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視聴覚AIがもたらすビジネス変革

~人間とAIが自然に会話できる時代の到来~

柏村 祐

目次

1.目と耳をもつAIとは

視聴覚AIとは、人間のように視覚と聴覚を備えた人工知能である。これまでのAIは主にテキストデータを処理することに特化していたが、視聴覚AIは画像や音声データも理解し、より人間に近い感覚で情報を処理することができる。たとえば、OpenAIが新たに発表した言語モデルは、テキストだけでなく画像や音声も受け入れることができ、より自然な対話を可能にしている。

この新しい言語モデル(通称GPT-4o)は、テキスト、音声、画像、ビデオのあらゆる組み合わせを入力として受け入れ、それらを組み合わせて生成し出力することができる。音声入力に対しては、平均応答時間がわずか320ミリ秒と人間の会話スピードとほぼ同等の速さで応答でき、人間との自然なコミュニケーションを実現している。

こうした視聴覚AIの登場により、これまで人間にしかできなかった様々なタスクを自動化できるようになり、ビジネスに大きな変革をもたらすことが期待されている。

本レポートでは、視聴覚AIの最新技術動向を確認するとともに、それがビジネスにもたらす変革の可能性について展望する。

2.視聴覚AIの実態を示す16動画の概要

本節では、視聴覚AIが実際にどのような能力をもっているのかを示すため、OpenAIが作成し、その公式ホームページ上に提示されている16本の動画を事例として紹介する(注1)。これらの動画は、最新の視聴覚AI技術がどのように機能するのかを視覚的かつ聴覚的に体験できるものであり、2024年現在の技術の進展とその実用例を確認することができる。動画には、音声認識から画像解析、さらには複合的な情報処理を行う事例まで幅広く網羅されており、視聴覚AIの多様な応用可能性を感じ取れる。特に、動画内で示される技術の具体例は、ビジネスにおける活用方法を模索している企業や研究者にとって非常に参考になるだろう(図表1)。

図表1 視聴覚AIの活用を紹介する動画と内容
図表1 視聴覚AIの活用を紹介する動画と内容

3.動画の詳細を見てみる

視聴覚AIの能力を具体的に理解するために、本節では3つの注目すべき動画を取り上げる。これらの動画は、AIが日常生活やビジネスシーンでどのように活用されているかを具体的に示している。

まず、「サルとイムラン・カーンによる数学の議論」では、父親であるサルが息子イムランに数学の問題を解かせるため、AI家庭教師を利用する様子が描かれている。AI家庭教師はイムランに適切な質問を投げかけ、ヒントを与えながら彼自身で答えを導き出すよう促す。イムランはAIの助けを借りて、三角形の各辺の名称(対辺、隣辺、斜辺)を理解し、サインの公式を使って問題を解決することに成功する(図表2)。

図表2 AI家庭教師と会話しながら問題を解いていく様子
図表2 AI家庭教師と会話しながら問題を解いていく様子

次に、「BeMyEyesとの連携」では、視覚障害者が視覚障害者支援アプリ「BeMyEyes」を通じて、AIガイドから視覚情報を提供してもらう様子が紹介される。バッキンガム宮殿の上空に掲げられた王室旗から国王の在宮を説明し、宮殿前の池でアヒルが泳ぐ様子をリアルタイムで音声によって伝える。また、男性がタクシーを探す場面では、AIガイドがオレンジ色のライトを点灯したタクシーを発見し、男性にタクシーを止めるよう指示して無事に乗車できるよう支援する(図表3)。

図表3 視覚障害者がAIガイドと会話しながら行動する様子
図表3 視覚障害者がAIガイドと会話しながら行動する様子

最後に、「顧客サービスの概念実証」では、男性がAIアシスタントに不具合のある新しいiPhoneの交換手続きを依頼するシーンが描かれる。AIアシスタントは男性の代わりに事業会社に電話をかけ、オペレーターに状況を説明する。オペレーターは注文番号を確認し、返品手順と配送ラベルを男性にメールで送ることを約束する。AIアシスタントはオペレーターに男性のメールアドレスを伝え、男性にメールが届いたことを確認する。この一連のプロセスを通じて、AIが顧客サービスの効率化に大いに役立つことが示されている(図表4)。

図表4 AIアシスタントがオペレーターと話す様子
図表4 AIアシスタントがオペレーターと話す様子

4.視聴覚AIがもたらすビジネスへの変革

以上の事例から明らかなように、視聴覚AIは様々な場面で活用され、人々の生活やビジネスに大きな変革をもたらす可能性を秘めている。特に、AI家庭教師の事例からは、AIが個々の学習者に適した指導を行うことで、教育の質を向上させられることがわかる。また、視覚障害者支援の事例からは、AIが障害者の日常生活をサポートし、社会参加を促進する役割を果たせることが示唆される。さらに、顧客サービスの事例では、AIが人間に代わって顧客サポートを行うことで、業務の効率化と顧客満足度の向上を同時に実現する可能性が明らかになった。

視聴覚AIの活用が想定される分野は多岐にわたる。図表5は、主要な分野における視聴覚AIの活用方法と将来展望をまとめたものである。

図表5 視聴覚AIの主要な活用分野と将来展望
図表5 視聴覚AIの主要な活用分野と将来展望

これらの動画から明らかなのは、視聴覚AIが単なる技術的なブレークスルーではなく、社会のあり方そのものを変える力をもっているということである。教育、医療、顧客サービスなど、あらゆる分野でAIが人間の能力を拡張し、新しい価値を生み出す可能性がある。特に、AIが人間の感覚や感性を理解し、きめ細かなサポートを提供できるようになったことは、画期的な進歩だといえる。

ただし、AIの活用にはリスクも伴う。AIが人間の仕事を奪うのではないかという懸念や、AIに依存しすぎることで人間の能力が低下するのではないかという危惧もある。また、AIによる差別や偏見の助長、プライバシーの侵害など、倫理的な課題にも注意が必要である。

したがって、視聴覚AIを活用するには、技術的な側面だけでなく、社会的・倫理的な側面にも十分に配慮しなければならない。AIと人間がうまく協働し、お互いの長所を生かしながら、持続可能な形でビジネスを変革していくことが求められる。企業は、AIを単なるコスト削減の手段ではなく、イノベーションを創出するための戦略的なツールとして位置づけ、積極的に活用していくべきである。

同時に、AIと向き合うための環境整備として、以下のような取組みが必要である。まず、教育現場においてAIリテラシーを向上させるためのカリキュラムを導入し、学生がAIの基礎知識や倫理的な考え方を身につけられるようにすることである。次に、企業内でのAI活用に関するガイドラインを設定し、社員がAIを適切かつ効果的に利用できる環境を整備することである。さらに、政府にはAIに関する法整備を進め、プライバシーや安全性に配慮しながら、AIの社会実装を後押しする施策を打ち出すことが求められる。加えて、AIの研究開発に従事する機関は、倫理的な課題について継続的に議論し、責任ある形でAI技術を発展させていく必要がある。

社会全体で、ビジネスにおけるAIのあるべき姿を模索し、新しい時代に適応していくことが肝要である。視聴覚AIは、人間がAIと真剣に向き合うための重要なきっかけとなるだろう。AIの登場は、人間の能力を拡張し、新たな可能性を切り開く一方で、私たち自身のあり方を根本から問い直す契機にもなる。AIとの共生を通じて、人間は自らの役割や価値観を見直し、より豊かな社会を築いていくことができるだろう。

【注釈】

  1. OpenAI HPより
    https://openai.com/index/hello-gpt-4o/

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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