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2025.07.04
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障害者の就労選択支援の動向と今後の展望
~利用者の特性アセスメントが鍵になる~
後藤 博
- 目次
1. 障害者の就労支援新制度、2025年10月から
2025年10月1日より、障害者の就労支援制度が変わる。特に注目されるのは、新しく始まる「就労選択支援」である。これは2022年10月に改正された障害者総合支援法に基づいて導入されるもので、一部地域ではすでに試行されているが、全国での本格的なサービス開始はこれからである。この制度の見直しは、障害のある人々が自分に合った働き方を見つける手助けになることを目的としている。
2. 障害者就労の現況
厚生労働省のデータによると、現在、障害者総数は約1,165万人である(注1)。2024年3月卒業の特別支援学校の卒業生数は20,641人であり、その約3割(29.6%)の6,115人が一般企業へ就職している(図表1)。一方で、約3分の1(33.3%)の6,881人が就労系の障害福祉サービスを利用している。

就労系の障害福祉サービスから一般企業への移行者数は、年々増加している。具体的には、2023年には26,586人が就労系の障害福祉サービスから一般企業へ移行した。2003年度の移行者数と比較すると約20倍に増加している。このデータは、障害のある方の就労支援が着実に進展し、より多くの方が一般企業で活躍できる環境が整ってきていることを示している。
3. これまでの就労支援
障害者の就労を支える制度には、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、自立訓練(生活訓練)などがある(図表2)。就労移行支援は、一般企業への就職を希望する者に対し、職業訓練や職場実習、就職活動のサポートを行う支援であり、原則2年間の利用期間内で、一般就労への移行を目指す支援体制が構築されている。

これまでの障害者に対する就労支援の体系は、支援の対象、提供者ごとに区分されているのが特徴であり、区分判定によっては支援の継続・不足等の問題を派生させる。図表2の中央に「障害者・児」とあり、障害のある者(成人)と児童それぞれに対する支援が体系的に組まれていることが分かる。障害のある児童から成人までの支援を提供するため、児童福祉法と障害者総合支援法という、それぞれ異なる法律に基づきサービスが提供されている。例えば「障害児相談支援」「障害児通所支援」「障害児入所支援」のように、児童福祉法に基づく支援が明確に区分されている点が特徴である。この提供体制においては、市町村と都道府県による支援がある。市町村は利用者にとって身近な窓口として、具体的なサービスの決定や提供の中心的な役割を担う。一方、都道府県はより広域的な視点から、市町村の行う支援を補完し、専門的な人材育成やネットワーク構築などを担う。
提供される障害福祉サービスは具体的に介護給付と訓練等給付に位置づけられる。介護給付は、居宅介護や生活介護など、就労の基盤となる日常生活を支えるサービスであり、訓練等給付は、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援など、直接的に就労を目指す訓練や職場への定着を支援するサービスである。これらの多様なサービスが組み合わされることで、利用者の状態や能力に応じて「自立訓練→就労移行支援→就労継続支援→一般就労→就労定着支援」といった段階的な就労パスを提供することができる。このようにして、障害のある人が個々のニーズに応じて就労を目指せる支援体系を構築している。
4. これまでの支援体系における課題
これまでの支援体系における課題は、以下の3点である。
これらの課題を背景に、2025年10月1日から、障害者本人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、適切な支援計画を策定するための就労アセスメント(注2)を活用し、本人の希望、 就労能力や適性等に合った選択を支援する新たなサービス(就労選択支援)が創設されることとなった(図表3)。

5. これからの就労支援~就労選択支援
「就労選択支援」は、障害者のある人が自分に合った働き方を見つけるためのサポートであり、主な流れは図表4のとおりである。
相談を受けた支援事務所などが、短期間の生産活動などを通じて、利用者の就労に関する適性、知識、能力について情報を提供する。同時に利用者の就労に関する意向を整理する作業も行う。アセスメントの結果をまとめる際には、利用者本人や関係機関の担当者などを集めて「多機関連携会議」を開催する。この会議で、利用者の就労に関する意向を最終確認するとともに、担当者から専門的な意見を聞く。アセスメント結果に基づいて、必要に応じて関係機関との連絡調整を行う。
また、各市町村に設置が努力義務とされている地域自立支援協議会や、テーマに特化してハローワーク、特別支援学校、企業、医療機関などが集まる就労支援連絡会・連携会議等への参加を通じて、就労支援に関する情報(社会資源や雇用事例など)を集め、利用者が自身の進路を選ぶ上で役立つ情報を提供する。
このような「就労選択支援」を受けられる対象者は、就労移行支援または就労継続支援の利用を考えている人、および現在、就労移行支援または就労継続支援を利用している人である。

注意しておきたい点は、以下の2点である。
この「就労選択支援」を提供する事業所には、サービス費として1日あたり1,210単位が、原則として利用者(障害者)の居住する市町村から支払われる(注3)。ただし、「特定事業所集中減算」というものもある。これは、もし過去6ヶ月間で、利用者が利用した就労移行支援や就労継続支援A型・B型のうち、8割以上が同じ事業者によるものだった場合に、1日あたり200単位が減算されるというものである。これは、特定の事業所に利用者が集中するのを防ぎ、より多くの選択肢を提供できるようにするための措置である。
この支援の支給期間は、原則として1ヶ月であるが、もし1ヶ月以上の継続的な作業体験が必要と判断された場合は、2ヶ月の支給決定がされることもある。
6. 就労選択支援制度の3つの要件
就労選択支援制度には、土台となる3つの要件がある。すなわち、就労選択支援事業所の要件、事業所における従事者の人員配置と要件、特別支援学校における対応の3つの事項である。これらは、サービス提供体制や対象者への影響を理解する上で不可欠であることから、各事項の要点について言及しておきたい。
①就労選択支援事業所の要件について
就労選択支援を提供できるのは、主に就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)の実績がある事業所である。具体的には、過去3年以内に3人以上を一般就労に結びつけた実績が必要となる。これは、就労支援の経験と成果が担保されていることを示す。
②支援事業所における従事者の人員配置と要件について
サービス提供には就労選択支援員の配置が必須であり、利用者15人につき1人以上の常勤換算での配置が求められる。支援員になるには「就労選択支援員養成研修」の修了が必要であり、これを受けるには基礎研修の修了か、就労支援分野で5年以上の実務経験が必要となる。就労選択支援は短期間のサービスなので、個別支援計画の作成やサービス管理責任者の配置は不要とされている。これにより、専門性を保ちつつも迅速なサービス提供が可能となる。
③特別支援学校における対応
特別支援学校では、生徒がより効果的な職業選択ができるよう、高等部3年生だけでなく全学年で利用可能とされ、在学中に複数回利用することもできるようにしている。職場実習と合わせての実施も可能であり、これは、生徒が早い段階から職業的な評価を受け、卒業後の進路を具体的に考える手助けとなることを目的としている。特別支援学校との連携は、障害のある生徒がスムーズに社会へ移行するための重要な要素と思われる。
7. 就労選択支援の円滑な導入と効果的な運用のための課題
令和6年度就労選択支援に係るモデル事業報告会によると、就労支援制度が多様化する一方で、それを支える現場の体制や人材育成が追いついていない懸念があるということだ。
2025年10月から始まる就労選択支援は、障害のある人が自身の希望や能力に合った働き方を選択できるよう支援する制度である。しかし、その円滑な導入と効果的な運用には、支援現場と利用者の双方における体制整備が不可欠である。政府からの通知やマニュアルを見ると、推進を妨げるかもしれない懸念事項が幾つか見えてくる。具体的には、支援員の確保と育成、事業所の体制整備とアセスメント実施の課題、利用者への周知と理解促進である。
①支援員の確保と育成について
就労選択支援の専門家である支援員は、数と質の確保に課題がある。研修だけでは十分な専門知識・技能の習得が難しく、支援員間の経験差がアセスメントの差につながる懸念がある。
②支援体制の整備課題について
就労選択支援を行う事業所には実績要件があり、支援の提供が一部の事業所に集中する可能性がある。多岐にわたるアセスメントは事業所の負担が大きく、在宅や企業での施設外アセスメントの環境整備も未解決の課題である。
③利用者への周知と理解促進について
就労選択支援は制度が複雑で、利用者や家族への周知・理解が不足している。情報へのアクセス格差や、利用日数の制限の理解不足が生じやすい。特に、見えにくい障害を持つ人への個別の対応が形式的になる懸念がある。
8. これからの展望と可能性
就労選択支援は、図表5のとおり、本人から市区町村、計画相談支援、就労選択支援を経由して本人に戻り、サービス担当者会議を実施して契約に至る。サービス担当者会議を通じて他機関、専門家の協力も必要になる。
今後の就労支援の展望としては、テクノロジーの活用が大きな鍵となるだろう。リモートワークや在宅勤務が一般化する中で、移動や対人関係に不安を抱える者でも働きやすい環境が整いつつある。また、AIを活用した就労マッチングシステムやアセスメントツールの開発も進められている(注4)。

9. おわりに
「就労選択支援」は、これから働き方を考える障害のある人にとって、希望や適性を見極めるための重要な入口となる制度である。「入口」とは、単に手続き的な開始点ではなく、障害のある人が自身の就労に関する希望を明確にし、その実現に向けた具体的な道筋を立てるための重要な第一歩であり、その後の就労支援全体を方向づける起点を意味している。
障害者本人や家族が納得のいく選択をするためにも、まずは相談窓口を活用し、必要な情報や支援を得ることが望ましい(図表6)。なぜなら、制度の内容や利用の流れは人によって理解しづらい部分も多く、専門の相談員と話すことで、個々の状況や希望に合った具体的なアドバイスや情報を得ることができるからである。
また、最新の制度変更や地域ごとの支援体制についても、相談窓口を通じて正確な情報を得られるため、より安心して選択を進めることができる。
自分らしい働き方の実現に向けて、積極的に第一歩を踏み出してほしい。相談を通じて得られる気づきやサポートが、将来の可能性を広げる大きな力となるはずである。

【注釈】
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身体障害者数及び知的障害者数は、生活のしづらさなどに関する調査及び社会福祉施設等調査等による身体障害者手帳及び療育手帳の所持者数等を元に算出した推計値。精神障害者数は患者調査を元に算出した推計値。このほか、就労支援施策については、難病患者等が対象になる。
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就労アセスメントは、主に就労継続支援 B 型事業の利用希望者に対して就労移行支援事業所などが行う就労面のアセスメントのことをいう。一方、職業的アセスメントは、職業という観点から包括的に実施されるアセスメントになる。それはアセスメントした結果を職業的な探求活動などにつなげることができるように、具体的な作業または模擬的作業を系統的に実施する一連のプロセスから構成されている。このアセスメントは、医学的、心理的、社会的、職業的、教育的、文化的、経済的などの包括的な側面から実施される。
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この「単位」は、障害福祉サービス全体で用いられており、サービス内容や提供日数などに応じて細かく単位数が定められている。1単位あたりの金額は、地域ごとの人件費などの差を考慮するため、地域(市区町村)によって異なる。実際の報酬額は、「単位数 × 1単位あたりの地域単価」で算出される。就労選択支援の基本報酬は、サービス提供日に応じた日額報酬であり、1日につき1,210単位と定められている。
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厚生労働省職業安定局が2025年4月22日に公表した「将来を見据えたハローワークにおけるAI活用について」によると、就労マッチングシステムの開発状況は、職員向けAI活用の実証 とハローワークインターネットサービス利用者向けAI活用の実証を踏まえ、段階的にAIの活用を進めていくという。2025年度に、全国10カ所のハローワークで、デジタル技術を職業紹介業務に試行的に導入し、マッチング手法の効率性・効果性に関する実証的な検証と「コンシェルジュ機能」(チャットボット)を試行的に導入し、求人や職業紹介に関する質問の自動受付・回答に活用され、利用者の利便性向上性を検証するとしている。障害のある人がハローワークのサービスをより利用しやすくなることを目指しており、結果として、多様な就労の選択肢へのアクセスを支援し、個々のニーズに合わせたより良い就労選択に繋がるものと考えられる。
【参考文献】
・厚生労働省「就労選択支援 実施マニュアル」2025年4月
・厚生労働省「就労選択支援従業者の養成のための研修における 標準プログラムの開発についての研究」2024年5月
・厚生労働省「行政説明 就労選択支援について 令和6年度就労選択支援に係るモデル事業報告会」2025年3月
・厚生労働省「改定版・就労移行支援事業所による就労アセスメント実施マニュアル」2021年4月
・厚生労働省「就労系障害福祉サービスにおける職業的アセスメントハンドブック」2021年4月
後藤 博
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 後藤 博
ごとう ひろし
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ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー
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