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コメ随意契約導入と最新データが示す価格高騰の現実

~AIが再予測する3つのシナリオと食料安定供給へのインパクト~

柏村 祐

目次

1.深刻なコメ価格高騰とブレンド米へのシフト

本レポートは、以前筆者が公表したAIによるコメ店頭価格予測(注1)に対し、その後の政府による「備蓄米の随意契約による放出」という新たな政策発表と、直近の市場データ(農林水産省発表POSデータ等)を反映し、価格予測モデルを更新して行った再分析の結果である。

農林水産省が令和7年5月26日に発表した最新POSデータは、国内のコメ市場が厳しい状況にあることをはっきりと示している。全国スーパーでのコメ平均販売価格は、令和7年5月12日の週に5kgあたり4,285円と、前年同期比で+102.2%という大幅な値上がりだ。この価格高騰は家計を圧迫し、消費者の行動も変えている。特に、売られるコメのうちブレンド米などの割合は、政府備蓄米が市場に出回るにつれて増え、同週には34%に達した。これは、消費者が価格をみて安い商品を選び、政府備蓄米がその受け皿になっていることを示している。こうした中、政府は市場を安定させるため、備蓄米の「随意契約による放出」を既に発表した。ここでの随意契約とは、政府が卸売業者等と入札を経ず直接契約し、備蓄米を供給する仕組みである。これにより、市場の需給状況に応じて迅速かつ柔軟に備蓄米を供給することが可能となり、価格の安定と品薄感の解消を期待するものである。本レポートでは、この新政策が始まった後の市場をAIで改めて予測し、コメ価格の行方と食料の安定した供給への影響を考える。

2.AIによるコメ店頭価格予測(2025年~2027年)

今回の分析では、最新POSデータ(基準価格4,285円/5kg、ブレンド米比率34%)を今の状況とし、政府が発表した「随意契約による備蓄米放出」の具体的な効果(放出量、時期、ブレンド米供給への効果、価格への影響など)をAI予測モデルに加え、2025年から2027年のコメ店頭価格(5kg袋)を再予測した。AIは主に「消費者の低価格志向が続くか」「政府の備蓄米放出がうまくいくか」「今後の天気とコメの出来具合」「世界の穀物市場と生産コスト」の4つの要素が絡んで価格が決まると分析し、次の3つのシナリオを示した(図表1)。

図表
図表

最新POSデータが示す価格高騰とブレンド米へのシフトは、AI予測において「高止まりの中での部分的安定シナリオ」の可能性を高めている。

1)高止まりの中での部分的安定シナリオ(発生確率:60%)

このシナリオでは、コメの店頭価格は今の異常な高さからは少し下がるものの、5kgあたり3,900円~4,250円という高い価格が続くとみられる。政府が随意契約によるものを含め備蓄米を出し続けることで、特にブレンド米の材料供給が安定し、市場の大きな混乱を防ぐ。消費者の低価格志向は定着し、ブレンド米やPB商品が市場の主流になるだろう。しかし、生産コストが高いままなので、銘柄米の価格が大きく下がることは期待しにくい。政府の対策は「価格の暴走」は止めるものの、消費者の負担は続くと考えられる。

2)需給緩和で段階的に価格が落ち着くシナリオ(発生確率:25%)

このシナリオでは、数年にわたる豊作、生産コスト抑制策の成功、政府の的確な市場対応(「随意契約」の効果的な活用)、そして世界の穀物市場の安定が重なることで、店頭価格は5kgあたり3,600円~4,000円程度まで少しずつ下がり、市場に落ち着きと多様性が戻る。消費者の購買力も回復し、普通の銘柄米も再び選びやすくなるだろう。

3)複合的な供給不安で価格が再高騰シナリオ(発生確率:15%)

このシナリオは、国内外での深刻な異常気象、世界の穀物・農業資材価格のどうにもならないほどの高騰、国内のコメ生産体制の急激な悪化などが重なって起こるケースである。政府の備蓄米放出も効果が限られ、店頭価格は再び5kgあたり4,300円を大きく超え、最悪の場合5,000円に迫る歴史的な高騰に見舞われるリスクがある。食料を安定して供給する仕組みそのものが揺らぐ事態といえる。

図表
図表

3.「随意契約」の意味と限界、そして市場の長期的な課題

AIの再予測は、政府が発表した「随意契約による備蓄米放出」が、特に「高止まりの中での部分的安定シナリオ」において、市場の大きな混乱を避け、ブレンド米を中心とした安い商品の供給安定に役立つ可能性がそれなりに高いことを示している。「随意契約」によって迅速に的を絞ってコメを供給できるという特徴が、今の市場の求めに合っているためだろう。

しかし、この政策も万能ではなく、国内のコメ作りの基盤の弱さ(農家の高齢化・減少、気候変動への対応の遅れなど)や世界市場の不安定さといった根本的な問題の解決にはならない。また、「複合的な供給不安で価格が再高騰シナリオ」のリスクが依然として残っている。このため、短期的な価格安定策と並行して、長期的に食料を安定供給できる仕組みを作り直すことが不可欠といえる。消費者は冷静に情報を集めて賢く行動し、生産者・流通業者・行政はコメの供給全体を効率化し国内の生産力を維持・強化する戦略を進める必要がある(図表3)。

図表
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4.コメ市場の変動と新政策が日本の食と農の未来に問いかけること

最新POSデータが示すコメ価格の高騰と消費行動の変化は、日本の食と農が抱える根本的な問題を表に出した。政府による「随意契約での備蓄米放出」は、短期的な安定策として期待されるが、それだけで食料を安定して供給できる未来が確実になるわけではない。

家計の負担増は深刻で、消費者は価格と品質のバランスをより厳しく見る必要がある。だからこそ、政策を進める上での透明さや公平さを保つことは政府の責任であり、その姿勢が厳しく問われることになる。さらに、もっと根本的には、食料自給率の低さ、農業の担い手不足、気候変動リスクといった長年の課題を解決しなければ、本当の意味で食料を安定して供給することはできない。備蓄米制度は、国内でコメ作りがきちんと続けられていることが前提となる。

日本におけるコメのあり方が問われている今こそ、生産者、消費者、食品産業、行政が一体となり、持続可能な国内農業のあり方を真剣に話し合い、行動する時である。スマート農業の推進、環境に配慮した農業への転換、新しい農業者への支援、適正な価格の仕組み作り、そして国民全体が「食」と「農」をもっと理解することが欠かせない。AI予測は未来の可能性を示すが、その未来をどう作るかは、私たちの選び方と行動しだいである(図表4)。

図表
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柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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