上3兆円未満企業や、同5,000億円以上1兆円未満企業の適用開始時期について、開示に必要なリソースを確保するために慎重な検討が必要との意見もあった」「対象企業による自社の対応状況の把握やリソースの確保等のために一定の時間を要し、特に初期の段階では対応に苦慮する企業があることも予想される」といった記述がある。
また、第三者保証制度の保証の担い手に関しても「保証対象企業が広がることを考えると、リソースの観点から必ずしも監査法人のみでカバーできるとは限らないとの意見があった」と記述されている。
3. 「GX推進スキル標準」などを活用した人材育成が必要
リソースに関して、GX人材の育成の必要性については、環境省や経済産業省でも認識され、対応が進められてきている。環境省は2023年3月に「脱炭素アドバイザー資格制度認定ガイドライン」を公表し、同年9月に脱炭素アドバイザー資格制度の本格運用を開始した(注5)。経済産業省に関しては、主導する「GXリーグ」で組成された「GX人材市場創造WG」が2025年5月に、脱炭素の取り組みに必要な人材やスキルを定義した「GX推進スキル標準(GXSS-P)Ver2.0」(以下、GX推進スキル標準)を公表した(注6)。
GX推進スキル標準ではまず、人材類型として「GXアナリスト」「GXストラテジスト」「GXプロジェクトマネジャー」「GXコミュニケーター」「GXインベンター」の5つの類型に分類している。その上で企業内の実務人材育成の観点に焦点をあて、「GXインベンター」以外の4類型について業務の違いによりさらに詳細に役割を区分し「ロール」として定義している。ロールは11あり、ロールごとに必要なスキルと4段階のGXSSレベルを定義している(資料2)。GX人材と一口に言っても求められる専門知識や役割は広範多岐で担う業務のレベルも異なるが、「GX推進スキル標準」ができたことにより、GXに必要な人材像がより具体的に「見える化」された。例えば今般のサステナビリティ情報法定開示の観点で見れば、GXストラテジストの「GX情報開示」やGXコミュニケーターの「GX IR・広報」が直接的に必要なロールであり(資料3)、当該スキルを持つ人材が必要となる。但しあらためて言うまでもなく、各種のGX関連取り組みがあってこその「開示」である。11のロールとスキルレベルをカバーする担い手を確保することが、法定開示を適切に行っていく上での前提となる。法定開示が迫る大企業を中心に今まさに、中途採用を含めたGX人材確保の動きが強まっていると感じる。


4. 各社におけるGX人材「育成」の重要性と社会の脱炭素に向けた大企業への期待
法定開示の対象企業ではなくても脱炭素化の推進は求められ、いずれの企業もGX人材の確保が必要である。自社の人材を「GX推進スキル標準」に照らしてみることで、不足するGX人材像が浮かび上がってこよう。ここで、各社が必要なGX人材をどのように確保していくかが重要となる。脱炭素取組自体が企業間の競争であり、必要な人材確保も競争ではあるが、産業界全体でGX人材が増えなければ限られた人材の争奪戦に終始し、社会全体の脱炭素化の加速にはつながらない。つまり、全ての会社においてGX人材の「育成」が重要になる。この点、法定開示対象の大企業は相対的に社員数が多く「育成」の余地があると思われる。大企業には、迫る法定開示に向けてGX人材「育成」を含む人材確保を進め、先導役を果たすとともに、社会全体の脱炭素化に向けて、サプライチェーンの脱炭素支援も期待したい。
【注釈】
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時価総額の算定方法については、「5事業年度末の平均値等を参考としつつ、検討」との方向性が中間論点整理で示されている。
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SSBJ基準とは、サステナビリティ関連の情報開示に関する包括的なグローバル・ベースラインである「ISSB基準」との機能的な整合性が確保された、日本のサステナビリティ開示基準を設定するサステナビリティ基準委員会(Sustainability Standards Board of Japan)が2025年3月に公表した基準のこと。
https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html -
二段階開示とは、SSBJ基準の適用にあたっての経過措置として、本来年次報告書に記載すべきSSBJ基準に基づくサステナビリティ関連財務開示を、翌期の半期報告書の提出期限までに訂正報告書により二段階目の開示として行うこと。
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第三者保証に関して、中間論点整理では、「保証水準は限定的保証とし、合理的保証への移行は検討しない。保証範囲は、当初2年間はScope 1・2、ガバナンス及びリスク管理とし、3年目以降については国際動向等を踏まえて今後検討する。保証の担い手は、ワーキング・グループで引き続き議論し、本年中を目途に結論を出す」とされている。なお、限定的保証とは、内容に誤りがないことを消極的に保証するもの。合理的保証とは、内容が適正であることを積極的に保証するもの。
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拙稿(2024)では、「脱炭素アドバイザー資格制度」の概要や自治体の支援事例紹介とともに、脱炭素専門人材の不足を課題とする企業への提言をしている。
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GX人材市場創造WGとは、GX関連人材の求人数が増加する一方で転職実施者が伸び悩む状況を踏まえ、GX人材市場を垂直的に立ち上げることを目的に、GX人材の標準化に関するとりまとめと提言を策定するワーキンググループ。2023年11月より活動を開始した。2024年5月に「GXスキル標準(GXSS)」として、「GXリテラシー標準(GXSS-L)Ver1.0」と「GX推進スキル標準(GXSS-P)Ver1.0」を策定し公表している。「GXリテラシー標準(GXSS-L)Ver1.0」では、経営層を含むGXに係る全ての人がリテラシーとして身につけるべき知識と学習が期待される項目が定義されている。https://gx-league.go.jp/news/20240514/
【参考文献】
加藤 大典
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

