Withコロナの地域ブランディング(1)

~関わり続けたくなるしくみをつくる(岩手県花巻市)~

稲垣 円

目次

2021年6月18日に「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」が閣議決定された。基本方針では、コロナ禍が地域経済や住民生活に大きな影響を及ぼしていることを踏まえたうえで、①地域が自らの特色や状況を踏まえて自主的・主体的に取り組めるようになること、②都会から地方への新たなひとやしごとの流れを生みだすこと、が目標として掲げられている。今のところ新型コロナウイルス感染症は国内では落ち着きを見せているが、新たな変異株の登場により感染拡大は一進一退の状況ともいえる。

こうした中でも、さまざまな方法を模索しながら、地域の魅力を知り、価値を高めてくれる担い手を増やそうと地域内外とコミュニケーションを取り続けている自治体の動きもある。そこで本稿と次稿の2回にわたって、自治体の取り組みを紹介するとともに、これからの地域ブランディングのあり方について考察する。

1. 関係人口とはいうけれど・・・

近年、地方創生の戦略の一つとして「関係人口の創出」が挙げられる。

「関係人口」とは、「何らかの形でその地域に関わってくれる人」「特定の地域に継続的に多様な形でかかわる人」と言われ、観光等で訪れ地域とほとんど関わらない「交流人口」や、移住した定住者を表す「定住人口」でもない、観光以上・定住未満の中間的な概念として使われる。先の「まち・ひと・しごと創生基本方針」においても、地域課題の解決や地方移住の裾野の拡大につながる人材として創出や拡大が目指されている。とはいえ、いつ感染拡大が落ち着くのか見えない中で、地方自治体にとってはどのようにして人が地域とかかわるきっかけをつくり、そうしてできた関係を維持することができるのかが目下の課題となるだろう。

岩手県花巻市では、4年ほど前から地域ブランディングの施策の一部をオンラインのプログラムに切り替えて進めていた。コストを抑えたいという理由もあるが、何より「花巻市との接点を増やしたい」というのが大きな理由だ。オンラインを活用することで参加の間口を広げること、何より「花巻市は面白い」と思ってもらい、さらに「関わりたい」という参加と行動を促す仕掛けをつくることが必要になる。

こうして2017年に始まったのが、市民ライターが独自の目線で花巻の魅力を発信するローカルメディアWebサイト「まきまき花巻」、そして2020年から始まった「花巻JAMセッション」だ。

2. わたしだけが知っている、花巻のいいところ

まきまき花巻」(注1)は、花巻市の魅力や取り組みを発信するローカルメディアだ。ローカルメディアは全国に数多あるが、「まきまき花巻」の特徴は、プロのライターが花巻の魅力を紹介するのではなく、すべて「市民(市民ライター)が書く」という点だろう。原則「花巻が好き」であれば誰でも市民ライターになることができる。文字数に制約はなく、原稿が直されることもない。市民ライターは「自分だけが知っている、花巻のいいところ」を思い思いに書くことができる。もちろん、最初から書き慣れている人はいないので、定期的に「書き方講座」が開催され、基本的なスキルを身に付けていく。しかし、重要なのは記事のうまさではない。書くことを通じて、花巻の良いところを見つけよう、紹介したいと市民が自発的に動くきっかけを作り、新たな花巻の魅力を発見し、ライター自身がさらに花巻に対しての愛着を深めていくサイクルが作られていくことだ(注2)。

こうして「書き仲間」が増えていくと、市民ライター同士が助け合い、互いに配信された記事を読んで感想を伝え合うなど、書くことだけでない人と人の関係性が生まれる。サイトを見て、実際に花巻に訪れる人もいる。

プロではないけれど、花巻の魅力を知る市民が「わたしの好きな花巻」を大いに語り紹介するというスタイルが、ありふれた観光案内とは違う面白さや味わい、「訪れてみたい」という興味を掻き立てるのだろう。 

写真 1 「まきまき花巻」サイト
写真 1 「まきまき花巻」サイト

写真 2 書き方講座の様子
写真 2 書き方講座の様子

3. 困りごとは、一人で解決しない

もう一つのユニークな取り組みが「花巻JAMセッション」だ。

地域住民にとってありふれた、あたりまえのモノ、無駄だと思っていたモノ、扱いに困っていたモノは、他者からみれば、珍しく、面白い、宝の山のように見えることもある。「花巻JAMセッション」は、地域課題や価値を見出されていない休眠資産について、花巻市民と花巻市外から集まった参加者が有効な活用方法を一緒に考え対話(セッション)するオンラインイベントである。

セッションの中で盛り上がり、プロジェクトとして花巻で実装したいという申し出があれば「地域おこし協力隊」制度を活用して、実践者となることもできる。地域おこし協力隊と言えば、既に決まっている活動テーマに応募する方法や、協力隊応募者が企画提案して審査される方法があるが、「花巻JAMセッション」では、地域内外のセッション参加者が一緒に考える。活動する側になっても、それをサポートする側に回っても構わない。

2020年度は、9月~12月まで計6回のセッションを開催し、延べ80名ほどが参加した。参加者の中から実際に2名が花巻市の地域おこし協力隊として就任し、すでにプロジェクトを始めている。協力隊にならないまでも、セッションへの参加を通じて参加者同士が親しくなり、実際に花巻を訪ねる者もいるという。(2021年度も9月から開催しており、昨年を超える参加者となっている)

何百、何千人が参加する大事業ではないが、参加をきっかけにこれからも幾度も花巻に通うであろう一過性でない関係性が生まれている(注3)。

写真 3 花巻 JAM セッション
写真 3 花巻 JAM セッション

4. 地域に関わる人を増やし、地域に関わる意欲を持続させる

花巻の2つの事例は、規模は小さいながらも「花巻に関わり続けたい」という人を確実に増やす事業に成長している。その要因は、花巻の魅力を伝えたい市民ライターや花巻の地域課題の解決や活性化に関わりたい人、という形で参加者の立ち位置を明確にし、活動を促すための枠組みと出口を設定したこと(WEBメディア、地域おこし協力隊としての活動など)にある。そして、花巻市民を担い手の中心に据え、市外からくる人の関わりどころをつくり、アイデアを呼び込む仕掛けや活動する側・支える側の関係が作られるしくみを構築している点が挙げられるだろう。

そしてデジタルの活用である。それは、参加の間口を広げ、密なコミュニケーションを可能にする。さらに出来上がったモノだけを披露するのではなく、途中経過も含めプロジェクトの進捗を逐次共有することができる。リアルの代替としてのデジタルではなく、きっかけを作り、つながり続けるための主要なツールとして活用することがポイントになっている。

数年前までは、大きな予算をかけてイベントを仕掛け、映像コンテンツをつくってメディアの露出を狙った話題づくりを行うなど、地域の認知を高めようと多くの自治体が取り組んできた。しかし、その後実際にお金をかけてまでその地域を訪れてくれるかには不確実性が伴い、感染拡大以降はより一層厳しい状況にある。これからの地域ブランディングは、コロナ以前のやり方に戻すのではなく、新たな方途を試しながら地域の資源や魅力を再確認し、またそれを高める取り組みを進めていくことが必要になるのは間違いないだろう。これまで以上に、目的や対象の明確化、そして担い手の自発的な活動を促す設計が重要になっていくのではないだろうか。


【注釈】

1)https://makimaki-hanamaki.com/ 2019年にはグッドデザイン賞を受賞している。

2)シビックプライドとも言う。自身が地域のまちづくりにかかわっているという責任感を持つこと。シビックプライドを持つ市民が増えると、積極的にまちづくりがなされ、観光振興にプラスに働くと考えられている。

3)オンラインで対象とする人に向けて告知や集客しようとする際のパートナー選びも重要だという。今や自治体プロモーションを担う企業は多数あるが、その中でも花巻市が情報を届けたい相手に確実に届くルートや手法を持っている企業、さらに一方通行なやり取りにならず目標に向かって互いに協力し合える関係性が築ける相手と取り組めることが重要だったと担当者は語っている。

【参考文献】

・内閣府地方創生推進事務局「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」2021年6月.

・稲垣円「地域の中で、関係をつくる② ~11年目の『地域おこし協力隊』~」2019年7月.

【関連レポート】

・稲垣円「Withコロナの地域ブランディング(2) ~独自のコンテンツをアップデートする(鹿児島県大崎町)~」2022年1月

稲垣 円

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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