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AIは二番底が意識される日経平均株価をどう予測するのか?

~2025年3月までの9つのシナリオ、価格、発生確率~

柏村 祐

目次

1.日経平均株価、8月に史上最大の急落を記録

2024年8月5日、日本の株式市場は歴史的な激震に見舞われた。日経平均株価は前週末比4,451円28銭(12.4%)安の31,458円42銭で取引を終え、過去最大の下落幅を記録した。この急落は1987年10月20日のブラックマンデー翌日の記録(3,836円48銭)をも上回る規模となり、市場参加者に大きな衝撃を与えた。新NISAで投資を始めたばかりの個人投資家にも影響が及び、社会的な動揺も広がった。

この急落には複数の要因が絡み合っている。第一に、アメリカの雇用統計が市場予想を下回ったことで、米国景気の先行きに対する不安が高まった。第二に、日銀の政策変更と米国の金利低下予想により、円高が急速に進行した。第三に、海外投資家による投機的な先物取引の売りが急落を主導したとされている。さらに、7月31日に日銀が追加利上げを決定し、植田総裁が今後の利上げに前向きな姿勢を示したことも市場心理に影響を与えた。また、円キャリートレードの巻き戻しがさらなる株価下落の要因になった可能性も指摘されている。つまりこの急落は、グローバルな経済環境の変化と日本の金融政策の転換が重なったことで引き起こされた複合的な現象といえる。

このような中、AIを活用した分析が今後の日経平均株価の動向を予測する上で新たな視点を提供する可能性がある。そこで本レポートでは、最新のAI技術を駆使し、2025年3月までの日経平均株価の動向を分析する。具体的には、2024年9月末、12月末、2025年3月末の3つの時点について、それぞれ3つのシナリオを想定し、計9つのシナリオにもとづく価格予測と各シナリオの発生確率を詳細に検討する。この分析により、今後の日本株式市場の方向性に関する包括的な見通しを得ることを目指す。

2.AIによる日経平均株価の分析と予測

本節では、AIを活用した日経平均株価の詳細な分析と将来予測を行う。2024年4月公開の拙稿(注1)では「過去の価格データの分析」と「楽観シナリオ、悲観シナリオにもとづく株価予測」の2つの工程で構成されていたが、今回はより包括的なアプローチを採用する。分析は過去データの詳細分析、専門家が想定する複数のシナリオにもとづく予測、専門家が通常想定しないような極端なシナリオの検討という3つのステップで構成される。この新しいアプローチを採用したのは、楽観シナリオと悲観シナリオという単純な二分法を超えて、市場の複雑性をより正確に反映し、あらゆる可能性を網羅的に探索するためである。専門家の見解を取り入れつつ、同時に通常は考慮されないような極端なシナリオも検討することで、より包括的な分析が可能となるだろう。

なお本分析では、最新の大規模言語モデル(LLM)を活用したAIシステムを使用している。このAIモデルは、膨大な金融データと最新の市場動向を学習しており、複雑な経済システムの分析と将来予測に特化している。このアプローチにより、先のレポートよりも深い洞察と、より多様な将来シナリオを提示できる。

まず、AIによる過去分析によると、日経平均株価は2019年8月から2024年8月にかけて全体的に上昇トレンドにあり、20,000円台から最高で40,000円台まで上昇している。特筆すべき変動として、2020年3月のCOVID-19パンデミックによる急落(16,552円まで下落)、2020年11月〜2021年2月のワクチン開発のニュースによる回復(30,000円台を回復)、2021年9月の30,000円台の安定的な超過、2023年3月の33,000円台突破、そして2024年3月の40,000円台初突破が挙げられる(図表1)。

図表1 日経平均株価の長期トレンド分析(2019年8月-2024年8月)
図表1 日経平均株価の長期トレンド分析(2019年8月-2024年8月)

次に、専門家が想定する複数のシナリオにもとづく予測を示す。AIは、現在の日経平均が約35,000円であることを踏まえ、楽観的シナリオ、中立的シナリオ、慎重シナリオ、悲観的シナリオの4つを提示した(図表2)。

図表2 2024年9月末から2025年3月末までの日経平均株価予測シナリオ
図表2 2024年9月末から2025年3月末までの日経平均株価予測シナリオ

AIによる日経平均株価の予測は、世界経済の動向、日本企業の業績、金融政策、為替市場など複数の要因にもとづいて行われる。楽観的シナリオでは、世界経済の回復加速と日本企業の業績改善が継続し、日本銀行が慎重に金融政策を修正、円安傾向も続くと想定されており、AIは、これらにより2025年3月末に41,000円まで上昇すると予測した。中立的シナリオでは、世界経済と日本企業の業績が緩やかに回復し、金融政策の正常化も慎重に進められ、為替市場も安定すると見ており、この場合、AIは2025年3月末に37,000円程度になると予測した。慎重シナリオでは、世界経済の回復が遅れ、地政学的リスクが高まり、インフレ圧力が持続し、円高が進行すると想定されており、AIはこれらの要因により2025年3月末は34,500円前後にとどまると予測した。悲観的シナリオでは、世界的な景気後退が顕在化し、地政学的緊張が高まり、国内でデフレが再燃、急激な円高が進むと想定されており、AIは2025年3月末に31,000円程度まで下落するリスクがあると予測した。

最後に、専門家が通常想定しないような極端なシナリオについても検討する(図表3)。急激な技術革新シナリオでは、日本企業の画期的な技術発明による世界市場席巻を前提に、2025年3月末に70,000円まで上昇するとAIは予測している。グローバル通貨危機シナリオでは、主要国通貨の不安定化と日本政府の迅速な対応を前提に、一時20,000円まで下落した後、2025年3月末に40,000円まで回復すると予測した。環境災害と産業革命シナリオでは、大規模自然災害後の日本の環境・防災技術リードを前提に、2025年3月末に65,000円まで上昇すると予測した。仮想通貨統合シナリオでは、日本政府の仮想通貨公認化と金融イノベーション加速を前提に、2025年3月末に80,000円まで上昇すると予測した。宇宙開発バブルシナリオでは、日本企業の月面資源採掘成功と政府の大規模宇宙開発投資を前提に、2025年3月末に90,000円まで上昇すると予測した。これらの極端なシナリオは実現可能性が非常に低いものの、予期せぬ技術革新や世界的な出来事が市場に劇的な影響を与える可能性を示唆している。

図表3 日経平均株価の極端シナリオ予測(2024年8月-2025年3月)
図表3 日経平均株価の極端シナリオ予測(2024年8月-2025年3月)

3.AIによる9つのシナリオの発生確率

AIの分析と予測にもとづき、9つのシナリオの発生確率とその根拠を詳述し、過去のトレンドや現在の経済状況との関連を確認する(図表4)。

楽観的シナリオ(発生確率25%)は世界経済の回復と日本企業の業績改善が続くことを前提としており、2019年から2024年にかけての上昇トレンドと整合している。中立的シナリオ(発生確率35%)は最も高い確率で、前節で見た安定的な30,000円台の推移と緩やかな上昇傾向を反映している。大きな変動要因がない場合、この傾向が続く可能性が高いと判断される。慎重シナリオ(発生確率20%)はCOVID-19パンデミックのような予期せぬ出来事による急落の可能性を考慮しており、世界経済の不確実性や地政学的リスクが市場に影響を与える可能性がある。悲観的シナリオ(発生確率10%)は2020年3月のパンデミック時のような急激な下落など、極端な事象の発生可能性を示している。

急激な技術革新シナリオ(発生確率2%)は極端な上昇を想定しているが、前節の観察期間内には見られなかった。グローバル通貨危機シナリオ(発生確率3%)は金融市場の相互依存性の高まりを考慮している。環境災害と産業革命シナリオ(発生確率2%)は気候変動リスクの増大を反映している。仮想通貨統合シナリオ(発生確率1%)と宇宙開発バブルシナリオ(発生確率0.5%)は革新的な変化を想定しているが、これらは前節の分析対象期間中には全く観察されなかった。

これらの確率予測には重要な注意点がある。まず、これらの確率は前節の分析結果にもとづく主観的な推定であり、実際の市場動向や予期せぬ出来事によって大きく変動する可能性がある。また、各シナリオの確率は時間の経過や新たな情報の出現により変動するため、定期的な再評価が必要である。最後に、投資判断を行う際は前節の分析結果を参考にしつつも、単一のシナリオに依存せず、ここで提示した複数のシナリオを考慮することが重要である。

図表4 9つの日経平均株価予測シナリオの発生確率分布
図表4 9つの日経平均株価予測シナリオの発生確率分布

4.多角的シナリオ分析がもたらす新時代の市場展望と投資戦略

本分析で示された9つのシナリオと各確率は、今後の日本株式市場の方向性を示すものである。中立的シナリオの発生確率が35%と最も高く、現状の緩やかな回復基調が続くことが示唆されるが、同時に楽観的シナリオの25%という比較的高い確率は、市場の潜在的な上昇余地を示しているといえる。一方で、慎重シナリオと悲観的シナリオの合計30%という確率は、世界経済の不確実性や地政学的リスクを無視できないことを警告している。

特筆すべきは、急激な技術革新や環境災害、仮想通貨統合などの極端なシナリオが合計8.5%の確率で提示されていることである。これは、従来の経済分析では見落とされがちな「ブラックスワン」(注2)的事象の重要性を浮き彫りにしている。このようにAIによる分析は、単なる数値予測を超え、多角的な視点から市場動向を捉える新たな思考の枠組みを提供している。

しかし、AIの予測はあくまで確率的なものであり、1.5%の予測不能なシナリオの存在も考慮されている点に注目すべきである。当然のことではあるが、投資家や政策立案者は、これらの多様なシナリオを踏まえつつ、世界経済の動向、日本企業の業績、金融政策の変化、為替市場の変動など、複雑に絡み合う要因を総合的に分析し、自らの判断力を磨くことが求められる。さらに、新NISAで投資を始めた個人投資家への影響などの社会的な問題にも注意を払う必要がある。

繰り返しになるが、投資家には、経済指標だけでなくAIが示すような多様なシナリオを考慮しながら、柔軟かつ慎重に運用戦略を定めることが求められる。

現代の市場環境において、AIと人間の洞察力を組み合わせた分析手法は、不確実性への対応策として注目されている。ただし、これが唯一の解決策ではなく、従来の分析手法や個々の投資家の経験も依然として重要な役割を果たす。多角的なアプローチを採用し、状況に応じて適切な手法を選択することが、今後の市場分析の鍵となるだろう。


【注釈】

  1. 日経平均予測AIの衝撃~AIを活用して2024年6月、9月、12月末の株価を予測してみた~
    https://www.dlri.co.jp/report/ld/330368.html

  2. 従来の常識や予測を覆す予想外の出来事が発生し、社会や市場に大きな影響を与えること

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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