AIが挑む2025年参院選SNS戦略

~デマに揺れる政治空間を救えるか?~

柏村 祐

目次

1.SNSを活用した選挙戦略がもたらす明暗

2024年の兵庫県知事選挙において、SNSを活用した選挙戦略(以下、SNS選挙)が注目を集めることとなった。当選を果たした候補者は、従来型の街頭演説や選挙カーによる活動に加え、TwitterやInstagram、TikTokを駆使した選挙手法を展開し、特に若年層の投票行動に大きな影響を与えたようだ。この事例は、デジタル時代における選挙戦略の新たな可能性を示すと同時に、SNSを介した政治コミュニケーションが抱える本質的な課題も明らかにしている。

この選挙戦では、政策に関する誤った情報や意図的な歪曲が急速に拡散する事態が発生している。これらの偽情報は、有権者の判断に影響を与えかねない深刻な問題と認識されることとなった。また、SNSのアルゴリズムによって、ユーザーは自身の価値観に合致する情報のみを受け取るエコーチェンバー現象(同じ考えをもつ人々の間でのみ情報が共有・増幅される状態)や、フィルターバブル(検索履歴などにもとづき、特定の情報だけが表示される現象)に陥りやすい環境が形成されていることも問題になっている。

2025年の参議院選挙では、こうしたSNSの影響力がさらに増大することが予想されている。実際に、主要政党はデジタルマーケティング担当者の採用を強化し、SNSを軸とした選挙戦略の構築を進めている。しかしながら、単にSNSでの発信を強化するだけでは、偽情報の拡散や情報の両極化といった問題は解決されないことが懸念される。

そこで本レポートでは、AIを活用してSNS選挙の可能性に関する検討を行う。具体的には、機械学習による偽情報の検出、ファクトチェックの自動化、そしてフィルターバブル対策など、テクノロジーを活用した解決策を提示する。同時に、デジタル時代における民主主義の健全性を維持するための制度設計についても考察を行う。

2025年の参院選は、SNSとAIが織りなす新たな政治空間における最初の本格的な全国選挙となることが予想されている。本レポートを通じて、テクノロジーの適切な活用が、より開かれた民主的な選挙プロセスの実現にどのように貢献できるのか、その具体的な道筋について検討していく。

2.AIによるSNS選挙のシナリオ分析

ここでは、AIを用いてSNS選挙に関する包括的分析とシナリオ作成を行う。大規模言語モデル(LLM)によって、SNS上の選挙関連データや有権者行動、プラットフォームの影響度などを統合的に評価し、有効な対策を模索する。まず、AIに現状のSNS選挙で顕在化した課題を整理させ、フェイクニュースの拡散やエコーチェンバー現象、デジタル・デバイドが民主主義に及ぼす影響を最新データで定量的に評価した。そのうえで、2025年参議院選挙で予想される課題に対する複数の解決シナリオを立案し、AIを用いてそれぞれがもたらす社会的影響や実現可能性を検討する。さらに、政策シミュレーションによって各シナリオの実現確率を算出し、技術的・社会的根拠を明確にする際、海外の事例や規制動向も踏まえて日本の状況に合った実践的な対策オプションを示す。

まず、「SNS選挙で浮上した課題を整理せよ」と指示したところ、AIは5つの重要な課題を提示した(図表1)。まず、情報の信頼性確保や偽情報対策については、ボットによる大量投稿は健全な言論環境を損ない、民主主義を危うくするという懸念が示された。また、若者向けアプローチも不十分な点があり、学生のSNS利用率が非常に高い一方で政治的情報に触れている層は1割未満にとどまると指摘した。極端な主張がSNS上で拡散することによる社会分断の深化も見過ごせない問題とされた。さらに、SNS利用者と非利用者との間で情報格差が生じ、SNSの双方向性が十分活用されていない現状も指摘されている。

図表
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これらの課題提示をもとに「来年度の参議院選挙に向けた課題解決シナリオを複数提示せよ」と指示したところ、AIは4つのシナリオを提示した。シナリオ1「共同ファクトチェック・アライアンスの立ち上げによる偽情報対策」は、主要政党、ニュースメディア、研究機関、テック事業者が共同で「ファクトチェック・アライアンス」を設立し、SNS上の情報の真偽を検証して有権者にフィードバックする仕組みを構築するというものである。これは、偽情報拡散の抑制による投票行動の歪み解消や有権者の信頼回復といった効果が期待されるが、合意形成に時間がかかる可能性がある。シナリオ2「若年層特化SNSキャンペーン」は、インフルエンサー活用や短尺動画を通じて若者の関心を高めるというものだが、情報が過度に簡略化されるリスクを孕む。シナリオ3「地域SNSコミュニティベースでの情報格差是正」は、地方メディアと連携して地域ごとの情報格差是正を目指すものだが、運営体制の確保が課題になると指摘されている。シナリオ4「政策対話プラットフォームの常設化とエシカルデザイン」は、常時運用される政策対話プラットフォームを整備し、倫理的設計にもとづく建設的議論の場を用意する一方で、運営コストや中立性確保が課題として想定されている。

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最後に、4つのシナリオについてAIによる実現確率分析を行った(図表3)。「若年層特化SNSキャンペーン」は50~70%と最も実現しやすく、若者重視の政党姿勢や既存の取り組み実績が後押ししている。「共同ファクトチェック・アライアンス」と「地域SNSコミュニティベース」は30~50%で、一定の期待があるものの、関係者間の調整や運営上の課題が残る。「政策対話プラットフォーム」は20~40%と低めであり、運営費用や専門家確保、政治家参加意欲の不明確さが障壁として指摘されている。

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以上のように、AIは様々な情報をもとに多角的な課題解決シナリオを提示したが、現実問題として、社会・制度的な基盤整備を伴わなければ、シナリオを実現して十分な成果を得ることは難しいことも明らかになった。若者向けの訴求は比較的容易だが、情報の深度が浅くなれば民主主義の質的向上に直接結びつかない可能性がある。一方、ファクトチェック体制の強化や政策対話の常設化は難易度が高いものの、実現すれば有権者が熟考できる環境整備や情報信頼性の向上に貢献し得ると考えられる。

今後は、AIとSNSを単なる道具としてではなく、民主主義を支える社会基盤と位置づける視点が欠かせない。そのためには、政策立案者やプラットフォーム運営者、メディア、教育・研究機関、地域社会が共に連携し、情報環境を継続的に改善し続ける努力が求められる。2025年参議院選挙を見据え、こうした包括的な取り組みを早急に検討し、持続可能な「デジタル民主主義」の基盤を築くことが重要である。

3.「デジタル民主主義」への展望

2025年の参議院選挙では、情報の信頼性や若年層へのリーチ、地域的な情報格差、そして双方向対話の不足など、SNS選挙にかかわる複合的な課題が顕在化すると予想される。

図表4は、SNSがもたらす影響と課題を起点に、AI分析から浮上したシナリオ、若年層特化型SNSキャンペーン、長期的な展望、そして新たなデジタル民主主義基盤の構築までを整理したものである。これによると、課題群が単なる技術的問題ではなく、政治・社会・経済・地域レベルでの連携や調整を必要とすることが明確になっている。

なかでも比較的実現可能性が高いであろう「若年層特化SNSキャンペーン」は、より多くの若者を政治参加に誘引する契機となり得る。しかし、その際には情報の質や深度を確保し、浅薄なメッセージ拡散に留まらぬよう注意が必要である。また、ファクトチェック機能の強化や地域レベルでの情報流通改善は、合意形成や運用上の困難性を伴いつつも、長期的には政治的熟考を促進し、社会全体の情報リテラシー向上に資する。政策対話プラットフォームの常設化はさらに難易度が高いが、実現すれば政治的対立を建設的議論へと昇華させ、有権者が自ら選択肢を吟味できる公共のデジタル空間を創出し得るだろう。

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これらはすべて、単なる技術的アプローチではなく、政策立案者、プラットフォーム運営者、メディア、教育・研究機関、地域社会が総合的に連携し、複雑なガバナンスモデルを形成することを要する課題でもある。2025年参議院選挙に向けたSNSとAIの統合的活用には、偽情報対策と若年層の政治参加促進という2つの課題に重点的に取り組むことに意義がある。そして、それらを通じてデジタル時代における選挙の公平性と透明性を確保し、健全な民主主義プロセスの基盤を築くことが重要なのである。


柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

政策調査部 主席研究員
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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