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2024.07.18
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AI vs夏休みの宿題「読書感想文」
~AIの学習分析能力は人間を超えたのか?~
柏村 祐
1.読書感想文の意義と現代的課題
子どもたちの多くは、夏休みの宿題の中でも特に読書感想文に不安を感じる。長年、形を変えることなく続いてきたこの宿題は、夏休みの楽しみを半減させる存在となっている。しかし、読書感想文が宿題として課され続けていることには、重要な教育的意義がある。第一に、子どもたちに読書習慣を身につけさせることが挙げられる。本を読むことで、語彙力や想像力が養われ、さらに様々な疑似体験を通じて世界観を広げることができる。第二に、自分の考えを文章化する能力を育成することができる。感想を言葉で表現することで、論理的思考力や自己表現力が培われる。しかし、デジタル時代に突入し、スマートフォンやタブレットで手軽に情報にアクセスできる現代の子どもたちにとって、一冊の本を読破し、自分の考えをまとめるという作業はますます馴染めないものになっているように思える。
このような状況下で、最新のAI技術が注目を集めている。ChatGPTをはじめとする自然言語処理技術の進歩は目覚ましく、人間のような文章を生成することが可能になっている。本レポートでは、AIを活用した読書感想文作成の可能性と限界を探り、子どもたちがAIを味方につけて夏休みの宿題に取り組むための手法について考察する。
2.AIによる読書分析と感想文作成支援
AIを活用した読書感想文作成支援のプロセスを詳細に検討するため、「不思議の国のアリス」を例に、AIがどのように本の内容を分析し、読書感想文に必要な要素を抽出するかをみていく。AIによる読書感想文作成支援の主要なものとしては、ブリーフィング機能、目次、タイムライン、学習ガイド、よくある質問がある(図表1赤枠)。

まず、概要機能では、AIは「不思議の国のアリス」の全体的な構造と主要なテーマを簡潔にまとめた。物語の基本的な筋書き、主要登場人物、そして作品全体を通じて流れる「論理と非論理の融合」「子供の視点から見た大人の世界」といったテーマを抽出した。この概要は、人間の読者が行う要約と比較しても遜色なく、むしろより客観的で包括的な視点を提供している。たとえば、アリスの冒険が現実世界から夢の世界への旅であること、物語が子供の視点から見た大人の世界の批評であること、そして論理と非論理の融合が作品全体のテーマであることなどが明確に示されている(図表2)。

次に、目次機能では、AIは本の章立てや構成を明確に示した。「不思議の国のアリス」の場合、各章のタイトルとその内容の簡単な説明を提供した。これにより、読者は物語の全体的な流れを把握し、各章の重要性を理解することができる。たとえば、「うさぎの穴に落ちる」章では、アリスが白うさぎを追いかけて不思議な冒険が始まることが説明されている(図表3)。

続いて、タイムライン機能では、AIは物語の主要な出来事を時系列順に整理し、アリスの冒険の流れを明確に示した。うさぎの穴に落ちる場面から始まり、体の大きさが変わる体験、不思議な生き物たちとの出会い、狂ったお茶会、ハートの女王との対決、そして現実世界への帰還まで、物語の展開を詳細にマッピングした。これにより、読者は物語の進行を容易に追跡できる(図表4)。

さらに、学習ガイド機能では、AIは作品から読者が学べる重要なポイントを抽出した。「批判的思考の重要性」「固定観念への挑戦」「言葉の多義性と解釈の自由」「成長と自己発見のプロセス」などが含まれている。AIは各ポイントについて、物語中の具体的な場面や登場人物の言動を例に挙げ、その意義を説明した。たとえば、チェシャ猫との対話を通じて、物事を多角的に見ることの重要性を学べることが示されている(図表5)。

最後に、よくある質問機能では、AIは「不思議の国のアリス」に関してよくたずねられる質問とその回答を提供した。たとえば、「物語の舞台設定はどこですか?」「アリスのキャラクターについて教えてください」「ワンダーランドで見られる興味深いキャラクターをいくつか教えてください」などの質問に対して、詳細かつ洞察に富んだ回答を用意した。これらの機能を活用することで、読者は「不思議の国のアリス」をより深く理解し、独自の視点で読書感想文を作成することができる(図表6)。

これらの機能を活用することで、読者は「不思議の国のアリス」をより深く理解し、独自の視点で読書感想文を作成することができる。AIによるこれらの分析は、大量のテキストデータから学習した大規模言語モデル(LLM)によって可能となった。LLMは、複雑な文学作品のパターンや関係性を学習し、多様な情報源から得た知識を統合して分析することができる。
3.AIと人間の協働による読書感想文の進化
AIは、作品の概要把握、目次の整理、タイムラインの作成、学習ポイントの抽出、よくある質問への回答など、多角的な視点から本の内容を分析し、読者の理解を深める強力なツールとなる。従来の読書感想文の作成プロセスでは、子どもたちは本を読み、内容を理解し、感想をまとめるという一連の作業を独力で行う必要があった。しかし、AIを活用すると、本の分析や要約をAIが支援し、子どもたちはそれらの情報を基に、より深い考察や独自の解釈を展開することができる(図表7)。

AI時代の読書感想文の作成プロセスでは、子どもたちはAIによる概要分析を参照しながら本を通読し、AIが提供する目次機能やタイムライン機能を活用して物語の構造や展開を理解する。さらに、AIの学習ガイド機能を参考に作品の重要なテーマや学習ポイントを把握し、AIが提示する分析や解釈に対して自分なりの疑問や異なる視点を考える。AIとの対話を通じて自分の考えを深め、新たな洞察を得たうえで、独自の感想を形成し文章化する。このプロセスにより、子どもたちは自分なりの視点で作品を捉え直し、AIが抽出した学習ポイントを出発点として、自身の経験や感情と結びつけた独自の感想を展開することが可能となる。
ただし、AIの活用には注意が必要である。AIに頼りすぎることで、子どもたち自身が主体的に考え、感じ、表現する機会が失われる危険性がある。そのため、AIを単なる「答え合わせ」のツールとしてではなく、思考を深め、新たな視点を獲得するための「対話のパートナー」として活用していくことが重要である。具体的には、AIが提示した分析や解釈に対し、子どもたち自身がさらに疑問を投げかけたり、異なる視点を提示したりすることで、より深い学びにつながる。
AIは読書感想文という伝統的な宿題に新たな可能性をもたらす一方で、それを活用する子どもたちの側にも新たな能力が求められている。AIが提供する情報を理解し、それを自分の考えと統合する能力、AIとの対話を通じて自分の思考を深める能力、そしてAIの支援を受けながらも独自の視点を失わない能力などが重要となってくる。AIと人間の強みを効果的に組み合わせることで、読書感想文は思考力や創造性を育む貴重な学習機会へとさらに進化する可能性を秘めている。デジタル時代における読書感想文の意義を再定義し、AIと子どもたちが協働する新たな学習モデルを構築していくことが、今後の教育現場における重要な課題となるだろう。
教育者は、AIを効果的に活用しながら、子どもたちの主体的な思考や表現を促す指導法を開発していく必要がある。そうすることで、読書感想文は単なる夏休みの宿題から、21世紀型スキルを育成する重要な教育ツールへと進化していくことになるだろう。
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 柏村 祐
かしわむら たすく
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ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション
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