ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

Withコロナの地域コミュニティ

~変化する生活者の意識、地域活動のこれから~

稲垣 円

目次

各地で「3年ぶりの開催」という言葉と共に、この夏から秋にかけて祭事をはじめとする地域行事、地域活動が本格的に再開している。

当研究所では、2020年から5回にわたり「新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」(注1)を実施し、中でも2020年9月実施(第3回)~2022年9月(第5回)の3回では「地域活動」の実態を調査している。本稿では、2年半の地域活動の変遷に着目し、今後のあり方について考察する。

なお、本調査では「地域活動」を、居住する市区町村で行われる活動(町内会や自治会、地域の清掃美化にかかわる活動、防犯・防災活動、地域の学校での活動、公民館やコミュニティセンター等での活動、地域住民向けの研修やサークル、レクリエーションのイベント等)としている。

1. 経年で見る地域活動の実施状況

図表1は、過去1年間の地域活動の実施状況についてたずねた結果である。上段に赤字で示す、地域活動を「何らか実施」している(「1年前よりも実施頻度(実施回数や時間)は減った」「1年前と変わらない」「1年前よりも、実施頻度(実施回数や時間)は増えた」の合計)の割合は、全ての活動において6割を超えた。過去2回の調査において、特に地域住民が交流、体験等を通じて親睦を深める「集合型」の活動(「お祭り、体育祭、文化祭などの地域イベント」、「地域住民と一緒に身体を動かしたり、スポーツをする講習会」、「地域住民と交流できる場所(サロン等)」)は、「中止または延期」する割合が半数を超えていたが、今回の調査結果では大幅に減少し、全体の傾向としては再開しているとみてよいだろう。

この結果について、感染拡大初期(2020年9月)から直近(2022年9月)の経年でみるとわかりやすい。図表2は、「中止または延期」のみを取り出し、経年変化を示したものである(赤字は2020年9月と2022年9月の結果の差)。全ての活動で「中止している(または延期の発表がされている)」割合は低下していることがわかる。特に「お祭り、体育祭、文化祭などの地域イベント」(41.9ポイント差)、「地域住民と一緒に身体を動かしたり、スポーツをする講習会」(34.7ポイント差)の変化は大きい。感染対策やワクチン接種が普及したことや、対策をした上で地域活動を実施することが定着しつつある、あるいは実施することへの抵抗が薄れた結果と考えられる。

図表1
図表1

図表2
図表2

2. 直接対面や時短実施が主流

ではWithコロナにおいて、各地域活動はどのように実施されているのだろうか。

図表3は、図表1で「何らか実施」していると回答した人に対して活動の実施方法をたずねた結果である。実施方法については、対面/オンライン、回数や参加者数、時間の調整といった観点からたずねた。

結果をみると、「全員が直接対面で実施」と「時間を短くして実施」の2つの方法が主流であることがわかる。時間を短縮しても、回数や参加者数を調整するのではなく、従来地域で行われてきた全員が直接対面で行うスタイルが採用されている。新型コロナウイルス感染拡大以降、音楽ライブやコンサート、ビジネスセミナー等のオンライン配信(あるいは対面とのハイブリット)が相次いて行われたが、地域活動では、オンラインや回数を増やす等の実施する側に負担がかかる方法が用いられるケースは少なかったようだ。

図表3
図表3

3. 今後の地域活動実施に「否定的」な割合が増加

次に、地域活動に対する「今後の意向」について経年変化を確認する。

図表4・5は、地域活動に対する「今後の意向」について、実施に意欲的な回答「感染対策をした上で、感染拡大以前と同じ頻度で実施してほしい」と否定的な回答「実施しなくてもよい」を取り上げ、2020年9月(第3回)、2021年9月(第4回)、2022年9月(第5回)の経年による生活者の意識の変化を示した結果である。

図表4(意欲的な回答の経年変化)をみると、2020年9月(第3回)時点での割合が最も高く、1年後(2021年9月)には大幅に減少、直近の2022年9月ではほとんどの活動において微増していることがわかる。感染者数でいえば、2022年9月(第5回)実施時の方が深刻な状況であったが、先述の通り、Withコロナが常態化したことで2021年9月(第4回)の結果よりは意欲的な割合が高まったことが推測される。しかし、2020年9月と2022年9月の差(赤字)でみると、全ての活動において、意欲的な回答割合が下がっている。2年前の感染拡大が始まった2020年9月の状態には人びとの意欲は戻っていない。

図表4
図表4

一方、否定的な回答の結果は、意欲的な回答と真逆となった(図表5)。経年でみると、全ての活動において「実施しなくてもよい」と回答した人の割合が増え、2020年と2022年でみると全ての活動で20ポイント以上の差がついている。

図表5
図表5

第4回調査結果を基にした当研究所レポート「2年の自粛が地域にもたらしたもの」(2021年11月)において、筆者は地域活動の実施に「消極的」「否定的」と回答する割合が増えている傾向について、感染拡大が長期化し感染を回避する生活様式が常態化したことにより、一部の生活者にとっては地域活動が行われないことも常態化し、地域への帰属意識の低下や住民間関係の希薄化を招くのではないか、と述べた。今回の調査結果でもその傾向は変わらず、地域への帰属意識や住民間関係の希薄化は今後さらに進むのではないか、という懸念は強まっている。

4. 地域活動のこれから-住民が地域に関わるには

地域住民の自発的な協力や参加の程度は、その地域の文化や歴史的な背景によって異なる。住民の協力の効果として、地域の環境整備や防犯、公衆衛生などの面で、行政の介入なくコストを抑制できる可能性があるといわれる。しかし、このような地域の結束の強さは、別の側面からみれば「同調圧力」ととられ、否定的に見られることもある。特に現代において、個人の生活や行動に影響が出るほどの共同体へのコミットは好まれないだろう。では、適度なバランスを持って住民が地域に関わるにはどうしたら良いのか。

地域活動は、子どもから大人まで、住民が一緒に取り組むこと自体が、その地域の維持につながるものである。他方で、図表5に示したように、地域の文化・習慣の象徴であるお祭り等の地域イベントでさえ、今後の実施に否定的な回答は増えている。「当然行われるべきもの/参加すべきもの」という従来の位置づけはもはや難しいのかもしれない。「何のための活動か」「それは誰のための活動なのか」といったことに対して、奉仕や貢献という名目だけでない意味付けをすることで、住民が納得感をもてるものにしていくことが必要だろう。

また、関わりやすさの創出という点も課題が多い。自分の住む地域に深く関わることはわずらわしさも伴う。単身や居住年数が短ければ「自分のまち」という意識ももちづらい。他方、テレワークなどオンラインで仕事をしたり、学ぶことが普及し、居住地やその近隣で過ごす時間が増えた人もいる。地域社会に対するニーズも変化しているはずだ。その人なりの関わり方ができる「入口」をどう創るか、試行錯誤する視点も欠かせない。たとえば危機意識を共有しやすい防災などの観点から参加を促したり、仕事や住民同士の交流ができる場をつくったり、近隣住民とやりとりしやすいコミュニケーションツールを導入したりするなど、時代に、そしてWithコロナの暮らしに合わせた方法を地域で見つけてほしい。

地域社会は多種多様な考え方をもつ人が集まり構成されている。年齢や経験もさまざまだ。何かしようとする時に、快く協力する人もいれば、現状を変えたくないという人もいる。そしてコロナ禍では、誰もが他者との接触を避けねばならず、その結果、多くの人が地域活動から遠ざかってしまった。こうした状況が地域にどのような影響をもたらすか、すぐには表れてこない。その前に、改めて地域活動を捉え直し、ゆるやかにでも地域のつながりが創出される取り組みが求められる。

【注釈】

  1. 第1回~5回調査の概要は以下の通り。

図表6
図表6

【参考資料】

  • 第一生命経済研究所「『第5回 新型コロナ生活調査』よりコロナ禍の影響を総括【速報】」2022年9月
  • 稲垣円「2年の自粛が地域にもたらしたもの~感染拡大の長期化は、生活者意識にどのような影響を与えたのか~」2021年11月
  • 稲垣円「コロナ禍での地域活動の実態、人びとの意識~集合型の活動は、依然として半数が中止。 感染対策を『できるなら、やりたくない』人にどのように向き合っていくか~」2021年9月
  • 稲垣円「模索する、地域活動の行方」2021年1月

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。