- HOME
- レポート一覧
- ビジネス環境レポート
- 軍事費ランキング2024:増加率・金額は冷戦後最大に
- Flash Insight
-
2025.04.30
国際秩序
注目キーワード
米中関係
ウクライナ問題
安全保障
防衛
トランプ政権
軍事費ランキング2024:増加率・金額は冷戦後最大に
~米・中・露の3強は変わらず、各国「力の支配」への備えが広がる~
石附 賢実
- 目次
1.世界の軍事費は増加率・金額ともに冷戦後最大に
2025年4月28日、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)は2024年のデータを含む“Military Expenditure Database”の最新版を公表した。2024年の世界の軍事費は、増加率・金額ともに冷戦後最大を記録した。2024年は実質で9.4%の増加(資料1)、金額も名目で2兆7,182億ドルとなった(資料3)。ロシアによるウクライナ侵略や中東の不安定化などを契機に世界各地で地政学的緊張が高まっており、各国が安全保障への備えを強化している。

2.世界シェア:米国が圧倒的トップの36.7%、ヤルタ2.0を連想させる米中露で53.7%
国別の世界シェアをみてみる(資料2)。米国が全体の36.7%を占めており、圧倒的なトップの地位を維持している。続く中国、ロシアを加えた米中露3か国で53.7%に達しており、4位以下のシェア2-3%台の集団を引き離している。ヤルタ2.0(注1)なるキーワードがささやかれるなか、数字だけみれば協調して「力の支配」(注2)を規定する誘惑に駆られてもおかしくない3か国ともいえよう。これまでは、米国が「法の支配」の維持に力を投じてきたことで、東西冷戦時代から長きにわたりパワー・バランスが保たれてきた。バランサーとして極めて存在感が大きかった米国のリーダーが、ロシアと融和し「力の支配」の誘惑に傾倒しつつあることの持つ意味は極めて大きい。これまで米国は、冷戦期から2000年代にいたるまで、ソ連・日本といった競争相手、すなわち軍事力や経済力の「2位」に打ち勝ってきたが、現在はいずれも「2位」の中国との競争に勝てるのかが問われている。そのようななかで、米中間で何等かのディールが成立して、力の支配の世界をともに推し進める協力国になってしまう可能性があるのだろうか。現状、米中は敵対関係・競争関係にあるが、今後を占う上では米中のリーダー間の関係性がどう変化していくのか、特に注視していく必要がある。

3.イスラエル・ロシア・ポーランド・独とともに日本も大幅増、ただしGDP比は低水準
先に述べた通り、世界各地で地政学的緊張が高まっており、各国が安全保障への備えを強化している。資料3は2024年の軍事費上位15か国の軍事費(名目)・GDP比・世界シェアを一覧にしたものである。GDP比はウクライナの34.48%が突出しており、ひとたび侵略を許すとその社会的・経済的影響は甚大なものとなることを示している。

続いて2023年から2024年にかけての増加率(実質US$)をみてみる。イスラエルの64.6%、ロシアの37.8%、ポーランドの30.9%、ドイツの28.3%、日本の21.2%の順となる。戦時下のイスラエル、ロシアを除くと、ロシアと国境を接するポーランドやその隣で長年の軍事費抑制策から大きく政策転換したドイツの増加率が際立つ。15位以内には入っていないが、オランダの35.0%、NATOに加盟したスウェーデンの33.9%も含めて、ロシアの脅威にさらされた欧州の軍事費増加が目立つ。
最後に日本についてみてみる。ランキングは10位で2023年から変わらないが、長期的趨勢としては経済力の相対的低下に伴い、順位・シェアともに低下傾向にある。経済規模が世界3から4位に位置しているにも関わらず、軍事費が10位ということは、経済規模に比して軍備に投じている金額が小さいことを意味し、GDP比1.37%はG7の中で最下位である。日本はGDP比2%を目指して防衛費の増額を進めているところであり(注3)、2024年も増加率は21.2%と極めて大きいものの、他国との相対感ではまだまだ少ないということになる。
2025年1月、トランプ政権は「アメリカ第一主義」をかかげて誕生した。ロシアとの融和姿勢を示す、カナダを51番目の州呼ばわりする、あるいはグリーンランドの獲得意志を表明するなど、「力の支配」に傾倒しつつある。バンス副大統領は2025年2月のミュンヘン安全保障会議で「欧州の最大の脅威は外部ではなく内部にある」と断じて、民主主義や同盟の価値観そのものに疑義を投げかけた。こうした方針や発言は、軍事力がものを言う「力の支配」の足音を感じさせるものであり、各国の防衛努力を強く促すものとなっている。今回のSIPRIのデータは2024年、すなわち2025年1月の第2次トランプ政権誕生前までである。当面、各国の軍備増強の動きは続くであろう。
【注釈】
-
ヤルタ2.0については「【1分解説】ヤルタ2.0(新ヤルタ会談)とは?」参照。
-
力の支配、法の支配については「【1分解説】法の支配とは?」参照。
-
日本の防衛費のGDP比2%を巡る議論については「なぜ『防衛費・GDP比2%』が争点となるのか」参照。
【参考文献】
- Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI) (2025) “Military Expenditure Database April 2025”
石附 賢実
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

