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2024.06.19
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障害者に対する就労支援を展望する
~障害者の社会参加を促す持続可能な支援を~
後藤 博
1.増加する障害者雇用
「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」の改正を受け、民間企業における障害者の法定雇用率が2024年4月に2.5%となった。2026年には2.7%まで引き上げられることが決定しており、企業には社会的責任を果たすとともに「雇用の質」向上への取組みがより一層求められている。そこで本稿では、障害者雇用の現状に焦点をあてたうえで、今後の障害者への就労支援を展望する。
2023年度の厚生労働省の調査では、一般民間企業に雇用されている障害者の実雇用率が初めて法定雇用率を上回り、過去最高となった(図表1)。また、精神障害者の雇用者は障害者雇用率の算定の対象となった2006年と比較して約65倍、知的障害者の雇用者は約3.5倍、身体障害者の雇用者は約1.5倍に増加している。その結果、雇用されている障害者全体に対する割合でみると、身体障害者が約59%、精神障害者が約20%、知的障害者が約24%となっている。法定雇用率の段階的引き上げに伴い、雇用される障害者は今後も増加するものと予想される。

2.日本の障害者雇用政策は雇用率制度を中心に展開
日本の障害者雇用政策は、これまで雇用率制度を中心に展開されてきた。現在では、障害者を従業員の一定割合で雇用することを企業に義務付け、法定雇用率を達成できない企業からは納付金を徴収し、その資金を障害者雇用促進のために使用する仕組みが定着している。
障害者雇用促進法の前身である「身体障害者雇用促進法」は1960年に制定され、同法で企業等が雇用すべき雇用率が1.3%に定められたが、民間企業については努力目標に止まっていた。1976年の同法改正で民間企業にも義務化され、1998年には知的障害者が、2018年からは発達障害者を含む精神障害者も雇用義務の対象となった。
また2013年の改正では、障害を理由とする差別禁止原則および事業主による合理的配慮の提供義務が導入された。これは、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環で、障害者雇用の質的向上を目指し、障害者が安心して働ける環境を整備するための重要な一歩となった。
ただ、先述の通り障害者の雇用者数は増える一方で、いくつかの課題も明らかになっている。たとえば厚生労働省「令和5年障害者雇用実態調査」によると、法定雇用率を満たす企業は企業全体の5割に止まっており、さらなる推進が求められる。
また、増加傾向が顕著な精神障害の雇用者が安定的に働く環境も十分とはいえない。厚生労働省の調査によると、一般の就労者の勤続年数が12年4か月であるのに対し、精神障害者は5年3か月、発達障害者は5年1か月となっている。精神障害は思考や感情調節、社会的行動に障害を伴うという特性をもつことから、合理的配慮提供を含めた職場の環境整備が一層求められるところである(注2)。
3.就労の量から質に
働くことは生活の質(QOL)に大きく関わり、人それぞれの生活習慣や価値観、人生観にもとづく。したがって、障害者の就労支援については、単に法定雇用率を上げるだけでなく、働く質の向上を図ることも重要である。
先述の通り日本の障害者雇用政策は法定雇用率を中心としてきたが、海外では障害者の社会的包摂をどう推進するかという観点を重視する国もある。たとえばアメリカやイギリスでは差別禁止を軸に、スウェーデンでは国営企業サムハルによる障害者の優先雇用により、障害者雇用の促進に取り組んでいる(注3)。
日本で雇用の質が重視されるようになったきっかけは、障害者権利条約の採択と障害者雇用促進法の改正である。障害者権利条約については、2006年に国連総会で採択され、2008年に発効した。この条約は、障害を理由とする差別の禁止や、事業主による合理的配慮の提供確保等を締約国に求めている。
障害者雇用促進法の2013年改正では、障害者の雇用を促進するため、新たに障害を理由とする差別禁止原則と事業主による合理的配慮の提供義務が導入された。さらに2023年の同法改正をふまえ、政府は「障害者雇用対策基本方針」において「今後、雇用の機会の確保を更に進めることに加え、障害特性や希望に応じて能力を有効に発揮できる就職を実現することや、雇用後においてもその能力等を発揮し活躍できるようにすることなど、雇用の質の向上に取り組んでいくことが重要である」と、「質の向上」に向けた取組みを明確化した。
これらにより、日本の障害者雇用政策は、障害者の意欲と能力を高め、社会全体の成長を支える方向に進化しつつあるといえる。
4.障害者就労支援をより適切な選択肢と結びつける
現在、障害者の就労ニーズを実際の雇用に結びつけるために、2025年10月から正式に展開される「就労選択支援」のモデル事業が進められている(図表2)(注4)。これは、障害者一人ひとりのニーズに応える支援を目的とした制度で、障害者総合支援法にもとづく障害者福祉サービスに位置づけられている。
この事業では、就労先や働き方について、障害者本人が適切な選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する。障害者本人が一般就労や就労系障害福祉サービスなどを自ら選択することや、本人の能力や適性、地域の状況に合った選択ができるようにすることがねらいとされている。

具体的には、障害者本人が就労選択事業所に配置された就労選択支援員と協力して、就労継続支援事業所やハローワークとも連携し、適切な働き方や就労先を選択するうえで必要な情報や助言を得る。就労選択支援員は、障害者本人の能力や特性を評価し、本人に適した事業所や仕事探しをアドバイスする。ただし、就労選択支援員の判断だけで事業所等に振り分けられることはなく、本人が決断して利用の有無を選択できるようになっている。つまり、あくまでも就労選択支援員は助言するだけで、選択そのものを強制するものではない。雇用のミスマッチを極力避ける観点からも、就労を希望する障害者は、支援員の話を聞いたうえで自身の希望とすり合わせていく。
またこの事業では、障害者が自分の能力やニーズに応じた働き方を柔軟に選択できることが目指されており、短時間勤務やパート、テレワーク等も含め、柔軟な働き方の選択肢が増える可能性を秘めている。さらに将来的には、この事業が障害認定には至らないまでも身体機能が低下した高齢者や要支援・要介護の人の就労支援につながる可能性もある。
就労選択支援制度の展開により、障害者がより良い働き方を選択しやすくなり、その社会参加も促進されることが期待される。その観点で持続可能な対策・支援とするためにも、当事者の声が活かされる仕組みとすることが重要だろう。
【注釈】
- 障害者の雇用義務のある企業規模は、2012年までは56人以上、2013年から2017年までは50人以上、2018年から2020年までは45.5人以上、2021年以降は43.5人以上。
- 厚生労働省「発達障害を含む精神障害者への就労支援」
- 厚生労働省第5回「障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会(資料2)」2012年3月 朝日雅也「スウェーデンにおける障害者雇用施策」『福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会報告書』2009年11月
- 2023年には滋賀県、島根県松江市、熊本県熊本市、合志市で実施された。 厚生労働省障害福祉サービス等報酬改定チーム「令和6年度障害者福祉サービス等報酬改定に関する意見等」(第33回ヒアリング資料9) 2023年8月
【参考文献】
- 厚生労働省障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(第45回)「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(案)」2024年2月
- 社会保障審議会障害者部会(第139回)・こども家庭審議会障害児支援部会(第4回)「参考資料2」2023年11月
後藤 博
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 後藤 博
ごとう ひろし
-
ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー
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