幸せ・well-beingのためのユニバーサルデザイン

~生活者も「デザイン」の担い手に~

水野 映子

目次

「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」という言葉が日本で普及し始めてから数十年が過ぎた(注1)。にもかかわらず、それらの取り組みが進んでいないと感じている生活者は直近の調査でも半数を超えており、そもそもユニバーサルデザインという言葉の意味を知らない人も4割近くいる(注2)。そこで本稿では、ユニバーサルデザインの意味を改めて確認したうえで、日本でそれを進めることの意義と課題について考える。

1.ユニバーサルデザインで「デザイン」するものは?

ユニバーサルデザインという概念は、1980年代にアメリカのロナルド・メイスによって提唱された(注3)。日本では、2000年代に入った頃からこの言葉が政府の白書や辞書などに登場し始めている(前掲注1)。ユニバーサルデザインについて紹介した国内の資料等をみると、現在でもメイスらによる「すべての人にとって、できる限り利用可能であるように、製品、建物、環境をデザインすること」という定義(注4)や、「ユニバーサルデザイン7原則」(図表1)がしばしば引用されている。

図表1
図表1

建築家でもあったメイスらによるこの定義や7原則は、製品・建物・空間など物理的なものをデザインするというイメージが強い。だが、日本におけるユニバーサルデザインの取り組み事例をみると、情報・コミュニケーションや人的なサービスなど、そのイメージが必ずしも当てはまらないものもある。そこで、「ユニバーサルデザイン」とは何かについて考える前に、まずは「デザイン」とは何かについて改めて考えてみよう。

日本語の「デザイン」や英語の「design」という言葉を辞書で引くと、どの辞書にもまずは「図案」「図面」「設計図」「模様」など、あるいはそれを考えることという意味が載っている。たとえば、衣服やインテリア、建築物などの「デザイン」がこれに相当する。

一方、辞書によっては、物理的な対象に限定しない「構想」「立案」「計画」などの意味も掲載されている(注5)。「ライフデザイン」「キャリアデザイン」の「デザイン」は、この典型例である。つまり形のないものも「デザイン」の対象に含まれる。

そう考えると、「ユニバーサルデザイン」も、有形の製品や設備だけではなく、無形の情報・コミュニケーションやサービスなども含め、多様な人が暮らしやすくなるよう社会のあり方を「構想」「立案」し、実現することだとも解釈できる。実際、日本で進められているユニバーサルデザインに関する取り組みの中にも、この意味でとらえられるものが少なからずある。

2.なぜユニバーサルデザインの視点が必要なのか? ~日本と世界の潮流の中で~

①超高齢化への対応

では、なぜこれまでユニバーサルデザインの視点が必要とされてきたのか。また、なぜ今後も必要なのか。

日本でこの考え方が普及した大きな要因の一つは、急速な高齢化である。周知のように、高齢者の人口そのものも、それが総人口に占める割合(高齢化率)も、これまで増え続けてきた(図表2)。ユニバーサルデザインの概念がまだあまり知られていなかった2000年の高齢化率は17.4%だったが、2022年には30%に迫っている(注6)。

図表2
図表2

高齢者の中には、介護を必要とする人や何らかの病気・障害を持つ人が少なくない。たとえば、介護を必要とする人(要介護者・要支援者)の数は年々増え、2020年度末現在で682万人、全人口の5%以上を占めている(注7)。また、要介護の前段階ともいえる「フレイル」やさらにその前段階の「プレフレイル」と呼ばれる状態にある人も含めると、日常生活を送るうえで何らかの支障が生じている人や、近い将来生じる可能性の高い人の数はさらに多い。

このような状況になることは以前から予測されていたため、高齢者を社会全体で支える基盤づくりが長年おこなわれてきた。2000年4月に公的介護保険制度が開始されたのは、その流れの一環である。一方、介護・看護などを必要とする人専用の用具や、福祉・医療の施設・サービスだけでなく、一般向けの製品・設備・サービスなどを皆にとって使いやすくするという観点で、ユニバーサルデザインの考え方も取り入れられてきた。

前出の図表2に示した通り、高齢化は今後も進むと予測されている。それに伴い、要介護者や病気・障害のある人、その予備軍といえる人もさらに増えるだろう。その中で、誰もが暮らしやすい社会をハード・ソフトの両面で「デザイン」するというユニバーサルデザインの視点は、今後ますます重要になると考えられる。

②D&I・SDGsの具現化

一方、世界的な動きに目を向けると、国連では「障害者の権利に関する条約」が2006年に採択された。日本は2007年にこの条約に署名、2014年にこれを批准している。またそれに伴い、国内では「障害者差別解消法」(2016年施行)などの法整備も進められた。このような動きの中、障害者をはじめとする人々の権利を守るという観点でも、ユニバーサルデザインの考え方は重視されてきた。

また、障害の有無・年齢・性別・国籍などの多様性を受け容れ、認め合うというダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の考え方が日本で広がってきたことも、その考え方と親和性のあるユニバーサルデザインの推進を後押ししてきた。さらに近年では、持続可能でよりよい世界を目指す「SDGs(持続可能な開発目標)」が注目されるようになった。このSDGsの「誰一人取り残さない」という理念を具現化するためにも、すべての人が暮らしやすい社会を目指すユニバーサルデザインの取り組みの必要性が増している。

3.ユニバーサルデザインをめぐる今後の課題

①一人ひとりがユニバーサルデザインの「担い手」に

では今後、ユニバーサルデザインの取り組みを進めるうえで、どのような課題があるのだろうか。

前述のように「デザイン」の概念を広くとらえれば、「ユニバーサルデザイン」は、皆にとってより良い製品や施設、コミュニケーション・情報やサービスなどをどう構想し実現するか、さらにはそれらをどう活用するか、という意味にもとらえられる。すなわち、製品・施設や情報・サービスなどを提供する側はもちろん、それを使う側である生活者も、ユニバーサルデザインの担い手(デザイナー)ということになる。

誰もがいつかは年をとり、心身の機能が低下する。若くても病気・障害のある人や、病気・障害とまではいかなくても何らかの不便さ・不自由さを感じている人もいる。たとえ自分は生活に支障がなくても、身近な人が介護や看護を必要とする状況になることもある。自分や周りの人、そして社会全体の幸せ・well-beingを高めるには、他人事でなく自分事として、誰もが暮らしやすい社会を「デザイン」する必要があるだろう。

②取り組み事例の認知度の向上

ところで、冒頭で述べたように、ユニバーサルデザインに関する取り組みの進捗を実感できない生活者が多い理由は、実際に進捗していないということのほかに、たとえ進捗していてもそれを知らないということも考えられる。

現に、ユニバーサルデザインの視点から工夫や配慮がなされているものがあっても、その認知度が低いために活用されていないことはよくある。身近な例でいえば、シャンプーやボディソープの容器には、それらを触覚で区別するための印がつけられている。この工夫は、視覚障害者が利用する際だけでなく、それ以外の人が眼鏡・コンタクトレンズを外して入浴する際や、目をつぶって洗髪する際などにも便利なはずだが、必ずしも一般には知られていない。

それだけならまだしも、正しい使い方が認識されていないために、不便が生じたり、その意義が損なわれたりしていることもある。車いす使用者用の駐車スペースやトイレを必要とせず、かつその意味も理解していない人が、むやみにそれらを使うことにより、必要とする人が使いたいときに使えない、という例がそのひとつである。

これらのように、生活者の認知を図る必要があると思われる事例については、今後のレポートでも取り上げていきたい。

【注釈】

  1. 詳細は以下に記載。
    水野映子「バリアフリー・ユニバーサルデザインは進んだのか ~『誰でもいつでもどこでも』暮らしやすい社会を~」2022年7月

  2. この調査結果については注1のレポートで紹介している。原典は以下。
    内閣府「令和3年度 バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書」2022年3月

  3. 川内(2001)は、メイス自身の言葉として、メイスが「はっきり文章にユニバーサル・デザインという言葉を使ったのは1985年」としている。
    川内美彦「ユニバーサル・デザイン バリアフリーへの問いかけ」学芸出版社、2001年

  4. ノースカロライナ州立大学 ユニバーサルデザインセンター「ユニバーサルデザイン7原則
    Version 2.0-4/ 1/97」の日本語訳(https://www.kenken.go.jp/japanese/research/hou/topics/universal/7udp.pdf)より引用。「ユニバーサルデザイン」の定義は、正確には「すべての人にとって、できる限り利用可能であるように、製品、建物、環境をデザインすることであり、デザイン変更や特別仕様のデザインが必要なものであってはならない」である。

  5. 例えば、以下の下線部がこの意味にあたる(下線は筆者が加筆)。他の辞書では下線部以外の部分に類する意味しか掲載されていない場合もある。

  • 小学館『デジタル大辞泉』の「デザイン」:「①建築・工業製品・服飾・商業美術などの分野で、実用面などを考慮して造形作品を意匠すること。②図案や模様を考案すること。また、そのもの。

    ③目的をもって具体的に立案・設計すること。」

  • 大修館『ジーニアス英和辞典 第6版』(2022年)の「design」(名詞):「①(服などの)デザイン、(建物・機械などの)設計、(芸術作品などの)構想 ②(建物などの)設計図、図面③模様、図案、デザイン 

    ④意図、計画、構想」
     

  1. 総務省「人口推計」によれば、2022年11月現在の高齢化率(概算値)は29.0%。
  2. 厚生労働省「令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)」による。

水野 映子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。