2024年米国大統領選挙へのAI活用

~有権者の真の声を汲み取る新たな予測手法とは?~

柏村 祐

目次

1.選挙予測の新たな道具としてのAIの可能性

2024年11月に迫った米国大統領選挙は、国内外から大きな注目を集めている。パンデミック後の経済回復や気候変動対策など米国の重要課題への舵取りを左右するだけでなく、ウクライナ情勢や中国との覇権争いなど国際情勢にも大きな影響を与える一大イベントだ。

この歴史的な選挙の行方を占うべく、これまで数多くの世論調査や専門家による分析が行われてきた。しかし、従来の手法だけでは捉えきれない有権者の本音も少なくない。ソーシャルメディアの普及で世論形成のあり方も変化し、隠れトランプ支持者の存在など予測を難しくする要因も出てきた。

そこで新たな選挙予測の武器として注目したいのが、AI(人工知能)の活用だ。ビッグデータ解析や自然言語処理の発展で、AIは大量の非構造化データから人間の心理を読み取る力を飛躍的に高めている。ソーシャルメディア上の有権者の声を分析し、感情分析で選挙への関心度合いを測定する。AIを駆使することで、表面的な態度と本音のズレを浮き彫りにできるのではないか。

本稿では、有権者の真の声を拾うAIならではの選挙予測の可能性を探っていく。各候補者の勝敗を分ける鍵は何か。立候補予定者の選挙対策にどう活かせるのか。伝統的な世論調査を超える新たな予測手法を見通す。

2.AIが予測する候補者別当選確率と選挙戦略

米国大統領選挙の勝敗は、事実上各州の獲得選挙人数で決まる。そこで、AIに膨大な世論調査データや過去の選挙結果、経済指標などを学習させ、州ごとの情勢を緻密に分析させた。これにより、AIは各候補者の当選確率を算出することができる。AIによる客観的な予測値は、選挙戦略を練る上でも貴重な指針となる可能性を秘める。

そこで、まずはAIに「大統領選の候補者は誰ですか?」とたずねてみた。その結果、AIは概要として「トランプ前大統領とバイデン大統領の一騎打ちの構図となっていますが、ケネディJr.など無所属候補の動向も注目されています。世論調査ではトランプ氏がわずかにリードしている状況です」と解説したうえで、民主党、共和党、無所属・第三政党の主要候補者を挙げた(図表1)。

図表1 2024年米国大統領選の主な候補者
図表1 2024年米国大統領選の主な候補者

続いて「各候補者の当選確率を予測してください」とAIに指示したところ、前提条件として「選挙まではまだ時間があり、候補者の当選確率は経済状況や予期せぬ出来事の影響を受けて大きく変動する可能性があります。世論調査は選挙の大まかな方向性を示すものの、実際の投票結果を正確に予測することは困難です。引き続き情勢を注視していく必要があるでしょう」という留保をつけ、ドナルド・トランプ (共和党) 50-55%、ジョー・バイデン (民主党) 40-45%、ロバート・F・ケネディJr. (無所属) 5-10%と各候補者の当選確率を予測した(図表2)。

図表2 AIが予測する2024年米国大統領選の候補者別当選確率
図表2 AIが予測する2024年米国大統領選の候補者別当選確率

この予測を見る限り、再選を狙うバイデン大統領にとっては厳しい戦いが予想される。そこで、「ジョー・バイデンがドナルド・トランプに勝つための戦略は何か?」とAIに聞いてみた。その結果、AIはまず戦略を立てるうえでの前提として、「バイデン大統領の高齢や健康への懸念、物価高などが逆風となる中、トランプ氏との接戦が予想されます。民主党内からもバイデン氏に代わる候補を求める声もあります。選挙戦略の成否が、バイデン大統領の政治的命運を左右するでしょう」と指摘した。

そのうえで具体的な戦略として、(1)「青い壁」と呼ばれる激戦州に集中する、(2)経済のソフトランディングを実現する、(3)トランプ氏の「民主主義への脅威」をアピールする、(4)魅力的な副大統領候補を起用する、(5)政権の実績を積極的にアピールする、という5つの方策を提示してきた(図表3)。

図表3 ジョー・バイデンがドナルド・トランプに勝つための5つの戦略
図表3 ジョー・バイデンがドナルド・トランプに勝つための5つの戦略

一方、トランプ陣営の戦略はどうだろうか。AIの予測ではトランプ氏が優位とされている。そこで「ドナルド・トランプの当選確率をさらに高める戦略は何か?」とAIにたずねたところ、AIは戦略の概要として「トランプ氏の当選のカギを握るのは激戦州での戦いです。資金力と組織力の差を埋めつつ、強力な副大統領候補の起用と的確な攻撃メッセージの発信で、接戦を制する必要があるでしょう。ただし法廷闘争のリスクは依然として高く、選挙戦略の足かせになる可能性も否定できません」と分析した。

具体的な戦略としては、(1)激戦州への集中投資、(2)強力な副大統領候補の起用、(3)資金力の強化、(4)地上戦の強化、(5)法廷闘争の影響の最小化、(6)バイデン氏への攻撃強化、の6点を挙げた(図表4)。

図表4 ドナルド・トランプの当選確率をさらに高める6つの戦略
図表4 ドナルド・トランプの当選確率をさらに高める6つの戦略

以上のように、AIによる予測からは、トランプ氏が一歩リードしているものの、バイデン氏も健闘している構図が浮かび上がる。両陣営にとって当選確率を高める具体的な戦略の指針として、参考にできるところがあるかもしれない。激戦州での選挙運動の強化や、的確な攻撃メッセージの発信など、AIならではの斬新な提案もあった。

ただし、AIによる予測にも限界はある。突発的な出来事の影響や、隠れた有権者心理の変化など、データだけでは捉えきれない不確定要素も多い。あくまで選挙情勢を占う上での1つの材料として、伝統的な世論調査や専門家の知見とのバランスを取りながら活用していくものといえよう。

3.AIを活用した新しい選挙予測へ

米国大統領選挙は、いつも内外の複雑な要因が絡み合う選挙となる。そのため選挙予測は容易ではないが、AIの力を借りることで新たな視点をもつことができる。

大量のデータ処理と客観的な分析を得意とするAIと、洞察力と柔軟な判断力をもつ人間の専門家の両者の強みを生かした協働こそが、選挙予測の新時代を切り拓くカギとなる(図表5)。AIにはソーシャルメディア上の有権者の生の声を拾い、世論の機微を探る役割を担ってもらう。一方、人間の専門家にはAIの分析を批判的に吟味し、データだけでは見えない部分を補完する役割が求められるだろう。

さらに、有権者自身もAIを活用することで、より戦略的な投票行動をとることができる。たとえば、AIが提供する客観的な候補者分析や世論動向を参考に、自身の価値観に合致する候補者を見極めたり、接戦州での投票先を慎重に選択したりすることが可能だ。また、AIを活用して自分と似た属性を持つ有権者の動向を探ることで、仲間とともに投票行動を最適化することもできるだろう。このように、有権者とAIの協働は、個人の政治参加の質を高める可能性も秘めている。

図表5 AIによる予測と人間(専門家)による予測の主な違い
図表5 AIによる予測と人間(専門家)による予測の主な違い

選挙予測への期待が高まるAIだが、万能ではない。恣意的なデータ選択による偏りや、アルゴリズムの不透明さなど、倫理的な課題も指摘されている。選挙という民主主義の根幹を支えるプロセスに対し、AIがどこまで踏み込むべきか、慎重な議論が必要だ。

ゆえにAIの選挙予測は、従来型の調査手法を補完するツールの1つと位置付けることが重要だろう。立候補者の政策立案や有権者への訴求など、活用の場面は多岐にわたる。AIと人間が適切に役割分担し、互いの強みを活かしながら協働することで、選挙予測の精度と信頼性を高めていくことができるはずだ。2024年米国大統領選挙は、AIを活用した選挙予測の試金石となるのではないだろうか。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

政策調査部 主席研究員
専⾨分野: AI・資産運用・デジタル資産

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