インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

内外経済ウォッチ『アジア・新興国~米ドル安が進む背後で 「実態的な」人民元安は進んでいる~』(2025年8月号)

西濵 徹

目次

市場の米ドル安で人民元相場は緩やかに上昇

金融市場は米トランプ政権の政策運営に翻弄されている。同政権は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の縮小を目的に関税政策を用い、同時に相手国との協議によるディール(取引)を仕掛けている。他方、中国は報復措置に動いたため、米中は互いに報復を応酬させて高関税を課し合う貿易戦争に発展した。その後、スイスでの閣僚協議を経て互いに報復関税を撤廃した上で、相互関税の上乗せ分を90日間停止し追加協議を行うことで合意した。なお、その後も紆余曲折が続くも、英国での追加協議を経てあらためて合意が確認されるなど、米中関係は最悪期を過ぎつつある模様である。しかし、一連の協議では、中国にとってレアアース(希土類)が交渉の『切り札』であることが浮き彫りとなるなか、その扱いが米中関係の行方を左右する展開が続くものと予想される。

なお、米中関係の改善が期待される背後で、金融市場は米国の政策運営に左右されている。米トランプ政権は所得減税・歳出法を成立させるなど財政悪化が懸念されるほか、米FRB人事に介入する向きもみせる。結果、米ドル安が加速しており、人民元の対ドル相場は緩やかに上昇している。ここ数年の米ドル高局面においては、過度な人民元安を警戒する中国当局が金融緩和に『及び腰』の姿勢をみせてきたものの、足元においてはそうした状況は大きく転換していると捉えられる。

図表
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「実態的な」人民元安は輸出下支えが目的か

金融市場での米ドル安を追い風に、人民元の対ドル相場は緩やかに上昇している。しかし、多くの通貨が米ドルに対して大幅に上昇しているにもかかわらず、人民元の上昇は緩やかなものに留まる。これは管理変動相場制の下、中国人民銀行(中銀)が日々取引の目安となる基準値を公表して変動が抑えられるなど、当局の意向が反映されやすい制度となっていることがある。結果、中国の主要貿易相手国の通貨に対する人民元の価値を示すCFETS(中国外為取引センター)人民元指数は調整の動きを強めており、足元では2021年初以来の水準となるなど、実態としては人民元安が進んでいる。

中国当局は、今年3月に開催した全人代において、米中摩擦の激化を念頭に米国『以外』の国や地域向けの輸出拡大を目指す方針を示した。足元の貿易動向も、対米輸出は大きく下振れする一方、米国以外の国や地域向けの輸出拡大により対米輸出減の影響を相殺する動きが確認されている。実態的な人民元安は、価格競争力の向上を通じて米国以外の国や地域向けの輸出を下支えしている。足元の中国景気を巡っては、個人消費をはじめとする内需が力強さを欠くなか、経済成長率目標実現のためには外需下支えが欠かせない。当面の金融市場では米ドル安が意識されやすい展開が続くなか、人民元相場を巡る特殊な事情も影響して実態的に人民元安が進み、外需を下支えすることが見込まれる。

図表
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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