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ここが知りたい『生産性を上げる3つの方法―分母分子ともう1つ』

重原 正明

目次

生産性とは効率である

人口減少が進む日本において、生産性の向上は重要な課題になっている。さまざまな観点から論じられてきた問題であるが、基本に立ち返ってシンプルに考察を加えてみたい。

生産性とは、生産物の量(価値など)を投入資源の量で割ったものであり、一つの効率指標である。生産性を見る際には、生産物(分子)に着目すると物的生産性や付加価値生産性といった概念が生まれる。また、投入する資源の種類(分母)に注目すると労働生産性、資本生産性、全要素生産性といった概念が生じる。また、生産物を量で測るのか価値で測るのか、投入資源、例えば労働力を人数で測るのか時間で測るのかといったように、分母分子の測定尺度によっても生産性の見え方は異なる。目的や状況に応じて、適切な分母分子とその尺度を選ばなければならない。

実際には、生産の過程ごとの生産性や、生産物の要素・機能に応じた生産性が考えられることもある。例えばバスの燃費効率(生産性)を考える場合も、高速走行の多い長距離バスと、発車・停止を頻繁に繰り返す街中の路線バスとでは、問題となる効率は異なるだろう。

効率を上げる方法:分母と分子

前述の通り、生産性は効率であり、生産物を投入資源で割ったものである。この計算方法から考えると、生産性を上げる方法は、「分子(生産物)を増やす」か「分母(投入資源)を減らす」か、基本的にその2つとなる。

経営上どちらがコントロールしやすいかというと、一般的には分子より分母である。分母は会社自身が投入の判断を行うものであるのに対し、分子は技術的な不確実性や市場の不確実性(売れるかどうか等)にさらされており、確実に増加させることは難しい。また、新しい商品や技術を必要とする場合には多くの不確実性を抱え込むことになる。さらに、分母への対策は分子への対策に比べ、労働力削減にしても自社株買い入れ等の資本政策にしても、一般的に即効性がある。

したがって、例えばROE(自己資本利益率、自己資本に対する当期純利益の生産性)の向上を株主に求められた会社が取る対策として、自社株買い等の、分母を減らす分母政策を取ることが目立つのも、理解できる話である。非効率・不採算な部門を切り捨てる「選択と集中」は一時流行語のように使われ、投資家にも支持された。

分母政策だけでは継続性の危機にも

しかし、分母だけを減らすのは容易ではない。分母政策は、多くは分子の減少や、分子拡大のための資源の減少を伴うので、ともするとゆるやかな縮小均衡に陥りかねない。会社単位では将来的な継続性が危ぶまれ、日本全体で見ても経済規模の縮小につながってしまう。

会社でも国家でも、分母政策を単純に行うのではなく、分母政策で解放された資源を新規の分野に投入するなどして、分子を増やす分子政策に結びつけることが重要だと考えられる。

分子政策にはゆとりが必要

一方、生産物を増やす分子政策は、根本的に生産性を高める行為といえる。しかし一般に即効性はなく、十分な時間が必要とされる。

また、先に述べた通り、技術や市場等の不確実性にさらされることが多く、十分な資本が必要となる。

このような長期の政策は、短期的に資本効率を下げることも多い。よって、分子政策については、基本的に1年を単位とする財務諸表制度の下、株主や投資家への丁寧な説明が必要となる。

無形資産の計上やサステナビリティ・人的資本などの開示の充実といった、会計面で分子政策が評価されやすくなる仕組みの整備は進んでいる。また投資商品、例えば投資信託の中には、投資先との対話等を通じて長期視点での投資を行うことを顧客にアピールするものも出てきている。分子政策は国単位での経済の拡大にもつながるものであり、この方面で関係者の努力が続くことを期待したい。

そしてもう1つ:どの生産性を見るか

生産性の計算方法を固定したうえで、生産性を上げる方法としては、分母政策(分母を減らす)と分子政策(分子を増やす)の2つしかない。しかし、生産性の尺度自体を見直すことも、実質的な生産性を上げる方法として挙げておきたい。

もちろん、結果をよく見せる(ドレッシング)ために基準を変えることは、本来の生産性向上にはつながらない。しかし、環境や事業内容が変わっていく中で、見るべき生産性が変わってくることは、往々にしてある。

例として電気回路の生産性(効率)を考えてみる。スイッチング電源回路は、直流電源の電圧を変え安定化する回路である。例えば80%以上の高い効率(入出力電力比)で電圧を変換する。

ところが、高効率のはずのスイッチング電源回路も、太陽電池に直結させると、太陽電池単体の場合に発電される電力の、半分以下の出力しか得られないことがある。

なぜ効率が悪くなるのか。その原因はスイッチング電源回路の動作原理にある。スイッチング電源回路は、入力を微細な時間でON/OFFして電力を調整し、減らした電力を望む電圧に変換し均すことで、一定の安定した電圧を出力する。本稿の用語で言えば、基本的に分母戦略(入力の制限)により高効率を達成する回路である。

入力がほぼ一定で、かつ入力を供給する側で制御できる電源に対しては、スイッチング電源回路は優れた回路である。効率も良く、熱になって失われる電力も少なく、回路も小型・軽量になる。家庭のコンセントから取る電力で、実際に消費される電力に応じて課金される場合には、効率の良さが電気代の減少につながる。

一方、太陽電池に直接スイッチング電源回路をつなぐと、スイッチング電源回路が入力を切っている間、太陽電池は休むことになる。そのため、単体で休みなく太陽電池を動かした場合の発電量に比べた効率は低くなる。つまり、分母政策を取る回路を直結すると、太陽電池の発電能力はフルに活用できない。太陽電池のスイッチング電源回路にコントロールされた発電量ではなく、単体での発電能力に対する効率を上げるには、入力が切られている間の発電分を貯めておく回路を付加するなどの手段が必要になる。

スイッチング回路は優れた回路だが、その効率の良さは入力と出力の電力の比で見た場合のものであり、どちらかというと火力発電などの出力制御が容易な電源に合った回路である。太陽光発電のような、出力制御が困難な発電施設、見方を変えると天から与えられたものを余すことなく活かすことが重要な発電施設に対しては、電圧変換回路の効率は、例えば発電能力に対する出力電力の比率で測るのが良いと思われる。

注目すべきは貴重な投入資源に対する生産性

環境や事業内容の変化に応じて、見るべき生産性が変わってくることの例を示した。それでは、どのような生産性に注目することが、生産性を真に上げるために重要なのか。

一般的には、分母となるもので考えると、必要とされる資源の中で、最も貴重なものに対する生産性を考えるのがよいと考えられる。またプロセスで考えれば全体の生産性を左右するプロセス、すなわちボトルネックとなるプロセスに焦点を当てるのが良いであろう。

分野によって異なるが、今後の日本では総じて人(労働力)とエネルギーが貴重な資源となるであろう。ITの活用は解決策の一つとなり得るが、生成AIの消費電力に関する問題などを見ると、トレードオフの関係が今後生じ、エネルギー効率の方が重要になるかもしれない。一方で、例えば土地に関する効率などは、全体的には重要度が減っていくことになるかもしれない。

本稿が皆様にとって、真の生産性向上を考える上での一助となれば幸いである。

重原 正明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

重原 正明

しげはら まさあき

総合調査部 政策調査G 研究理事
専⾨分野: 社会保障、リスク管理・保険数理

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