暮らしの視点(16):(続)独身男女の恋愛・結婚観

~他国を上回る「相手からのアプローチ」重視の姿勢と恋愛への躊躇~

北村 安樹子

目次

非婚・晩婚化の背景には、多様な要因が関連していると思われるが、出会いから恋愛・交際・結婚への発展プロセスをめぐる問題もその1つではないだろうか。別稿(注1)で指摘したように、日本の独身男女の「恋愛に対する考え」には次のような特徴がみられ、それらがこの問題に関連している可能性がある。その1つは「気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」という人に比べ「相手からアプローチがあれば考える」とする人の方が男女とも多いことであり(注2)、もう1つは「恋愛は面倒だと感じる」や「恋愛することに自信がない」といった躊躇をあげる人が一定の割合を占めていることである。

本稿では他国の調査結果との比較から、これらの傾向が日本の独身者で顕著にみられる特徴であることを紹介し、その背景について考えてみたい。

1.日本では男女の双方が重視する「相手からのアプローチ」

内閣府がおこなった調査では、配偶者のいない人に対し、恋愛・交際や家族形成に関する意識をたずねている。その結果からは、独身男女の多くは結婚の意向をもつものの、出会いや経済状況を含む様々な理由から結婚に至らない状況があると考えられること、独身期というライフステージの自由度への積極的な評価の一方で、恋愛・交際に苦手意識をもつ人も一定の割合を占めていること、ライフコースや価値観が多様化するなかで、結婚や恋愛は必ずしも必要ではないという意識が拡がっていること、などの傾向が確認される。

また、この調査で独身男女の恋愛をめぐる考え方をみると、「相手からアプローチがあれば考える」とした人が女性では55.4%に及び、男性(43.5%)とともに、いずれも最も多くあげられている(図表1)。これに対して「気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」とした人は男性が17.3%、女性では8.5%と、先にみた「相手からアプローチがあれば考える」とした人に比べいずれも大幅に低い。このような傾向は、日本の独身男女だけにみられる特徴なのだろうか。

図表1
図表1

2.他国と比べても顕著な「相手からのアプローチ」重視の姿勢

他国の調査結果をみると、「相手からアプローチがあれば考える」を選択した独身者(配偶者・同棲者のいない人)は、日本の男性43.5%、女性55.4%に対し、フランスでは同12.9%、11.6%、ドイツでは同18.8%、21.2%、スウェーデンでは同47.8%、29.5%となっている。日本女性の55.4%は4か国中最も高く、男性(43.5%)に関してもスウェーデン(47.8%)にはやや及ばないものの、フランス(12.9%)やドイツ(18.8%)を大きく上回る第2位となっている。

これに対して「気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」を選択した人は、日本では男性17.3%、女性8.5%と、男女とも4か国のなかで最も低い。このような考えをもつ日本の独身女性は10人に1人を下回り、フランスの約半数、ドイツやスウェーデンの3分の1以下ということになる。

これらの結果から、「気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」とした人の少なさや、「相手からアプローチがあれば考える」とした人の多さは、日本の独身女性で特に顕著に確認される回答傾向といえる。また、日本では「相手からアプローチがあれば考える」とした人の割合が男女の双方で高い点も特徴的である。このような考えをもつ人の多さから考えて、日本の男女には恋愛や交際に関心をもつ人自体は少なくないものの、自分からアプローチのアクションを起こす人が少ないことや、そのような行動を起こしにくい状況があることなどが、独身男女間の恋愛やカップル形成を難しくしている面もあると考えられる。

3.「恋愛は面倒」「恋愛に自信がない」の双方が多い日本

また、日本の独身男女では、「恋愛は面倒だと感じる」「恋愛することに自信がない」をあげた人が男女とも3割前後を占める。このうち「恋愛は面倒だと感じる」については、男女ともフランスやドイツを大きく上回っている。一方、日本では「恋愛することに自信がない」をあげた人が他の3か国を上回り、恋愛に煩わしさを感じている人と、自信のなさを感じている人の双方が他国に比べ多い傾向がみられる。

「恋愛することに自信がない」という考えをもつ人が他国に比べ多いことは日本の男女において特徴的な傾向であり、非婚・晩婚化という観点からみた場合、「相手からアプローチがあれば考える」とする人が多い傾向との関連性や、その背景が注目される。他国に比べ「いつも恋愛していたい」という人がかなり少なく「恋愛することで人生が豊かになる」とする人がそれほど多くないために、このような機会が他国に比べ生じにくいと考えられること、学卒後の出会いの場として大きい職場や仕事を通じた恋愛・交際が、アプローチにかかわる行動やその媒介を含めて、以前に比べ難しくなっていることなども、このような傾向に関連するのではないだろうか。

【注釈】
1)北村安樹子「暮らしの視点(13) 独身男女の恋愛・結婚観~男女がともに重視する「相手からのアプローチ」2021年9月。
2)このような傾向に関し、前回報告書では「強い受け身の姿勢である」との解釈がなされている(松田茂樹「第3部 調査結果の解説 第1章 交際・結婚」内閣府『平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告書(全体版)』2016年3月)。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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