ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

50代男性の「つながり」とセカンドキャリア意識

~セカンドキャリアは「つながり」から~

的場 康子

目次

1.社会変化への適応力が問われる50代男性

新型コロナウイルス感染拡大により、テレワークをはじめ、オンラインでのコミュニケーションが普及するなど働き方が大きく変わった。これまで長く出社勤務を続けていた中高年社員にとっては特に、新しいワークスタイルへの適応力が試されている。また、経済的なダメージを受け、不採算事業の撤収などにより事業再編を進める過程で、人員削減を余儀なくされる企業も多く、50歳以上を対象に早期退職を募る企業も増えている。

他方、少子高齢化、長寿化が進み、年金支給開始年齢の引き上げ、年金給付水準の抑制が必至と言われている中で、定年退職後も働き続けることが必要な人も多いことだろう。したがって、多くの人にとって、50代は定年退職を迎えるにあたり、あるいは定年という概念がない生活をも見据え、このまま可能な限り同じ会社で働くのか、別の会社に転職をするのか、起業に向けて準備を始めるのか、職業人生の新たなステージへの挑戦を準備するターニングポイントであるといえよう。

職業人生の新たなステージであるセカンドキャリアを社会変化に対応しながら自分らしく生きるためには、自分の強みを生かせる仕事、あるいは自分がやりたい仕事は何かを考えて前向きに挑戦する気持ちが重要になる。セカンドキャリアの充実には、これまでの職業人生での経験が大きく影響を与えるものであるが、それは仕事内容のみならず、会社以外でのプライベートの活動や人とのつながりを含めた様々な経験も含まれると思われる。

こうした観点から本稿では、50代男性正社員2,000人を対象に実施したアンケート調査(注1)により、50代男性がこれからの職業人生(セカンドキャリア)をどのように考えているか、「会社以外の活動やつながり」との関連に注目して、50代男性のセカンドキャリアに対する意識について考える。

2.夫や父親としての役割がアクティビティを後押し

まず、会社以外にプライベートで何らかの活動をしている人は、50代男性の中でどのくらいいるであろうか。

現在の勤務先以外に何らかの定期的、定例的に活動する場がある人(以下「アクティビティをしている人」)の割合は、50代男性の31.7%である(図表1)。残りの約7 割は、「特になし」と回答しており、何らかのアクティビティをしている人の方が少数派である。婚姻状況別にみると、未婚者よりも既婚者の方がアクティビティをしている人の割合が高く、さらに既婚者の中でみると、子どもなしの人よりも子どもありの人の方が高い。

図表1
図表1

妻や子どもがいる人は、日々の生活において「夫」や「父親」など複数の役割を果たす中で、会社以外の活動にも目を向ける機会があるものと思われる。実際、アクティビティの具体的な内容をみると、既婚者では「地域やコミュニティでの活動(町内会や自治会を含む)」や「ボランティア活動」に参加している割合が未婚者を大きく上回っている(図表2)。

さらに既婚者の中でも、子どものいる人の方がいない人よりも多くの活動で参加割合が高いが、とりわけ「地域やコミュニティでの活動(町内会や自治会を含む)」では差が大きい。既婚者、特に子どもがいる人は、子どもの年齢が小さい場合には子育てに忙しく、自分がアクティビティをする時間が取れないという人もいると思われるが、他方、家族などからの影響を受けて地域での活動に参加している人も多いようだ。

図表2
図表2

3.アクティビティをしていない人も半数はその重要性を認識

しかも、アクティビティをしている人の大多数はその重要性を認識している。アクティビティをしている人のうち、「自分の勤務先企業以外でも、自分が活躍できる場を設けること」を「重要」(「重要である」と「やや重要である」の合計、以下同様)と回答している人が70.0%に及んでいる(図表3)。

他方、アクティビティをしていない人でも、半数以上は「重要」と認識していながらも、実際には実施できていない。地域社会での活動など、家族の影響を受けてアクティビティに参加する人が多いものもある。他方、スポーツ系の活動や文化系の活動、副業・プロボノなど勤務先以外での仕事などの参加割合は、婚姻状況や子どもの有無による差が小さい。人々のライフスタイルが多様化している中、社員が希望通り幅広い活動ができるよう、企業も創意工夫を行い、社員の活動の場を広げるための支援を考えることも必要なのではないか。

図表3
図表3

4.アクティビティをしている人はつながり意識・満足度が高い

アクティビティをしている人のさらなる特徴は、つながり意識や人との交流に対する満足度が高いことである。「年齢、性別、職業、経験など自分と異なる人とつきあいたい」や「一度できたつながりは大切にしたい」と思っている人の割合(「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計)は、アクティビティなしの人でも6~7割を占めているが、アクティビティありの人では8割前後と高い割合である(図表4、図表5)。また、人との交流(つながり)に対して満足している人の割合(「満足している」と「やや満足している」の合計)も、アクティビティをしていない人でも約6割を占めているものの、アクティビティをしている人の方がさらに高く7割以上である(図表6)。

勤務先以外にも活動の場を持つことは、多様な人々との交流を可能にし、それを大切にして生活をすることが、さらに人との交流を促進させ、満足度にもつながるのではないかと思われる。

図表4
図表4
図表5
図表5
図表6
図表6

5.つながり満足度は前向きなセカンドキャリア意識を後押しする

また、人とのつながりに満足をしている人は、50代以降のセカンドキャリアに自信をもって前向きに挑戦しようとしている人が多い。

50代以降も「これまでの経験を活かして、より難易度の高い仕事に挑戦すること」についてどのように思うかをたずねたところ、「実現する必要はない」の回答者は1割以下である(図表7)。多くの人は挑戦する必要性を感じていないわけではないが、実際、挑戦する「自信がある」人(「実現する自信がある」と「やや実現する自信がある」の合計、以下同様)は少数派で、「実現できそうもない」人(「あまり実現できそうもない」と「実現できそうもない」の合計)が半数以上を占めている。

図表7
図表7

こうした中、人との交流に対する満足度に注目し、「自信がある」人の割合を満足度別にみると、人との交流に満足している人では40.5%であり、不満である人の19.7%を大きく上回っている。「自分のやりたい仕事に挑戦すること」についても同様の傾向である。人との交流に満足している人では、不満である人に比べ、自分のやりたい仕事に挑戦することに「自信がある」と回答した人の割合が高い(図表8)。

全体でみると、50代男性は必ずしもセカンドキャリアに挑戦する自信をもっている人は多数派ではない。そのような中で、人とのつながりに満足している人に注目すると、意欲的なセカンドキャリア意識を持っている人が少なくないことがわかる。自分の勤務先以外に活動の場を持つなど、日ごろから仕事以外の生活においても活躍の場を広げ、多様な人々との交流をもつことが、セカンドキャリアにも前向きに挑戦する意欲を高めることにつながることがうかがえる。

図表8
図表8

6.企業が社員に対するつながり支援を図ることも大事

これからの「人生100年時代」、50代は折り返し地点に過ぎない。50代を迎えても、その先の人生を見通し職業生活を考えることが必要である。その先の職業人生を前向きに生きるためには、働く個人一人ひとりが勤務先以外の活動にも目を向けて、多様な人との交流を大切にすることが重要であることが本調査の結果からも示された。

ただし、活動の場を広げようとしても、個人の努力だけでは限界があると思われる。会社としても、週休3日制や副業支援など多様な働き方のメニューを揃え、社員が勤務先以外でも活躍できるようサポートすることも必要である。

また、2021年4月からは70歳まで就業機会を確保することが企業の努力義務となり、就業機会確保の選択肢の一つに、「事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入」が挙げられている。これからは企業としても、地域社会に目を向けて社会貢献活動に積極的にかかわることが求められる。企業が地域の課題解決のために役割を果たすことが、社員が多様なつながりをもち、充実したセカンドキャリアを築くための後押しにもなるのではないか。

的場 康子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

的場 康子

まとば やすこ

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: 子育て支援策、労働政策

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