早稲田大学公開講座 早稲田大学公開講座

内外経済ウォッチ『日本~消費税率引き下げが家計に及ぼす影響~』(2025年6月号)

永濱 利廣

目次

盛り上がる消費税率引き下げの議論

平均的な4人家族世帯(有業世帯主、専業主婦、子供が2人)が負担する消費税の規模を試算すると、年間で約29.8万円になると計算され、可処分所得に占める割合は4.7%となる。しかし年収階層別に見ると、中間層になるほど可処分所得に対する負担率が上昇することがわかる。

消費税率が二桁に達するような諸外国では、消費税の逆進性を緩和するために、食料品等の消費税率を0もしくは非課税とする措置などがとられている。実際、世界の食料品の税率を見ると、イタリアやフランスは標準税率が20%台なのに対し、食料品は4~5%台に抑えられている。さらにイギリスやカナダ、豪州、韓国、台湾ではゼロもしくは非課税になっている。こうしてみると、食料品の税率を下げるというのはある程度現実的な選択肢といえる。

軽減税率免税で6.4万円/年の世帯負担減

こうした中、日本維新の会や立憲民主党からは食品にかかる消費税の軽減税率をゼロにすることが提案されている。一方、国民民主党や共産党からは消費税率の一律5%への引き下げが要求されている。

そこで、標準的な4人家族の世帯を考えると、年収階層別の負担軽減額は、消費税率の軽減税率を免税にすることで、年間6.4万円の負担減となり、可処分所得に対する消費税の負担割合は4.7%から3.7%までが下がることになる(平均年収世帯)。同様に年収 250~300万円の世帯では同4.8万円程度、年収1500万円以上の世帯では同8.2万円程度の負担減になり、可処分所得に占める消費税の比率はそれぞれ4.1%、3.7%からいずれも3.2%まで下がる。

更に消費税率を一律5%ポイント引き下げて5%にすれば、平均、250-300万円、1500 万円以上の世帯ではそれぞれ年間で14.1万円、9.9万円、28.5万円程度の負担減となり、年収に占める消費税の比率もそれぞれ4.7%、4.1%、3.7%から2.5%、2.2%、1.9%にまで下がることがわかる。

このように、消費税率の引き下げが家計に及ぼす影響は大きなものになる。したがって、消費税率の引き下げは、消費の拡大や企業売上の増加を通じて、景気の好転をもたらす可能性があろう。

軽減税率免税の財源≒標準税率2%引き上げ

ただ、8%の軽減税率を恒久的に非課税にするには5兆円の財源が必要となる一方で、消費税は社会保障財源として紐づいているという意見もある。しかし、2020年度当初予算に基づけば、消費税率を5%から10%への引き上げで確保される財源13.3兆円のうち、社会保障支出に紐づいているのは8兆円程度であり、残りの5兆円以上は政府債務の返済に回るとされている。したがって、この部分を使えば社会保障財政に直接影響は及ばないといえよう。 一方、消費税率を一律5%へ引き下げることで失われる税収は14兆円程度が想定され、こちらは財源の面で現実的とはいい難い。

なお、諸外国においては、標準税率が平均15%を超えているにもかかわらず、食料品の軽減税率が日本よりも低い国が多いことからすれば、日本も将来的には標準税率の引き上げと軽減税率の引き下げも検討に値しよう。ちなみに、今回の酒類・外食を除く食料品を軽減税率の対象とすれば、1%引き下げに際して 0.6兆円程度の財源が必要となる一方、標準税率1%引き上げで税収が 2.4兆円増えることになる。つまり、あくまで経済が過熱した段階ではあるが、標準税率を12%に引き上げれば、ネットで消費税収はニュートラルとなる。

従って、将来的に経済状況が許せば、標準税率の引き上げと軽減税率の免税化も検討に値しよう。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ