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フレームワークAIの衝撃

~メリットデメリット分析、SWOT分析を行うAIの可能性~

柏村 祐

目次

1.フレームワークとは

ビジネスにおいてフレームワークとは、考えを整理するための枠組みのことである。ビジネスにはスピードが求められる。優れたアイデアが浮かんだとき、迅速に商品やサービスを世の中に出すために、フレームワークを知り、適切に活用することが有効となる。

フレームワークを活用できれば、膨大な情報から役立つものを抽出でき、思考を整理するスピードは上がり、大幅な時間短縮が可能となる。ビジネスフレームワークには、メリットデメリット分析やSWOT分析など多くの種類がある。

メリットデメリット分析とは、事業を巡る状況・コンセプト・製品の長所と短所を洗い出し、比較検討する手法である。この分析手法を用いると、自社の長所や短所を考慮することにより、より多くの情報を把握したうえで意思決定することができる。また、SWOT分析とは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字を取った、自社の経営やマーケティング戦略に使われる戦略分析ツールである。組織の内部環境の強みと弱み、外部環境の機会と脅威を洗い出すことにより自社の現状を把握することで、戦略立案に役立てることができる。

いずれも企業の企画部門やマーケティング部門等で用いられることが多く、分析者が膨大な情報を整理し分析するというプロセスが採られている。だが最近ではテクノロジーの進歩に伴い、手法に関する専門知識がなくても、これらのフレームワーク分析を実施できるAIが登場している。

本稿では、そのフレームワーク分析AIについて概観し、その可能性について解説する。

2.フレームワークAIとは

フレームワークAIとは、ビジネスにおいて新しい事業を開始する際や、新商品に関するマーケティングを行う重要な判断を行う上で、AIが判断材料を自動生成してくれる仕組みである。最新のフレームワークAIが自動生成する内容は、メリットデメリット分析、SWOT分析、複数選択肢分析に大別される。

ここからはフレームワークAIが生成するメリットデメリット分析、SWOT分析、複数選択肢分析の能力について「カフェを始める」というテーマをもとに検証を試みてみよう。

まず、前提条件として自分自身の現在の職業やキャリアについての情報を入力する。そして、「カフェを始める」ことについて、フレームワークAIのメリットデメリット分析に入力したところ、その事象の長所と短所が自動生成された。フレームワークAIは、「高い初期費用とカフェ市場での競争を考えると、最終的な決定を下す前に、このオプションの調査を続けることをお勧めします」というまとめ文章を生成した。また、フレームワークAIは、メリットとして「顧客関係の強化」「成長の可能性」「新しい才能を引き付ける」を、デメリットとして「初期費用が高い」「競争」「時間のコミットメント」を挙げ、これらの各項目について説明文章を生成した(図表1)。

図表1
図表1

次に、フレームワークAIのSWOT機能を利用して「カフェを始める」ことを分析してみた。SWOT分析は、物事のフレームワーク分析の判断材料となる強み、弱み、機会、脅威の4つのカテゴリー毎に要因分析をフレームワークAIが自動生成する。その結果として、「カフェを始めることは絶好のチャンスですが、リスクも伴います。慎重に進め、思い切って挑戦する前に潜在的な課題に備える必要があります」というまとめ文章が生成された。また、フレームワークAIが自動生成するSWOT分析は、強みとして「経験豊富」「市場についての知識・財源」を、弱点として「カフェ経験不足」「時間のコミットメント」「競争」を、機会として「成長の可能性」「革新的なアイデア」「ロケーションアドバンテージ」を、脅威として「なじみのない規制」「スタートアップコスト」「成功の不確実性」を項目として挙げており、それぞれの項目について完結でわかりやすい文章が生成された(図表2)。

本来、SWOT分析は、市場動向等の外部環境と自社リソース等の内部環境を統合的に分析する手法である。事例で示したように、現時点のフレームAIによるSWOT分析では、内部環境について簡易的な情報しか入力できないシステムになっている。今後、更なるSWOT分析結果の精度向上実現のためには、ユーザーが詳細な情報を入力できるシステムを整え、自社の環境に応じた精度の高い分析が求められるだろう。

図表2
図表2

最後に、複数選択肢分析では、「カフェを始める」とういう選択肢の他に「コーヒー豆を売る」選択肢を加えてフレームワークAIを試みた。複数選択肢分析では、選択肢を1つに限定せずに、想定される複数の選択肢に対する分析をフレームワークAIが行ってくれる。まず、前提条件として自分自身の現在の職業やキャリアについての情報を入力する。その結果、概要として「あなたのバックグラウンドと現在の状況を考えると、コーヒー豆の販売は、必要な資本が最小限で、リスクが低く、迅速な収益を得ることができるため、最良の選択肢です」という回答が自動生成され、フレームワークAIは、2つの選択肢のうち「コーヒー豆を売る」ことを推薦してきた。また、フレームワークAIが自動生成する複数フレームワーク分析は、「財政的展望」「市場の展望」「時間の視点」「スキルの視点」「リスクの観点」を項目として挙げており、補足説明として完結でわかりやすい文章が生成された(図表3)。

図表3
図表3

3.フレームワークAIの可能性

以上のように、フレームワークAIは、自分自身が判断を行う際に参考となるメリットデメリット分析結果、SWOT分析結果、複数フレームワーク分析結果を文章としてわかりやすく可視化してくれる。

ビジネス環境が激しく変化する中、意思決定スピードを速めることの重要性が増している。膨大な情報から自分自身で必要な情報を抽出してフレームワーク分析を行うには相応の労力と時間がかかるが、フレームワークAIを活用すれば、新しいビジネスにいち早く挑戦することできるかもしれない。また、専門知識を持つ人しか対応できないと思われている分析手法であっても、その多くを近い将来AIが代替できるようになることが示唆される。

テクノロジーの進化に伴い登場したフレームワークAIは、意思決定に必要となる材料をAIが自動生成してくれる。ビジネスにおいて人を支援する第二の頭脳として、今後さらなる進化が見込めるだろう。未来を見据えれば、高度化するフレームワークAIは、ビジネスの現場において誰もがフレームワーク分析を行える世界を創り出すことにつながるのではないだろうか。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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