ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

「居場所」と「寛容」

~地域社会における人間関係のあり方~

稲垣 円

目次

1.「居場所」の普及

「自分の居場所がある(または、居場所がない)」。私たちは日常生活で何気なく「居場所」という言葉を使う。職場や学校、自分の住まいや自分の部屋といった空間をイメージする人もいれば、家族や共通の趣味を持つ友人、同僚、同級生といった人との関係性をイメージする人もいるだろう。

「居場所」については、社会学、教育学、心理学等の領域で研究が行われており、それぞれの目的によって定義が異なる(注1)。本稿ではその詳細は述べないが、大別すると、居場所は物理的な場所だけでなく心理的な側面が注目されるようになり、他者との関係性の有無によって自己の存在確認ができる「場」(社会的な居場所)と、一人になることで自分自身と向き合い、自己の存在が確認できる「場」(個人的な居場所)に分けられる。

日本では近年、カフェ、食堂、コミュニティスペース、コワーキングスペースなどの多様な形態をとりながら、子育て支援、高齢者の交流・福祉、若者・子どもの居場所、障害者福祉、アート、まちづくり等、多様なニーズに応えるよう地域に開かれた「まちの居場所」という場が増えている(注2)。加えて、米国の社会学者R.オルデンバーグが提唱する「サードプレイス」という概念を用いて、居場所を説明したり、この概念をもとに場を設置したりするケースが見られる。サードプレイスとは、「ファーストプレイス」としての家庭や「セカンドプレイス」としての職場や学校だけでなく、誰でも気軽に入ることができ、心理的にも開放された場を指す。しかし、単にもう一つの場があればよいというわけではない。そこで誰かと気軽に落合い、会話すること、特定の人だけのものでなく、誰もが制限されることなく入ることができ、心地良くくつろぐことができ、存在そのものが許容されるような場を意味する。まちの居場所であれ、サードプレイスであれ、自身の存在が許容されているという実感がもてること、またそのような場が身近にあると思えることは、生活者の暮らしの質だけでなく、まちの魅力を高めることにもつながる。

では、生活者はこうした「居場所」についてどのように感じているのだろうか。

本稿では、前稿「何が『地域愛着』を育てるのか」(2023年6月発行)で使用した、自分の住む地域に対する主観をたずねる設問のうち、「自分の居場所がない」に着目する(注3)。なお本設問では、物理的な場所を持っているかは問わず、あくまで回答者の主観をたずねている。

2.誰が「自分の居場所がない」と感じているのか

図表1は、「自分の居場所がない」という設問について、全体、性年代別に示したものである。性別で見ると、男性の方が女性よりも高い割合を示している。年齢別では男女共に、年齢が若いほど「居場所がない」と回答する割合が高く、年齢が上がるほど低くなっている。男性の20、30代では35%を超え(20代35.5%、30代36.9%)、女性も20代33%、30代31.8%と、若い層の約3分の1が「自分の居場所がない」と回答している。

若い層については、学生で一人暮らしをしていたり、就職や転勤を機に縁のない地域に越してきたりした人、また中堅に差し掛かり仕事にまい進していることが考えられる。日常生活の大半を職場や学校(またアルバイトなど)で過ごし、地域との関わりをもつきっかけやそもそもそのような時間もなく、居住地は「寝に帰る場所」でしかないのかもしれない。そうした機会や時間の不足が居住地域に「自分の居場所」感をもてないことと関連しているのではいかと推測される。

図表1
図表1

3.地域の寛容と居場所

先に、居場所について物理的な場所だけでなく心理的な側面があることを述べた。社会的にせよ、個人的にせよ、「自分の居場所がある」と思えるかどうかは、当事者が自己の存在が確認できる実感をもてるかどうかがカギとなる。では、居住する地域(あるいは地域住民)がもつ地域特性は、「居場所」感に影響をもたらすのだろうか。本稿では、自己の存在を肯定的に捉えることを阻害するであろう、地域の寛容さを測る6項目を設定し、設問に対し「自分の居場所がない」(または、感じていない)と感じている人が、それら項目にどのように回答しているか分析を行った。

結果をみると、「自分の居場所がない」と感じている層(横棒グラフ緑色)は、居場所があると感じている層(横棒グラフオレンジ色)と比べ、地域の寛容についても否定的に捉える傾向にあることがわかる。その差をみると、「そう思う」は5ポイント以上、「どちらかと言えばそう思う」は20ポイント以上である。全体の割合と見比べてもその差は明確である(図表2)。

「自分の居場所がない」と感じている人の中には、地域に古くから根付く考え方や慣習、また個人のジェンダーアイデンティティへの理解に対して、何らか違和感や引っ掛かり、いまひとつ信じられないといった想いを抱え、そのことが地域に「自分の居場所がない」と感じることにも影響を及ぼしている可能性がある。

図表2
図表2

4.「居場所」より前に、必要なこと

本調査結果から、居住する地域において「自分の居場所がある」という実感には、地域に根付く考え方や人間関係に関わる課題も関連していることが示唆された。つまり生活者の間に無意識に共有されている価値観や行動規範が、社会の変化に合わせて見直し、更新されているかが問われていることでもある。

しかし「寛容」とは難しいものである。本来、自分とは異なる意見、価値観を容認することであるから、「あなたの考えは間違っているから、改めるなら認める(そうでなければ認めない)」というのは寛容とは言わない。他者を強制的に変えようとするのは寛容ではなく、不寛容が起こすことである。そのため、本研究で用いた6つの設問についても、こうした考えを改めるべきだと強要することはできない。そういう考えもあるのだと許容するか、許容できなければ自分の考えを説明し理解を促す。相手が寛容であれば理解を示してくれる、あるいは、理解しないまでも「そういう考えもあるよね(あなたの考えは尊重する)」と許容するはずであるから、互いに寛容な状態が保たれることになる。許容できなければ距離を置く、ということもあるだろう。

とはいえ、人は知らないことに対して不寛容になりやすい。万人が万人に対して寛容であることは不可能である。では、どうすればよいのか。

少なくとも、自分の譲れないものや大事なものがあるように、他者にも同じように譲れない、大事なものがあることを慮ること、変化する社会情勢や多様な価値観や境遇をもつ人に思考停止せず向き合い、考え続けなければならないだろう。

自分の存在を確認できる「居場所」があると思えることは大切であるが、それ以前に、地域の中にこうした環境をつくることにこそ、一人ひとりが注力しなければならないのではないか。

【注釈】

  1. 1990年代初頭から顕在化した子どもの社会問題、特に「登校拒否・不登校」について、学校が子どもにとって精神的に安心できる場所(心の居場所)であることの必要性が指摘されたことから、物理的に居場所が作られるようになり、研究も急速に増えた背景がある。
  2. 物理的な場の設置という意味で言えば、日本では地域コミュニティの持続的な運営のために機能する地域の集会・交流拠点は、戦後に整備された公民館や1960年代後半から各地で設置されたコミュニティセンターなども含めるとその歴史は古い。その役割は社会教育的な機能から、人びとが寄り集まって活動するようなコミュニティ機能が求められるようになり、さらには官ではカバーできない社会ニーズを汲み取った分野(高齢者福祉、若者・子どもの居場所、障害者福祉、アート、まちづくりなど)において、草の根的に交流空間づくりが行われるようになり、今日まで発展している。
  3. 本稿では、当研究所が実施してきた生活定点調査の一部を活用している。調査概要は以下の通り。
    調査名:「第12回ライフデザインに関する調査」、実施日:2023年3月3日~5日
    調査対象:全国の20~69歳の男女個人10,000人、調査方法:インターネット調査

【参考文献】

  • Oldenburg, Ray (1991). The Great Good Place. New York: Marlowe & Company(=忠平美幸訳、マイク・モラスキー解説「サードプレイス― コミュニティの核になる『とびきり居心地よい場所』」みすず書房2013年)
  • 石本雄真、齋藤誠一「中学生の生活が居場所感に与える影響について」神戸大学発達科学部研究紀要,14(2):1-6,2006.
  • 石本雄真「居場所概念の普及およびその研究と課題」神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,3(1):93-100,2009.
  • 石本雄真「こころの居場所としての個人的居場所と社会的居場所-精神的健康および本来感、自己有用感との関連から-」カウンセリング研究,43(1):72-78,2010.
  • 稲垣円「何が『地域愛着』を育てるのか」2023年6月
  • 一般社団法人スマートシティ・インスティテュート「地域幸福度(Well-Being)指標」
  • 加藤敦也「子どもの居場所の多様な解釈に関する試論『居場所』スタッフへのインタビュー調査から」日本オーラル・ヒストリー研究,13:151-170,2017.
  • 坂倉杏介、醍醐孝典、石井大一朗「コミュニティマネジメント つながりを生み出す場、プロセス、組織」中央経済社、2020年.
  • 杉本希映、庄司一子「『居場所』の心理的機能の構造とその発達的変化」教育心理学研究,54:289-299,2006.
  • 西川絹恵「『居心地』と『居場所』の概念の検討」中京経営紀要,17(1),2021.
  • 中島喜代子、廣出円、小長井明美「『居場所』概念の検討」三重大学教育学部研究紀要,58:77-97,2007.
  • 森本あんり「不寛容論 アメリカが生んだ『共存』の哲学」新潮選書、2020年.

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 客員研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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